第9話 泣きたくなるよ、ホントに
GWを全て遊びに連れて行かされてしまい、その後も時間が取れず、だいぶ遅くなってしまいました。
続きをお待ち頂いた方々にお詫び申し上げます。
今後も週一くらいの更新になりそうな感じですが、生暖かい目で見守って頂けると助かります。
あれから暫く進み続けたが、相も変わらず石造りの廊下が続いていた。
廊下には窓が一切なく、天井も床も壁も、全部石で作られ、進行方向の左側にだけ、たまに木で出来た扉が付いていた。
今迄、特に気にしていなかったーーいや、気付いていなかったが、窓の無い廊下に照明らしき物が見当たらない……、なら、何故廊下が明るく見通せるのか??
不思議だった。壁や床が光っている訳でもなく、照明も見当たらない。
しかし、通路は光で満たされていた。
そして、もう一つ気付いたのは、明るい廊下に自分の影が無かった。
足を上げても、足の裏にすら影が出来ない……。
まるで、足裏にも光が照らされているみたいに……。
実際そうなのかもしれない。空気が部屋を満たすように、光が満たされている……。そんな感じだった。
あれから大分時間が過ぎているはずなのに、昼か夜かも分からない所為で、完全に時間感覚が狂っていた。
いったい今は何時なんだろう? あれから何時間経った??
時間が分からない事が、こんなに落ち着かない気分になるなんて思ってもみなかった。
せめて、携帯か時計でもあれば時間が確認出来るのに……。
携帯……自分の部屋のベッドの上に置きっぱなしだったな……。
ポケットに入れておけば持って来れたかもしれないけど、無い物は仕方ない……、仕方ないんだけど……。
ネット中毒とか携帯依存症ってやつか?
自分はならないだろうって思ってたが、携帯を持ってないってだけで落ち着かないーー。
今迄、色々あった所為で気にもしなかったのに、ちょっと余裕が出来たとたんこれだ。
いつも持っている物が無い、すぐに確認出来た事が確認出来ない……。
たったそれだけ、そんなどうでも良いような事が気になって気になって、落ち着かなかった。
それに、同じ様な廊下を歩き続けるのも、いい加減疲れてしまった。
最初の部屋から左壁沿いに歩き続けて、曲がり角は3回……、その全てが左折れの直角の曲がり角。
ルウの来た横道を除けば、他に道は無く、全て一本で繋がっていた。
つまり、もう一度左に曲がってしまったらーー考えたくはなかった。
そして、嫌な予感ほどよく当たる……。
暫く進むと、目の前に、左折れの曲がり角が現れた……。
「マジ……かよ……」
一気に疲労を感じる、出口を信じて歩き続けたのに、4回目の左への曲がり角……。
つまり……、ここを曲がれば……。
ハルトが最初にいた場所に戻ってしまうという事だった。
長い距離を歩いて来たから、本当に元の場所に戻るかは分からない。
しかし、左に4回曲がってしまえば、四角に繋がった廊下を一周しただけ、そう思えた。
廊下が左回りの渦巻き状になっているーー。
そんな可能性もあったが、現実的では無かった。
ここを一周するだけでも、数時間はかかってる。
部屋にベッドやら設置して、使える状態にしているって事は、管理する者もいるって事だ。
仮に渦巻き状に廊下を作ったら、一番奥まで行くのに半日か1日、もしくはそれ以上に時間がかかる。
誰が1日以上かけて奥の部屋を管理する?
