第34話 その依頼受けたいです!
ブクマありがとうございます!
再び俺は冒険者組合の前に立っていた。
昨日のクリスティーナさんとの話し合いで貰った猶予は108日……。
はっきり言って休んでる暇は殆ど無い。
だから俺は、日が昇ってすぐに家を出て、ついさっき冒険者組合の前に着いたところだ。
「とにかく何でも良いから依頼を受けて、名声値を貯めないと……」
そして俺は、心意気も新たに冒険者組合の扉を潜った。
*******
「えっと、確か依頼を受ける時は窓口にって言ってたよな」
冒険者登録をした窓口の辺りを見渡しながら、前に聞いた話しを思い出す。
おっ、あの巨乳ちゃんが窓口に居るな。
あの子丁寧だったし、話しやすかったから、あの子の窓口に行こう。
あの巨乳も良いけど……、何より可愛いしね!
ハルトは遠目からもよく分かる巨乳に目を奪われながら、少し緩んだ顔を引き締めつつ窓口へ向かう。
「あっ、ハルト様。今日はどのようなご用件でしょうか?」
おぉ! 覚えててくれたんだ。うれしいなぁ。
「えっと、今日は依頼を受けたいんだけど。どうすれば良いのかな?」
「依頼ですね。ハルト様でしたら……」
巨乳ちゃんは机の上のリストをめくりながら答える。
「今でしたら、採取の依頼が残ってますね。Fランクだと、いつもなら雑用系の依頼しか無いのですが、帝都からの避難民が流れてきた関係で、薬草が不足しているようですね。薬草を20個採取すれば良いみたいですし、ランク不問なのでハルト様でも受注出来ますよ」
「んー、薬草採取って言われてもなぁ。……ちなみに、薬草ってどんなの?」
「エッ? ……す、すみません。えっと、薬草は……根元から葉が3本に別れて伸びて、真ん中の葉先にヘコみが2箇所ある……。こんな感じですね」
またバカな質問をしてしまったのか、巨乳ちゃんの目が一瞬点になってしまってた……。
ビックリした顔も結構可愛……じゃなくて、あんまり変な質問しない様に気を付けないとなぁ。
で、巨乳ちゃんだけど、手元の紙に薬草の絵を描いてくれていた。
「それ、貰っても良いかな?」
「はい。どうぞお持ちください。では、こちらの依頼、受注なさいますか?」
「あ、もう一つ良いかな?」
「なんでしょうか?」
「この辺で、薬草が採れる場所って知ってる?」
「ええ、この辺でしたら、街の北西にある流電の森手前の草原に群生していますね」
「北西にある森の手前の草原か」
「ですが、森の中には入らないでくださいね。森の外や入口付近なら比較的安全だと思いますが、森の中には流電狼が徘徊していますので……」
「えっと、流電狼って?」
「微弱な電流を身体に纏った狼ですね。1匹だとそれ程強い訳では無いので、カテゴリーEに分類されてますね。カテゴリーEは、Eランクの冒険者が1人で対処出来る強さだと考えてください。ただ、流電狼は群れで行動しますので、通常はEランク冒険者、4〜5名のパーティで対処していますね。ですので、もしハルト様がお1人で流電狼と遭遇してしまった場合、全力で街まで逃げるのが宜しいかと思います。街まで戻れば門兵が対処してくれますよ」
「わ、わかりました……」
って、そんな狼にいつ襲われるか分からない場所にしか薬草って生えてないの?
あぁー、でも、冒険者に依頼しないといけないって事は、やっぱ危険だからって事なんだろうしなぁ。
安全でちょっと行けば採れるなら依頼なんてしないわな、普通。
しかし、どうしたものかな……。
大人しく安全そうなやつを雑用系から探すべきか……。
それとも、この依頼を受けるべきか……。
「あ、参考までに、この薬草採取って名声値はいくつ貰えるの?」
「この依頼だと……、完遂出来れば2ポイントとなってますね」
2ポイント! クリスティーナさんが雑用系だと1ポイントとか言ってたのに、2ポイントも貰えるの!
