第32話 いや、何と言いますか
ブクマ及び感想、ありがとうございます。
初感想でしたが、生の声を頂けると
かなりテンションあがりますね。
隙間時間の執筆の為
どうしても更新が遅くなってしまいがちですが
出来る限り早く更新していけるよう
頑張ってまいりますので
今後も、よろしくお願い致します。
ハルトが、国家証の裏面に表示されたステイタスを見ながら呆然としていると、受付の子が心配して声を掛けてきた。
「ハルト様、大丈夫ですか?」
「あ? あぁ、大丈夫……大丈夫」
こんなプレートにすら劣る自分の能力に失望し、何とか返事を返すのが精一杯だった。
こんなんで、俺、冒険者としてやって行けるのか?
レベルだって1のままだし……、技術も魔法も使えない……、ステイタスだってきっと最底辺だ……。
短剣持ってたって鼠にすら勝てないし……。
クリスティーナさんに大見栄切った手前、今更後にも引けないしなぁ……。
「ハルト? 本当に大丈夫かい?」
ハルトがずっと意気消沈していた為、今迄黙って側にいたアキトまで心配して声を掛けてくる。
「えっ? あぁ、大丈夫だよ。大丈夫」
「そうかい? 本当に大丈夫なら構わないが……」
いつまでも落ち込んでても仕方ない。もう後には引けないし、やるしかないんだから……。
「それでは、説明を続けてもよろしいでしょうか?」
「大丈夫です。続けてください」
何か、大丈夫、大丈夫って言ってたら、まるでルウみたいだな。
ルウもいつも大丈夫しか言ってないよなぁ。
そうルウの事を思い出したら自然と笑みが溢れてくる。
少し笑ったら、何故か気分が晴れる様な気がした。
「まず、ハルト様の冒険者ランクはFランクになります。通常、新規の冒険者様はEランクからになりますが、能力に問題があり、冒険者としての適性が著しく低いと判断された場合にのみ、Fランクとなります」
「はぁッ?」
えっ? 底辺どころか、まさかのマイナススタート?
いきなり冒険者の適性無いとか、マジデスカ!!
「おい、聞いたか? あいつFランクだってよ」
「ははっ、可哀想に……」
「オレ、Fランクとか初めて聞いたわ」
「終わったな……」
「Fってあれだろ? FINALのFとかってやつ……」
何か周囲から色々な声が聞こえてくる……。
馬鹿にした声、蔑む声、憐れむ声など……、聞いてて自分が恥ずかしくなってくる。
穴があったら入りたい気分だった。
「君達、失礼じゃないか? 人の事を蔑むほど暇を持て余しているなら僕が相手になろうか?」
アキトが鋭い眼つきで睨みを効かせ、怒りの混じった声音で静かに声を響かせた。
「はっ、おもしれぇ。ならオレが相手に……」
血の気の多そうな無精髭の男が席を立とうとするのを、側に居た仲間らしき男が止めに入る。
「オイ、やめとけ!」
「あぁ、何だよ。ジャマすんのか?」
「やめとけ、あいつ、銀騎士だ」
「あぁ? 銀騎士ィ? ……あいつがか?」
「……あぁ」
「チッ! ……マジかよ。何でこんなとこにいんだよ。ハァ、シラケちまった。オイ、飲みに行くぞ! お前の奢りな!」
「誰が奢るかよ! 自分で払いやがれ!」
男達は奢る奢らないと言い合いながら、組合から出て行く。
先程の男達のセリフを聞いて周囲が少し騒ついていたが、特にこちらへ何かをしようとする者はいなかった。
周囲が落ち着いたのを感じると、アキトは柔らかく微笑みながら、ハルトにアイコンタクトを送ってきた。
銀騎士がどうとか気になる単語もあって、アキトが何者なのか少し気にはなったが、今はそれどころではなくて特に何も返さなかった。
受付の子は、騒ぎが落ち着いたのを確認すると再びハルトに話しかけてきた。
「……それでは続けますね。今はFランクですが、ハルト様の努力次第でEランク、Dランクへの昇格も可能ですので頑張ってください。Fランクからの昇格は、最低でも名声値を100、レベルを5まであげる必要があります。あくまで最低条件ですので、場合によってはそれ以上を求められる場合もありますのでご注意ください」
「……わ、わかりました」
マジかよぉ、ちょっと立ち直ったかと思ったら、そこから追い討ちかけるか?
