第8話 ここにずっと居ても仕方ないし
ブクマ感謝です。
「ーーん……ぅ」
朦朧とした意識の中、冷たい床が左半身を冷やしている感触から、自分が横になって寝転んだ状態なんだと認識する。
そんな冷たさの中で、頭だけは温もりを感じていた。
それはとても暖かく、柔らかな感触で、すごく心落ち着く温もりだった。
もっとこうしていたいーーハルトは微睡みの中でそう考えていた。
そして、柔らかな温もりが何なのかを確かめたくなり、右手を頭の方に持っていこうとした。
右手は途中で何かに当たり、ふにゅっとした感触が伝わる。
「ーーんっ」
頭の上の方で声が聞こえた気がした。
同時に頭の下にあるものが少し動いたが、ハルトは右手の柔らかい感触の方が気になり、それを撫でて少し揉んでみた。
弾力のある柔らかさと温もりを感じながら、ハルトはふにゅふにゅとそれを触っていた。
この柔らかいの、いったい何だろう?
触る度に頭の下にあるものが少し動くのが気になり、ハルトはようやく目を開けた。
ハルトの目の前に広がるのはーー黒。
ん? 何だこれ? 黒?
夜にでもなった? ん? んー?
まだちゃんと目覚めていない頭で、ハルトは考える。
黒? クロ……。
あぁ、なんだ、これ黒い布かーー。
そう理解した後、ハルトは黒い布が自分の頭の下から目の前を通って上に繋がっている事を確認する。
右手も布越しに柔らかい物を触っているんだと認識した所で、不意に布の続く先、上の方へと目線を向けた……。
目が合う……、とても紅い真紅の瞳がこちらを見ていた。
紅い瞳……、黒い布? …………黒い……ふ……く?
も……もしかして……。
これって……、こ、ここ、これは、まさか!
膝枕じゃっ!!!!!
じゃ! じゃ! じゃあ!! 右手のはーー。
ゴクリと唾を飲み込み、冷や汗を感じながらハルトは右手の位置をゆっくりと確認した……。
ハルトの右手は………………。
お尻を触っていた……。
「だああああぁぁぁぁぁっ!!!!!」
ハルトは思いっきり叫んで飛び起きる。
あーーっ、やっちまったぁぁぁぁ。
おもっっっいっきりお尻触ってた!!!
俺のバカ! 俺のバカァァァ!!
あぁぁ、嫌われるーー絶対コレ嫌われるよ!
とッ……ととっ、とにかくすぐに謝らないと!!!!
「ご……、ごごご、ごめん!! ごめんなさい、私が悪うございましたぁ! お願いだから嫌いにならないでぇぇ」
ハルトは半分泣きそうになりながら、土下座してルウに謝っていた。
小さな女の子に土下座して謝る男性の図は、端から見てたらかなり情けなくて痛い光景だったかもしれない。
ハルトはルウに嫌われたくない一心で、ひたすら土下座で謝り続けていた。
そんなハルトにルウが声をかける。
「ハルト……だいじょぶそう……よかった」
てっ……天使かッッ!? 天使がいたッ!!
ハルトは心の中で叫んでいた。
あぁ〜、ええ子やぁぁぁ。
会社の女性だったら、絶対顔面パンチか頭を踏みつけてきてたわ……。
助かったあぁぁぁ。
「えっと、ごめんね、何か……色々と……」
落ち着いてもう一度謝ろうとして、さっきルウに膝枕してもらったうえにお尻まで触った事を思い出し、ハルトは少し顔を赤らめながら言葉も尻すぼみになってしまう。
「ハルトが無事なら……良い」
「ハ、ハハハ……」
ハルトは右手の人差し指で頬をポリポリと掻きながら、乾いた笑いで応えた。
な……何だろ、すごい罪悪感を感じるよ……。
でも、これが所謂ラッキースケベってやつか!
ラッキースケベ……もっと発生しないかな…、勇者召喚されて俺にも主人公属性ついたかな?
こんなイベントなら大歓迎です!!!!
それに、女の子って滅茶苦茶柔らかいんだな! 想像以上でした!! お尻でこれなら、胸だとどんなんだよ!!
ハァハァハァ……。
ちょっと妄想が暴走しすぎた……、少し落ち着こう……。
でもまぁ、何かすごいやっちまった感はあるけど、ルウが許してくれて助かったわー。
そういえば、俺って何で寝てたんだろ??
何があった??
たしか、何か急に頭がクラクラして……、倒れたん……だっけか?
貧血か何かか?
でも、貧血で倒れた事なんてないし……、というより今迄貧血になった事が一度もなかったと思う。
さっき急に初めて貧血になって倒れて気を失ったとか?
いやいや、そんな都合よく貧血になんかならないだろ。
じゃあ、何が原因だ?
そういや、ルウのステイタス見てすぐだったよな? 倒れたのーー。
他人のステイタス見ると倒れるとか??
さすがにそれは無いよなぁ〜。
ーーあっ!
もしかしてあれか?
多分これが一番可能性ありそうだ。
たしか俺の残りMPって1しかなかったよな?
それで能力鑑定使って、MP0になったから気絶したって事か?
あー、多分これだな。これが気絶の原因っぽいな……。
だとしたら、戦闘中にMP使い切った時点で死亡確定じゃないか……。
戦闘中に気絶なんかしたら、タコ殴り確定だし、もうどうにもならないよね!
まじやばかったー、これ、今気付いて良かったわー。
今後、気をつけないといけないなぁ。
しかし、ねぇ……。
ただでさえMP少なすぎるのに、0まで使うと気絶するとなると、さらに鑑定が使えない子になっちゃうなぁ……。
ホントどうしたものか……。
あっ、そうそう、名前の件もルウに謝らないとな。鑑定でフルネーム分かるって変に期待させちゃっただろうし。
「えっとーールウいいかな? さっきルウを鑑定したんだけど、あの……、ごめん……。ルウ以外の名前、分からなかったんだ。ホントごめんね。期待させちゃって……」
「……だいじょぶ」
だいじょうぶ、か。そう返してくれるのはありがたいけど、ルウって不安じゃないのかな? 自分の事も、ちゃんとした名前も、今いる場所も全然分からなくて、どうしてこんな平気そうな顔してるんだろ?
俺は、此処が何処か分からないだけで不安だし、怖いし、泣きそうな気持ちになるのに……。
でも、ルウは強いとは何か違う気がするーー。
何が違うって言われたらよく分からないけど、何か違うんだ……。何か……。
「ハルト? 次は、どうする?」
ルウにこれからどうするか聞かれて、ハルトは思考を中断し、ルウに返事を返した。
「んー、そうだなぁ。ここにずっと居ても仕方ないし、いいかげん移動しないとな。とりあえず左手の法則で行くなら、ルウが来た横道を進む事になるけど、ルウがこっちに来る迄に出口とかあった?」
「こっちしか……道なかった」
「ン? 道が無い? それって、向こうは行き止まりって事?」
ルウは頷き肯定を示した。
「行き止まりかぁ。ーーじゃあ、ルウの来た横道は無視して、真っ直ぐ進みますか。」
そう言ってハルトは歩き出し、ルウは後ろに付いていく。
ハルトは、すぐ後ろを付いてくるルウを置いて行かない様に、歩幅に気を遣いながら代わり映えのしない石造りの廊下を歩いて行った。