第29話 そんなに甘い世界じゃないわよ
大変長らくお待たせして申し訳ありません。
久々の更新になりますが、暇潰し程度に読んでくださると幸いです。
決意した日の翌日、早朝。
今俺は、1人で冒険者組合の前に立っている。
入口の扉は開け放たれたままで、剣や鎧で武装した人々がひっきりなしに出入りを繰り返している。
話し声もガヤガヤと騒がしく聞こえるだけで、何も理解出来る言葉として聴き取れない。
「ほぁー、すごいなぁー」
俺は口を開いたまま、行き交う人々を眺めて感嘆する。
やっぱり冒険者って良いなぁ。
おっ! あの鎧すげぇカッコイイ!
おぉ! あんなデカイハンマー軽く担いで凄いな!
おっ! こっちも。あっ! あれもイイ!!
出入りする冒険者達を見て、俺は目を輝かせていた。
「おい、ぼうず! 入口でウロウロすんな! 邪魔だろうが!」
「ひっ! すっすみません、すみません。すぐ退きます」
いきなり野太い大声で怒鳴られた所為か、身体がビクリと跳ねてしまい、反射的にペコペコと頭を下げて謝ってしまう。
怒鳴ってきた男は、俺を一瞥すると鎧をガチャガチャと鳴らしながら通り過ぎていく。
いきなり怒鳴られた所為で茹だった頭は冷めて、何か気分も落ちてしまった。
はぁー、いきなり怒鳴られると何か反射的に謝っちゃうよなぁ。
まぁ、入口でウロウロしてた俺が悪いんだけど……。
「さて、いつまでもここに居ても仕方ないし、中に入ってみますか」
俺は独り呟きながら、また少し高鳴りつつある鼓動を感じて扉を潜った。
*******
「私は反対よ!!」
クリスティーナさんが珍しく声を大にして放つ。
いきなり反対されるとは思わず、俺は驚いた目でクリスティーナさんを見つめていた。
「あ……ごめんなさい。驚かせちゃったわね。でもね、私は冒険者なんて反対よ」
俺は冒険者になるんだーーそう決意した日の夕飯後、クリスティーナさんとルウに思いを伝えーーいきなりクリスティーナさんに反対された。
「えぇ? 何で? 何でクリスティーナさんは反対なんですか? さっきも説明したけど、冒険者は俺の夢だし、ルウを守る為にも強くならないといけないんだ。だからーー」
「冒険者なんて、夢や憧れだけでなるもんじゃないわよ……。冒険者なんか、いつも危険が付きまとうし、どこで生命を落とすか分からない、常に生命懸けで依頼をこなしても、端金にしかなりゃしない。そんな良い物じゃないわよ。それに、強くなりたいだけなら冒険者でなくてもなれるし、守る為に必要なのは力の強さだけじゃないわ」
クリスティーナさんなら『あら、ハルちゃん冒険者になりたいの? 頑張ってね』って感じで応援してくれる物だと思っていた。
なのに……何だ? このクリスティーナさんの冒険者に対する忌避感は?
冒険者と何かあったのか?
こんなに冒険者に拒否反応示すなんて……。
「それでも! それでも、俺は冒険者になりたい!」
「軽い気持ちや、半端な覚悟でなりたいのなら止めておきなさい」
「軽くないし、なりたいものはなりたいんだ!」
*******
お互いに折れる事なく言い合い続け、かれこれ2時間……。
流石に根負けしたのかクリスティーナさんが渋々折れた。
「ハァ……分かったわ。分かったわよ。私の負けよ。ハルちゃんって優柔不断な割りに意外と頑固なのね……」
「何か、バカにされてる感じしかしないけど……。とりあえず認めてくれたって事で良いのかな?」
「認めてないわよ」
「へっ? でも、今分かったって……」
「……ハァ、これ以上話しても無駄みたいだし、一度経験してみないと納得出来ないんでしょう? だから、一度冒険者っていうのを経験してみればって意味よ」
むう、何か腑に落ちないけど……。
でも、一度経験してみろって事は、反対だけど冒険者になるのは止めないって事か。
今は……今はそれでも仕方ないか。
冒険者になって、ちゃんとやっていけるってところを見せれば納得させられるかもしれないしな。
「分かったよ。ちゃんと冒険者としてやっていけるって証明すれば良いんですよね?」
クリスティーナさんは何も答えず席を立ち炊事場へと向かう。
俺は、クリスティーナさんの大きな背中を見送りながら決意を新たにするのだった。
「そんなに甘い世界じゃないわよ……」
クリスティーナさんの去り際の呟きはハルトの耳には届かなかった。
*******
冒険者組合の扉を潜ると、そこはたくさんの人で溢れていた。
入口を入ると広いホールがあり、そこに丸テーブルと椅子がいくつも並べられており、各々のテーブルにはそれぞれのパーティメンバーが集まっている様に見えた。
1つのテーブルに集まってるのが1パーティって感じかな?
