第35話 これ、どうしよう
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とりあえず街からは出られたんだけど、あの門兵の所為で気分は最悪だった。
出だしから気分悪いわ、しんどいわ、ダルいわで、折角の初依頼で上がってたテンションもガタ落ちしていた。
門兵もさぁ、もっと気持ち良く旅立てるように愛想良く出来ないもんかねぇ。
はぁ、冒険者組合の巨乳ちゃんだったら優しく『頑張ってください』とか『気を付けて行ってきてください』くらいは言ってくれるだろうに……。
裏門を出ると、畦道が西の方に向かっていて、北西側に草原が広がり、その奥に木々が生い茂る森が見えた。
もっと遠いのかと思ってたけど、裏門の目と鼻の先が草原だった。
森まで行こうと思えば、多分5分も歩けば着きそうな感じの距離感だ。
兎にも角にも、薬草を探す為には草原に入らないとな。
そう考えてハルトは草原に向かって歩きだす。
草原は、ハルトの膝下を隠すくらいの長さで、草を踏みしだきながら歩かないといけなかったし、草の中に何か居ても分からない状態だった。
もし何かあったら、すぐに逃げられる様に心構えだけはしておこうとハルトは考えていた。
「ここに、薬草あるんだよな? 何か草が邪魔で薬草が何処にあるのか全然分からないんだけど……」
草原に入ったばかりの位置で周囲を見渡すが、草が邪魔して薬草があるのかも分からなくて、少し途方に暮れる。
「これ、どうしよう……。草掻き分けてしらみ潰しに探すしかないのか?」
面倒だけど、やっぱしらみ潰しに探すしか無さそうだよなぁ。ハァーァ。
*******
ハルトが草原に入って、薬草を探し続ける事30分……。
無い! 無い無い無い! 薬草らしい草がぜんっぜん見つからないんだけど!!
ホントにここにあるのかよ? あーもー、全然見つからねー!
いい加減疲れたわー。もう動きたくないなぁ。
ハルトはその場で大の字に寝転ぶと、ぼーっと空を眺める。
もう太陽が真上に来てるから、もうすぐお昼かなぁ……。
グー……ハルトのお腹が鳴る……。
「はら、減った……。…………あー!! 昼御飯の事すっかり忘れてたー!!」
どうしよー、お昼の事何も考えてなかったわ……。
今から帰っても……、また1時間以上歩いてご飯食べて戻って来たら……、きっと夜になるよね……。
昼間に探しても薬草見つからないのに、夜に見つけられる訳ないだろ……。
どっかで買食い出来ないかと思ったが……俺、お金、もってなかったわ……。
あぁーあ、今日は昼抜きかぁ。朝も急いで家出たから何も食べてないんだよなぁー。
はぁ、朝だけでもちゃんと食べとくんだった。
無い物は無いし、お腹空いたけど今日は我慢するしかないなぁ。
明日からクリスティーナさんにお弁当でも作ってもらおうかな?
しっかし、これだけ探して薬草1個も見つけられないってのは何でだろ?
巨乳ちゃんが嘘吐いたとは思えないしなぁ……。
うーん、……あっ!
そういや……巨乳ちゃんが何か言ってたよな?
『帝都からの避難民が流れて来ているから、薬草が不足して依頼が余ってるーー』とかだったかな?
薬草が足りないのに余る程依頼があるって事は……。
なーんか、すごーくいやーな想像しか出て来ないんだけど……。
まさかねぇ。そんな事は無いと信じたい! けど!
もしかして……、薬草全部取り尽くしたとかじゃないよね! ねっ!
「…………いや、いくら何でも、それはーー」
でも、考えれば考える程、そんな気しかしなくなってきた。
薬草の群生地って言ってたのに1個も無いんじゃ、それしか考えつかないよ!
マジかよぉー! 依頼どうしよー!
最悪の想像が一番現実的な答えに思えて、ハルトは頭を抱えて転げ回っていた。
ちょ、ホント、マジでどうしよ?
初依頼でいきなり依頼失敗とか、絶対イヤだー!!
どうしよ、どうしよ、どうしよー!
……こうなったら、仕方ない。
森には近づくなって言われてたけど、皆が危ないからって近づいていないのなら……。
まだ、森近くになら薬草が残っているかもしれない。
流電狼ってのは、ちょっと怖いけど。
でも、でもこんなところで諦めて、手ブラで帰るのはもっと嫌だ!
少しだけ……確認だけして、森近くにすら薬草が無いなら諦めよう。
もし薬草が残ってるなら、出来るだけ早く集めてすぐ帰ろう。
ちょっとくらいなら、すぐに終わらせれば、流電狼が出て来る前に帰れるよな?
巨乳ちゃんだって『森の外や入口付近なら安全』って言ってたしな!
大丈夫、大丈夫、すぐに終わらせればきっと大丈夫。
そう自分に言い聞かせながら、ハルトは森に向かって歩き出す。
その途中でも薬草があれば採ろうと意識は向けていたが、やっぱり一面に生えてる草以外に薬草っぽいのは無くて、気づくと森の入口まで来ていた。
「……ここまで来てみたけど、やっぱり薬草無いっぽいな」
森の奥は何処までも続いているようで、日が刺し込まないせいかとても薄暗くて不気味な感じがした。
森から吹き抜ける風も、少し肌寒く感じて身震いする。
「森の中……、何か気持ち悪い感じするし、中に入るのは止めておこうーー」
そう呟き、薬草はもう諦めるしかないなと踵を返そうとした時、ハルトの視界の片隅に何かが映る。
森の入口から、ほんの少しだけ奥にある木の裏側の根本辺りに、薬草らしき草がいくつか生えていた。
「んん!? アレって? もしかして薬草!」
ハルトはすぐに木の側まで走り込み、そこに生えている薬草らしき物を確認する。
えっと、巨乳ちゃんに貰った絵はーー。
ハルトは持っていたリュックから絵を取り出して、薬草らしき草と薬草の絵を見比べる。
根本から……3本に葉が別れてて、えっと、真ん中の葉にヘコみが2つ……。
間違いない! 多分これが薬草だ!
やった! やったぞー! やっと見つけたー!
ハルトは薬草の絵を急いでリュックにしまうと、もう一度薬草を見る。
「そうだな……、念の為にアレやっておこう。まぁ、あんまり期待しない方が良さそうだけど。……コホン、スゥー……物質鑑定!」
さぁッ! どうだっ!?
そして、ハルトの目の前の空間に文字が浮かび上がる……。
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名前:草
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「…………、えーっと……うん、まぁ、だよね……。ッて、毎度毎度何なんだよ! 草? はぁッ? んなもん見りゃ分かるわ!! 俺が知りたいのは薬草かどうかって事だよ! なんっなんだよこの技術! 何か意味あんのかい! 俺をバカにしてるのか? バカにされてるのか? 責任者出てこーい!!」
ハァハァ、ハァハァ……あー、もう疲れた。
何か一気に疲れたわ……。
もうこの技術、忘れた方が良いのかな?
ガサガサガサ……。
むっ! 責任者かッ!?
ハルトの後から草を掻き分ける音が聞こえ、意味不明な思考と共に反射的に振り返る。
そこには……。




