もう、ダメかもしれない
普通に産まれて、普通に育ち、普通に学校に通う、普通の大学生。
それが俺、天城八樹である。産まれてこのかた彼女いない歴十八年のモブだ。
名前持ちのモブなんて最近ではありふれているが、主人公に何か依頼するわけでも案内するわけでもない。
まず主人公は誰ですか。
「おーい。あんたがモブなのは知ってるから。ってか誰に自己紹介してんの?」
「どこかにいる読者サマ」
「今すぐ救急車呼ぼう」
俺の頭は多分逝かれていない。
俺は最初に言った通り、もうそこらにありそうでよく人違いされる顔。成績はそこそこ良いが、特筆しているというわけではない。
で、俺のモブさを認めたのが九重大地だ。元演劇部で、化粧をするとイケメンになる。化粧を落とすとモブに戻る。女は化粧で化けるというが、こいつもそうだと思う。
「ううん、僕は病院が来たほうがいいと思うよ」
「病院は歩けないからな」
で、こいつが人吉十哉っていう男。大事なことだから、もう一度言うけど、十哉は男だからな。生物学上では。
そういうのも、こいつが男の娘という特殊な人種だからだ。着る物は女物ばかりで、普通に似合うからタチが悪い。でもモブ。女顔のモブ。特別カワイイわけでも、綺麗というわけでもないモブ顔。
「失礼な。それと余計な一言が聞こえたぞ。モブなのは認めるが、それはお前らもだろーが」
「「それが何か?」」
「いや、モブは損得関係ないけど、イケメンってのは得するけど損する人種だなって」
「あー…あのゲームか」
「はいダウトー!っていうやつでしょ」
「あのCMだけでイケメンとダメンズは紙一重だと悟った」
「「それな」」
イケメンって人それぞれだと思いたい。実際に、アイドルだって好き嫌い分かれるんだし。
この談話室に置かれているテレビは、さっきまでのCMが明けてニュース番組が流れている。昨日見たアイドルの謝罪会見とか、脱税とか、結婚報道や離婚騒動とか。とにかくそんなニュースばかり。
こう言ってはなんだが、レポートの題材を探す時は教育系のほうがいいんじゃないかと思う。深夜の方が見つかりやすいけど。
「どうする?」
「地球環境っていえば、温暖化くらいしか思いつかない」
「酸性雨は?」
「あ、忘れてたわ」
「アレでしょ、銅像とかを溶かす雨」
「まあまあ合ってる」
正確に言うと「酸性の化学物質が混じって強酸性になった雨」なんだけど。
詳しく知らないのは俺も同じ。
だいたい、入学してまだ二ヶ月なのに、もうレポートの課題を出す方がおかしいと思う。
教科書を読んでくるっていう、お手軽で短時間で出来る課題ばかりだったのに。何を焦っているのか知らないが、突然だよ。突然のレポート課題ですよ。
「知っている地球環境について、自身の見解を述べよ」とか、地球環境について教科書以上のことを知らないのに。
俺と大地は日本史のほうもある。そっちはまだ時間があるからいいけど。
「俺たちってレポート書いたことないよな」
「小論文ならあるんだけどな」
「でも私立からの子たちはレポート書いたことあるって」
「おれたちが特殊なのか」
「いや、私立勢が特殊なんだ。俺たちは普通だ。モブだからな」
「「それ、理由にならない」」
俺たち三人がレポートを書くのは、今回が初めてになる。
参考になりそうな本とか、他の人に見せてもらったけど、小論文と何が違うのかさっぱり分からない。やっぱり高校とはワケが違う。高校まではただ問題を解けばいいだけだったのに。
「僕たちにはレポートの書き方から教えてほしいよね」
「なんかそういうゼミなかったっけ?おれは取ってないような…」
「いや、確か今度の金曜のゼミにあったはず。レポートの書き方については二週間後だけど」
「「意味ないじゃん」」
ちなみにこのレポートの締め切りは来週の月曜日なのです。今度の金曜のゼミの内容は【小論文とレポートの違い】だから………。
まあ、意味ないよね。
レポートの書き方も分からない。レポートの題材も見つからない。締め切りはもうすぐ近く。
ここまで来ると。
「…もう、ダメかもしれない」
諦めたせいか、絶望を悟ったせいか。現実逃避したくなった。
言っておくが、俺は厨二病でもなければ、妄想癖もない。イマジナリーフレンドとかもいなかった。そして睡眠障害もない健康体。
いや、大地と十哉もいる。こいつらも俺の夢の中の産物か。んなわけあるか。いやいやいや、そういや寒いんだけど。俺の想像力が怖い。
………で、なぜこんなことを言い出したかといいますと。
いきなり目の前に星空が広がっていました。
「「「なんでだぁあああああ!」」」
あれ?
十哉の地声の叫び声なんて久しぶりに聞いたかもしれない……。
こういうジャンルは初めてなので、後日設定のほうもあげます。