第33話 俺……やってみたいです
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「ハッ、ハハハハハハ、アー、ハッハッハー、ヒー、おなか、お腹痛い、アハハハハハハハハハー」
ちょッ、笑いすぎ、笑いすぎだってクリスティーナさん。
地声になってるし、笑い方豪快すぎるだろ。
Fランクって言ったら笑われるかなとは思ってたけど、何もお腹抱えてテーブルに突っ伏す程大笑いしなくていいだろー。
あー、もー、やっぱ言うんじゃなかったよー。
「アハハ、ヒヒ、アハハハハ、ごめ、ごめんなさい、……プッ、アハハハハ」
ダメだこりゃ……、何かクリスティーナさんの笑いのツボにハマってるわ。
一瞬収まったかなと思っても、俺の顔みたら再度吹き出すとか、失礼極まりないな……。
「もう、クリスティーナさん。人の顔見て笑うとか失礼ですよ……」
「だって、ハルちゃん。F、プッ……ウヒヒヒヒ、自信満々で出掛けたのに、Fランクって、アハハハハ」
はぁ、無理に笑い堪えるから変な笑い方になってるし、もう笑いすぎで涙目になってるよ。
はあーあ、こりゃ暫く無理っぽいなぁ。
そこまで笑わなくったって良いのに……。
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「はぁー、笑い死ぬかと思ったわ……。こんなに笑ったのっていつ振りかしらね……」
「…………」
クリスティーナさんがあまりにも豪快に大笑いした所為で、ハルトはもう恥ずかしいとかいった感情を通り越して逆に呆れてしまっていた。
「……ハァ。まぁ、別に良いですけどね……」
クリスティーナさんは、両手を合わせて『ごめんね』って感じの仕草をするが、ハルトはそれを見て全身に悪寒が走ってしまう。
そ、それ止めて! 可愛い子がやるなら嬉しいけど、クリスティーナさんがやるのは止めて!
俺を殺す気か!!
全身の毛穴が全部開くような気持ちの悪さに耐えながら心の中で叫ぶ。
そんなハルトの様子には気付かず、クリスティーナさんが話しかけてくる。
「でも、ねぇ。F……プッ、ごめんなさい。Fランクって……、ハルちゃんこれからどうする気?」
Fランクって言う度に肩をプルプルさせるのは止めて欲しい。
「どうするって、言われても……。何とかやってみようとは思ってますけど……」
「ふぅ……、ハルちゃんは何も知らないから仕方ないとは思うけど、Fランクってね、解雇通告みたいな物なのよ。要は、冒険者には向かないから諦めた方が良いですよって意味ね」
「それは、まぁ、何となく分かりますけど」
組合での他の冒険者の反応を思い返せば、何となく察しはつく。
「でも、一応名声値を100ポイント貯めて、レベルを5まで上げればEランクにしてもらえるんですよね?」
「まぁ、そういう事にはなってるわね。でも、Fランクで名声値を100ポイント貯めるのはかなり大変よ。どんな依頼でも完遂出来れば最低1ポイントは貰えるけど、Fランクの依頼じゃ1ポイント以上の依頼は受けれないでしょうね」
「じゃあ、依頼を100回やらないとダメって事か……」
「そうなるわね……。ただ、言う程簡単な事じゃないわよ。今迄も、ハルちゃんみたいにFランクでも頑張ろうって人がいなかった訳じゃないわ。でも、殆どが途中で諦めてしまうのよ。依頼を100回ってハードルだけじゃなく、他の冒険者から馬鹿にされたり、組合からも適当に扱われたりといった、環境に対する冷たさがあるし。何よりまともな依頼が少ないの。その殆どが雑用系と呼ばれる、誰もやりたがらない依頼ばかりで、ドブさらいや雑草抜き、お使いとか、下働きみたいな依頼ばかり受けないといけなくなるわ。そのうえ、雑用系は報酬も子供のお小遣い以下だから日々の食事さえ満足に取れなくなってくるの。……だからね、皆心が折れて諦めてしまうの。せっかく冒険者になったのに、どうして雑用ばかりしなければいけないんだって……、食事も限界まで削って、身も心も疲弊しきって、夢を砕かれてしまうのね……。それでも……、それでもハルちゃんは冒険者としてやって行きたいの? やって行けると本気で思えるのかしら?」
「…………」
正直、やって行けるかって言われても分からない。
大変そうだなってのは、何となく理解出来るけど、それを頑張れるのかって考えると、分からない。
でも、せっかく異世界に来て、冒険者に成れるかもってチャンスがあるんだから、やれるだけやってみたいって気持ちも確かにある。
依頼を100回……、いや、雑用を100回こなして名声値を100ポイント貯める。