皆黙って座っているパーティもあれば、軽口をたたきあっているパーティもあるし、ここの職員みたいな人と話し込んでいるパーティもあった。
んー、こうやって見てると、皆誰かしら仲間がいてパーティを組むのが普通みたいな感じがする。
見渡す限りでは単独の冒険者が見当たらない……。
やっぱりこの世界でも、冒険者ってパーティが基本なのかな?
1人で来たのは良いけど、1人で出来る依頼とかあるのかな?
あっ、でもそれ以前に1人じゃ依頼受けれませんとか言われたらどうしよう……。
それに、冒険者ってどうやったらなれるんだろう?
昨日クリスティーナさんと喧嘩した手前『どうやったら冒険者になれますか?』何て質問が出来る訳もなく、とりあえず冒険者組合があるんだから行ったら何とかなるかなって、あまり深く考えずに来た訳なんだけど……。
んー、どっか受付みたいなのって無いのかな?
どうしていいのか分からないまま、入口付近をウロウロ、キョロキョロしていると不意に声をかけられた。
「やぁ、君も初めてかい?」
「えっ? あっ……あぁ、そうだけど?」
「やっぱりね、そうじゃないかと思ったよ。さっきから見てたけど、ずっとキョロキョロしてたからさ」
声をかけて来たのは、輝く銀髪に金色の瞳をした美男子だった……。
うっわ、なんだこの美男子は?
銀髪に光が反射してキラキラしてるし、爽やかな笑顔と少し高めの声音が妙にドキッと来る……。
怪訝に思いながらもハルトは冷静に銀髪の美男子を観察する。
髪は長髪を邪魔にならない様に三つ編みにして上げた感じの、所謂三つ編みアップと言った髪型をしており、銀色の髪が光を反射し、まるで後光でも差すかの様な眩しさだ。
整った顔立ちは柔和で、爽やかな笑顔が良く似合う。
服装は、白をベースにした服に銀の胸鎧を着込んで、純白のマントを羽織っているため、まるで白馬の王子様だ。
この完璧なまでの美男子っぷりに、ハルトは顔を引きつらせるばかりだった……。
「僕もね、冒険者組合に来るのは初めてなんだけどさ。君も冒険者になりに来たんだろ?」
「えっ……と、まぁ、そうだけど……」
「そっか、そっか。僕もね、1人で来たのは良いけど、ちょっと不安だったんだ。仲間が居て嬉しいよ。君も今から登録だろ? そこの窓口で受付けてるみたいだからさ、一緒に行こうよ」
「あっ……うん、そうだね……」
あー、もうー、さっきからまともに話せてない!
この美男子オーラが眩しすぎて、どう話して良いか全然分からないよー!
よりによって何で俺に話しかけてくるかなぁ……、俺がおもいっきり引いてるのが分からんのか!
こんなキラキラした奴の隣なんて全然落ち着かんわ!
あー、もうー、周りの目が容赦無く突き刺さってくるし、特に女性からの視線に殺気が篭ってて怖い……。
もう何でも良いから、早くどっか行ってくれないかなぁー。
ん? 何か美男子君が背を向けて顔だけこっち向いて待ってるけど……。
あー、そういやさっき一緒にとか言われて行くみたいな返事しちゃったなぁ。
あー、もうー、ほっといてくれー。
そんな、『さぁ! 一緒に行こう!』みたいな目で俺を見るのは止めてくれぇ。
でも、今更逃げられる雰囲気でも無いし、こうなったらサッサッと行ってサッサッと終わらせるしかないか……。