Fランクとか……、ホント冗談きついわぁ。
「以上で全ての説明は終了です。依頼の受注や、完了の報告、何か相談や質問等ありましたら、いずれかの窓口にお声掛けください。お疲れ様でした」
「わかりました」
「それでは、次はアキト様、のご登録でよろしいでしょうか?」
「あぁ、お願いするよ」
「ごめん、俺は帰るよ」
「もう帰るのかい? 君とはゆっくり話してみたいと思っていたんだけど……。まぁ、また次の機会の楽しみにとっておくよ」
「……ハハハ」
俺は乾いた笑いで返すと、軽く手を振ってアキトと別れた。
Fランクを馬鹿にされた時、助けてくれたのは感謝してるけど、アキトと一緒に居ると、ずっと見られてる感があってあまり落ち着かない。
悪いなぁ……とは感じつつも、アキトの登録が終わるまで待つ気にもなれなかった。
とりあえず組合を出て、外の空気を胸一杯に吸い込むと緊張から解放されて少し落ち着いた。
今日はもう帰ろう。
ルウと、ついでにクリスティーナさんにも冒険者登録を済ませた事を話しておかないとな。
ただ、なぁ、Fランクとか言ったら、クリスティーナさんにも馬鹿にされるのかなぁ?
そんな事を考えながら、重い足取りで家路に着くハルトだった。
*******
「ただいまぁー」
「ハルト? おかえりなさい」
玄関の扉を開けながら何となく『ただいま』と言うと、偶然にもルウがそこに居て返事が返ってきた。
突然の出来事にドキッとして、心臓が早鐘のように鳴り響く。
あー、びっくりしたぁー。
まさか返事が返ってくるとは思わなかったから、まだ心臓がドキドキいってるよ。
でも、可愛い子から『おかえりなさい』って言われるの、何かいいなぁ〜。
まるで新婚さんか何かみたい。
これで『ご飯にする? お風呂にする? それとも……わ・た・し?』とかナントカ言われたらたまらんな!!
ハルトがまた妄想の世界に旅立って、だらしない顔をしていると……。
「……ハルト? ヘンな顔……」
「はぐッ!」
また……、また女の子にヘンな顔っていわれたよ……。
もうナンカ、グサァッて刺さるよね!
もう色んな所にグサグサくるよね!
「……どしたの? ハルト?」
いや、もう、何かね。
棘をグサッと刺してくる子に悪意が無いのがまた何とも……。
……これが快感になっちゃったりしたらどうしよう……?
ハルトが色々と苦悩していると、そこにクリスティーナさんもやってきた。
「あら、ハルちゃんおかえりなさい。……それで、どうだったのかしら?」
「どう? って何が?」
「ホント大丈夫? 行って来たんでしょ? 冒険者組合」
「あー、まぁ、一応……」
「? はっきりしないわねぇ〜。まぁ、もうすぐ夕飯だから、食堂で話しましょ」
曖昧な返事しか返さないハルトに、クリスティーナさんは食堂で話そうと提案し、一人先に歩いて行った。
ハルトとルウは顔を見合わせると、お互い何も話さずにクリスティーナさんの後を追って行った。
*******
「それで、冒険者登録は済んだのかしら?」
食堂のテーブルに3人で腰掛けると、クリスティーナさんが話しを切り出してくる。
「えっと、登録は何とか出来ましたけど……」
「? まぁ、いいわ。依頼はもう受けたの?」
「それは、まだです。今日はとりあえず登録だけと思って……」
あぁー、何か空気が重いなぁ……。
別に悪い事をしてきた訳でも、怒られてる訳でも無いんだけど、なーんか気不味いと言うか、空気が重い。
「いきなり難しい依頼とか選んでくるんじゃないかと心配だったけど、まだ受けてないなら良いわ。じゃあ、大サービスで少しだけアドバイスしてあげるけど。Eランクの依頼は、殆どが低ランクモンスターの討伐か簡単な採取系になるわ。でも、討伐系を受けるのはまだ止めておきなさい。ハルちゃんがパーティを組んでいるなら別だけど、いくら低ランクモン……」
「ちょちょ、ちょっと待って」
クリスティーナさんが話し続けるのを、ハルトは慌てて止めに入る。
だって、Eランクが当たり前みたいに話されても……、だって、ねぇ……。
「? 何か質問? 質問なら後で纏めて聞くわよ」
「いや、そうじゃなくて……。あの〜、その〜、なんというか……」
「はぁ、煮え切らないないわねぇ。いったいどうしたの?」
「いや、何と言いますか……。Fランク」
「はい?」
「いや、Fランクなんです」
「はぁ?」
「いや、だから、冒険者ランクがFランクなんだってば!」
「…………えっ?」
ハルトが両手をテーブルに乗せ、立ち上がりながら告白すると、クリスティーナさんの目が点になる……。
気不味い沈黙が辺りを支配する中、ハルトは申し訳なさそうな顔をしてゆっくりと椅子に座り直した。