毎日会社で、3年間もウザい先輩の丸投げな雑用をやって来たんだ。雑用なら慣れてるし、終わりがあるだけマシだって考えればどうにかなりそうな気がしてくるしな。
あと、レベルがどうのとかってのは、一先ず後回しにしよう。
ただ一つだけ気掛かりなのは、クリスティーナさんへの家賃や食事代は……どうしよう? 聞くだけ聞いてみようとは思うけど、最悪ルウだけでも置いて貰えるように頼んでみるしかないかな……。
俺に出来るかどうかなんて、考えてるだけじゃ分からないけど。
やれるだけやってみてから考えても良いんじゃないか? それで無理なら……。
止めよう、無理だった時の事は今は考えない。
なら、クリスティーナさんへの返事は一つしかない。
「クリスティーナさん。俺……やってみたいです」
「……そう」
クリスティーナさんは静かに返事をすると、反対する訳でも、止める訳でもなく、ただじっとハルトの瞳を見つめていた。
「……分かったわ。考えたうえでの答えだろうし、頑張ってみなさいな」
「え、あ、ありがとう、クリスティーナさん。……それで、えっと。すごく良い辛い事があるんですが……」
「何かしら?」
「その、えーと、……ここの家賃、とか食事代の、事なんです……けど」
とても言い辛そうに話しながら、だんだん尻すぼみに声のトーンが下がっていく。
居候みたいな立場なのにお金の話しとか……、何て厚かましいんだろ、俺。
「ん? そういえば待ってあげる約束だったわねぇ。んー、ハルちゃんの言いたい事は何となく察しはつくけど……。そうねぇ、Fランクをいつまでもズルズル続けられても、家賃が溜まる一方だしねぇ。……3ヶ月。3ヶ月待ってあげるから、それで結果を出しなさいな。もし3ヶ月経っても結果が出せないなら、冒険者は諦めてちゃんとした仕事に就く事。でも、もし3ヶ月で結果が出せたなら……ハルちゃんを冒険者として、認めてあげるわ」
3ヶ月……3ヶ月か……。
ちょっとハードル高いな……。
3ヶ月って90日くらいだろ、それで100ポイントって事は、休み無く毎日依頼こなして、しかも10日は依頼2つこなさないと達成出来ないし……。
クリスティーナさんは、それだけ俺を冒険者にさせたく無いって事か?
ダメ元でもう少しだけ日数貰えるよう頼んでみるか?
「……3ヶ月って、90日で結果を出さないといけないんですよね? その、100ポイント貯めるの……」
「? どうして90日なの? 108日でしょ?」
「え? 何で108? え? 何の数字?」
「えっ? 何言ってるの? 1ヶ月は36日なんだから3ヶ月で108日じゃないの」
え? 1ヶ月が36日?
え? ナニソレ? イミフ……。
え? 異世界だから時間の概念が違うって事?
……えーと、1ヶ月が36日だったら1年は12かけて……、12、かけて……、いや、12かけて良いのか?
あー、これは、確実変に思われるけど確認しないとダメだわー。
うわー、絶対変な目で見られるわぁ。
「あのー、すみません。一つ確認しておきたい事があるんですが……」
「何かしら?」
「えーと、どっから聞いていこう? とりあえず、1日って、24時間?」
「そりゃそうでしょ」
「じゃ、1時間は60分で、1分は60秒ですよね?」
「当たり前じゃない」
「じゃ、じゃあ、1ヶ月はだいたい30日ですよね?」
「だいたいも何も、36日でしょ」
はあ? いやいやいや、何でそこだけおかしい?
「えっと、少し聞き方変えます。……1年は365日ですよね?」
「はぁ、ハルちゃん。ちゃんと勉強してる? 1年って言ったら432日でしょ。子供だってそれくらい知ってるわよ」
「…………」
えぇー。ナニソレ? 日数オカシイ、絶対日数オカシイよ!
えぇっと、1ヶ月36日で1年が432日だったら……。
えーと、36×10で360日だから……432から引いて、残りが72日……36×2が72だから、やっぱり1年は12ヶ月って事だよな?
何で1ヶ月の日数だけオカシイんだ?
36日ってどっから来た?
「ハルちゃん? ちゃんと勉強した方が良いわよ? とりあえず、私からの条件は108日以内に結果を出す事よ。それまでは、お金の事は心配しなくて良いから。だから、明日から頑張りなさいな」
「……わかりました。……でも、クリスティーナさんって、何でそんなに依頼とかランクとかに詳しいんですか?」
「まぁ、そうねぇ。……長く生きてると色々あるのよ、色々、ね」
うーん、あんまり聞いちゃダメそうな感じだな……。
今は、いいか。
とりあえず108日猶予を貰ったんだ。
ちょっとギリギリな感じはするけど、せっかく貰ったチャンスだ。頑張らないとな!




