第30話 これからよろしく
キリの良い場所で区切ったら、今回はかなり短くなってしまいました。
まるで針の筵を歩くかの様な視線を受けつつ、ハルトは銀髪の美男子と連れ立って、受付のある窓口へと向かった。
窓口前に移動すると、美男子君がハルトに声をかけて来る。
「ここで冒険者登録が出来るよ。君は……。っと、まだお互いに名乗ってなかったね。大変失礼した。まずは僕から名乗ろう。僕の名は、アークライト・ウォルフォード、親しい者は僕の事をアキトと呼ぶ。以後お見知り置きを」
アキトと名乗った美男子君が、やたらと絵になるポーズを決めながら口上を述べると周囲が騒ついた。
まぁ、美形だから絵になるけど、普通の人がやったら羞恥でもう外を歩けなくなりそうな感じだけど……。
「アキト様……」
「素敵なお名前です〜」
「…………すてき」
「ーーポッ」
「貴方の為なら死ねます!」
等々、特に女性陣がハートを飛ばしながら口々に叫び、アキトに見惚れていた。
「ウゼェ……」
「鼠の餌になれ!」
「美男子は死ね!!」
「チッ……」
「リア充爆死しろ!」
男性陣からも声があがるが、それを聞いた女性陣の殺気が篭った鋭い視線を向けられると、男性陣は慌てて沈黙する……。
ちなみに、最後の台詞はハルトが叫んでいたりする。
「えっ……と、リア充って、ナニ?」
突然ハルトが叫んだので、アキトが困惑気味に聞き返して来た。
「あっ、いや、何でもない何でもない。条件反射というか何と言うか……。あっ、気にしなくて良いから!」
アキトは聞き慣れない言葉に未だ困惑している感じだったが、気持ちを切り替えハルトに名を訊ねる。
「君の名は何て言うんだい? 差し支えなければ僕に教えてくれないか?」
えっ? あ〜、やっぱ俺も名乗らないとダメかな?
あんまりお近づきになりたくないし、出来ればこれ以上関わり合いになりたくないのが本音だけど……。
はぁ〜、あんまり気乗りしないなぁ。
でも、まぁ、名前くらい名乗らないと失礼だよなぁ。
仕方ないなぁ。
「俺は、桜雷……。いや、違うか? ーーハルト。俺の名前は、ハルト・サクライだよ」
で、良いよな? この世界って英名っぽいし、名前を先にして名乗らないとダメだよな?
名前を逆にするのが違和感あって慣れないんだけど、今後は気を付けないといけないかもな……。
ただ、クリスティーナさんには、桜雷春人って名乗っちゃってるけど、名前に対する追及が無かったから多分スルーしてくれてたんだろうなって気がするなぁ。
まぁ、今更なんだけどね……。
「ハルト・サクライ……。あまりこの辺では聞かない珍しい名前だね。君の生まれは……いや、まぁ、詮索はよそう。差し支えの無い話題であったなら君の方から話してくれるだろうしね。ハルトか……、どこか響きが僕の名と似ている感じがするし、とても良い名だと思うよ。これからよろしく」
アキトはそう言うと右手を差し出し握手を求めてきた。
いや、これからよろしくって……。
俺はよろしくしたくないのが本音なんだけど……。
それに、これからも何も、今回だけだから! 次はもう無いからね!
はぁ、握手も出来ればしたく無いんだけど、何か満面の笑みで右手をずっと差し出されてたら拒否出来ない……。
日本人の悲しい性か、NOと言えない自分が悲しい……。
結局、逡巡しながらもハルトはアキトと握手を交わした。
意外と柔らかい手だなとか、指細いし綺麗な手してるよな……とか考えつつ、ハルトはクリスティーナさんが言っていた、手を見れば育ちが分かるって言葉を思い出し、これが裕福な人間の手って事かと考えていた。
まぁ、アキトの場合は、シミひとつない純白の服と、高そうな銀製の鎧、翼の装飾が施された細剣等、見るからに高価そうな武具と服だし、いかにも金持ちって感じだから、手が云々とか無くても一目で分かるけど……。
兎にも角にも、名乗りも済んでひと段落ついたので、ハルトは少し気落ちしながらも当初の目的であった冒険者登録を済ませようと窓口に向かい、アキトもそれに続いた。