「う、受けます! その依頼受けたいです!」
「承りました。それでは国家証の提示をお願いします」
俺が国家証を渡すと、巨乳ちゃんが何か作業をしたあと国家証を返してきた。
「依頼の受注が完了しました。少しだけ注意事項がありますのでお伝えしておきます。依頼は、一度に複数を受注する事は出来ませんので、次の依頼を受ける場合は、完遂又は破棄によって現在の依頼を終わらせる必要があります。中には期限付きの依頼もありますので受注する際は気を付けてください。これは完遂不可能になった依頼を報告せず、別の依頼を受注し続けるといった行為をさせない為の措置ですので、ご理解ください。今回は特に期限もありませんし、薬草を20個採取するだけの依頼ですので、それ程難しくはないと思います。それでは、頑張ってくださいね」
「あ、ありがと。頑張ってくるよ」
俺はそう返事をしながら国家証に目を通す。
ーーーーーーーーーー
ブライス帝国・国家証
冒険者ランク:F
名声値:0
名前:ハルト
職種:短剣使い
依頼:薬草採取
ーーーーーーーーーー
ん? 職種の下に依頼って項目が増えてる。
薬草採取、か。
とりあえず流電狼ってのに気を付けて、薬草を20個採ってくれば良いんだろ。
よし! 初めての依頼だし、気合入れていくか!
*******
俺は意気揚々と冒険者組合を出ると、街の北西にある裏門へと向かって歩きだす。
中央広場から裏門に向かって歩く事……1時間。
遠い……、遠いわ!! 遠すぎるわ!!
街広すぎなんだよ!
結構朝早くに家を出たのに、もうだいぶ日が昇ってるし!
それに、もう足ダルいわ! まだ街すら出てないのに歩き疲れたわ!!
ハァハァハァ……ちょっと、マジで、自転車欲しいわ。
あー、やっぱ素直に雑用でもやっとくべきだったかなぁ。
かといって、依頼キャンセルしたら名声値減らされるんだろうしなぁ……。
はぁー、こっから帰るって言ってもなぁ。
また1時間くらい歩かないといけないって考えると、手ブラで帰るってのもどうかと思うし……。
あぁ、もう、ダルい……しんどい……疲れたー。
最初の勢いはどこへやら……。
歩き疲れてハルトの気力は枯渇寸前だ!
と、何だかんだと愚痴りながらも歩き続け、気がつくと目の前に裏門があった。
ハルトは、途中から下ばかり見ていた所為で、裏門の近くまで来ている事にすら気付いていなかった。
「あ……、着いた? おぉ、やっと着いたかー。あーもー疲れたー」
心底疲れたって感じの声を出しながら、ハルトはその場で脱力する。
すでに歩きすぎで両足は痛み、立っているのも辛い状態だった。
……まだ、街すら出てないのに。
とりあえずどっかで休みたい気持ちが強かったが、帰りの時間や採取の事を考えれば、あんまり休んでる暇もない気がして、ハルトは痛む足を我慢しながら仕方なく裏門へと向かった。
裏門の両側には鎧を着込んだ門兵が1人づつ立っていて、出入りする者をチェックしていた。
ハルトが裏門から外に出ようと近づくと、門兵の1人が、ハルトの首にかかっている国家証を一瞥し、話しかけてきた。
「冒険者か……、依頼か?」
「あ、はい。薬草を採りに」
「そうか……一応忠告はしてやるが、森には入るなよ。死ぬのは勝手だが、死体の捜索とかやらされるのは面倒だからな」
門兵の物言いに、ハルトは少しムッとした顔をするが、言い返すのも面倒なので、何も言わず、視線も合わさない様にしながら門兵の前を通り過ぎる。
何もあんな言い方しなくても良いだろ!
森に入るな、くらいで止めとけよ! 一言多いんだよ!
誰が好きこのんで危ない森に入るかよ!
巨乳ちゃんは、流電狼に襲われたら門兵が何とかしてくれるみたいな言い方してたけどさぁ。
あんな嫌な感じの悪い奴に助けられたくねぇわ。
もうさっさと終わらせて早く帰ろう。
そう決意しながら裏門を潜り街の外へと向かうハルトだった。