ここが何処だか分からないが、部屋が放置されていない以上、四角く廊下が繋がっていると考えるのが妥当だった。
ハルト達は、曲がり角の手前で立ち止まっていた。
ここを曲がって、また廊下が続いているだけだったら……。
そう考えると、確認するのが嫌になった。
足が痛むのも、しんどいのも我慢して、ずっと歩いて来たのに、ただ一周しただけなんて思いたくなかった。
ルウだって、何も言わず付いてきてくれたが、俺と同じように疲れていると思う。
家と会社の往復以外、引き篭もりだったハルトは、この数時間歩いただけで足が棒の様になり、立っているのも辛い程に足裏が痛んでいた。
一度どこかで休みたい、そう思うが、この曲がり角の先を確認してからにするか、少し戻って扉を開けて部屋で休んでからにするか……。
ハルトには決められなかった。
だから、判断をルウに委ねた。
他人の意見を尊重する、そう言えば聞こえは良いが。
実際には違う。ただ自分で決められないだけ……、自分が判断の責任を負いたくないから、だから他人の意見を聞くふりをして判断を委ねる……。
でも、皆そうやって自分に嘘を吐く。
他人の意見も聞ける善い人を演じているのも自覚せずに、他人に判断を委ね、他人に責任を擦りつけて……。
ハルトも、そんな自覚は微塵も無いまま、ルウに全てを委ねた。
「ルウの意見が聞きたいんだけど、少し戻って、さっきあった扉の部屋で休んでから進むか、ここを曲がって次の扉見つけてから、そこで休むかどっちが良い?」
「? ……ハルトについてく」
「えっと、いや、ルウはどっちが良いのかなって……」
「ついてく……」
「…………」
ルウはハルトのジャージの袖口を少し摘みながら、ただ付いていくとだけ答えた。
ハルトは、自分で決められない……、決めたくないからルウに委ねたのに、ルウの反応を見て、これ以上聞けなくなって困ってしまう。
結局は自分で決めるしかなかった。
ハァっとハルトは深く溜息を吐いて、右手で頭を掻き毟る。
仕方なくハルトは決断する。
「じゃあ、もう少し進んで、次の扉見つけたら部屋で休もう」
ルウが頷くと、ハルト達は曲がり角を曲がって先へと進む。
そこには、見慣れた廊下が真っ直ぐ続いていた。
「結局、一周しただけかよ……。泣きたくなるよ、ホントに……」
自分の行動が無駄だったと感じた瞬間、さらに全身に感じる怠さや、足の痛みが強くなった気がした。
不幸中の幸いか、近くに扉があった為、ハルト達は疲れた体に鞭打って、その扉に向かった。
ハルトが扉を開くと、最初に目が覚めた部屋と同じ、ベッドとテーブル、2脚の椅子が置いてあるだけで、特に変わった様子の無い部屋が広がっていた。
ルウと出会ってから、扉を見つける度に中を覗くようにしていたが、今まで見てきた部屋は全部同じ様な造りと内装で代わり映えしなかった。
「同じ廊下に、同じ部屋ばかりーーホントに出口なんかあるのかな?」
ハルトは、誰に言うでもなく呟き椅子に座る。
「ルウがベッド使って良いよ。少し横になると良いよ」
ルウは、ベッドとハルトを交互に見ると、何も言わずにもう一つの椅子に腰掛けた。
「ベッド使わないの? 椅子よりベッドで横になった方が良いよ」
「ハルトと……一緒が良い……」
「いや、一緒てーー」
えっ? 一緒にベッドに寝たいって事??
いやいやいや、流石にそれは色々とマズイでしょ! というか、それは無いって!!
そう考えながらも、ハルトはルウと一緒にベッドに寝るのを想像して顔を緩ませていた。
だらしない顔だった……。
ーーいやいや、違うでしょ! 多分あれだ、一緒に椅子に座りたいって意味だろ?
まだ会ったばかりなのに一緒にベッドとか、ありえないだろ!!!
妄想しすぎだ、俺、ちょっと落ち着け!
ヒッ、ヒッ、ハァー。ヒッ、ヒッ、ハァー。
ハァー、ちょっと落ち着いた……。
ハルトは変な深呼吸で少し落ち着きを取り戻すと、これからどうするかルウと相談する事にした。
「ルウは疲れてない?」
「……だいじょぶ」
「これから、どうしよっか?」
相談では無かった……。ハルトはルウに丸投げな質問をしながら、ルウって「だいじょぶ」ばっかだけど本当に大丈夫なんだろうか? 無理してるんじゃないのかな? と考えながら、これからどうするか悩んでいた。
ルウは大人しく椅子に座りながら、ハルトをじっと見つめていた。
ハルトは、ルウに見つめられているのを気にしながら、視線を合わせられず部屋をキョロキョロと見回していた。
ルウって無口だよなぁ。話しかければ何か答えてくれたりはするけど、ルウからはあんまり話しかけて来ないんだよなぁ……。
何考えてるのかもよく分からないし……。
というか、記憶が無いからどうして良いのか分からないのか??
こんなの聞いた所で、多分分からないって言われるだけなんだろうなぁ。
もう足が痛くて限界だし、ここで少し休んで、それからどうするか決めよう……。
まぁ、戻っても仕方ないし、先に進むしかないんだけどね……。