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第28話 ホント、大丈夫かしら

ブクマ及び、作品の評価をして頂きましてありがとうございます。

更新お待たせしました。

今後ともよろしくお願いします。

 朝食を終えた俺達は、クリスティーナさんの案内で街を歩いていた。


 街は、俺達が入って来た正門から真っ直ぐに大通りが伸び裏門へと続くーー通称、表通りと呼ばれる綺麗に整備された道を基幹としていた。

 表通りに面した街の中央付近には噴水広場が在り、その周囲を囲う形で、北側に街役場と病院、東側に帝国兵舎、西側に商人組合、南側には傭兵組合と冒険者組合が在った。


 街の区分けも組合の位置に付随するかの様に、北側が貴族や富裕層の住む高級住宅街や高級な宿が多く、東側は貴族や帝国に仕える中級層の住民が住んでおり、役人や帝国兵が多く住んでいる。

 西側は商業区になっているが、北西区は貴族向けの商店や貴金属店など高級嗜好の料亭や店が建ち並び、庶民が立ち入れる雰囲気では無いが、南西区は庶民向けの商店や料亭が並んで二分されていた。

 最後に南側の区画だが、こちらは北区、中区、南区に区画が分けられ、北区では冒険者や傭兵等、外から来た人間が泊まる宿や酒場が乱立しーークリスティーナさんの家もこの区画に在ったーー中区は街の労働者層が住み、南区は貧民層が住むスラム街と化している。


 余談だが、俺がクリスティーナさんに初めて会った場所は、南区のスラム街へと続く路地だったらしく、それも暴漢に間違えられた原因の1つだった。


 街中の説明を受けながら、噴水広場、南西の商業区、南側の北区、中区を3人で歩きながら見て回り、今はまた噴水広場に戻って来た所だ。


 クリスティーナさんが居た所為か、眼つきや人相の悪い人種も遠巻きに見ているだけで、特に問題は起こらなかったが、見ている限りでは街の治安はそれほど良くなさそうに感じた。

 帝都からの避難民は、そのほとんどが南側の区画に流れ込み、至る所で道に座り込む人を見かけたが、クリスティーナさんの話しでは大半はスラム街へと流れて、いつも以上に治安が悪化していると言う話しも聞いた。


 俺達も、クリスティーナさんが居なかったらスラム街で生活していたかもしれない……。

 そう思うと、路上で生活している避難民への同情が禁じ得ないが、これだけの人数に何かをしてやれる訳もなく、視線を逸らし何も見なかったふりをしながら通り過ぎる事しか出来ない自分に嫌気が指す。


「軽く見て回った感じだけど、街の事はだいたい分かったかしら?」


「まぁ……だいたいは。とりあえず、中央の噴水広場から北側と東側、北西側と、後はスラム街に近づかない様にすれば良いですよね?」


「そうね。今は街全体がピリピリしてるし、家の周辺もあまり治安が良い訳じゃないから出掛ける時は注意してね。特に、ルウちゃんは1人で外に出ちゃダメよ。可愛い子が1人で歩いてたら何されるか分かった物じゃないわ」


「……ハルトと、一緒にいる」


 不意にルウにそう言われて、何故か頬が少し色付いた。


「ハルちゃん責任重大ね。ちゃんとルウちゃんの事、守ってあげなさいな」


「えっ、と……まぁ、ハハハ」


 ルウの事は守ってあげたいと思うけど、思うんだけど……。今の俺じゃ、守ってあげられる自信が無くて乾いた笑いで誤魔化す。


「もう! しっかりしなさいな!」


 そう言ってクリスティーナさんが俺の背を叩き、その衝撃で咽せて俺は咳き込んだ。


「ホント、大丈夫かしら……」


 咳き込む俺の後ろからクリスティーナさんの呆れた声が聞こえた。



 *******



 その後、表通りをのんびり歩きながら俺達はクリスティーナさんの家に戻って来ていた。


「はぁ〜、疲れたぁ」


 朝早くに街に出たはずなのに、帰った時にはもう陽は高くて、すでに昼頃になっていた。

 俺は3時間程度歩いただけで、足が痛くてかなり疲れていた。


「ちょっと街中を歩いただけなのに、ハルちゃんはだらしないわねぇ。ルウちゃんを見てみなさいな、汗一つかいてないわよ」


「……ハルト、だらしない?」


「うッ、何で2人とも少し散歩してきたみたいな感じなんだよ……。あんだけ歩き回って平然としてる方がおかしいよ」


「ハルちゃんはもっと体力付けないとダメよ。今迄どんな暮らししてたのかしら……」


「あー……、いやぁ、何て言うか……」


 元の世界の生活の事なんて説明できず、俺は微妙な返事を返す。


「……まぁいいわ。話せない事もあるでしょうしね」


 俺が微妙な返答をしたから、クリスティーナさんが聞いてはいけない事だと勝手に解釈して話しを切り上げる。


「あっ! クリスティーナさん、今更な感じなんだけど、聞いても良いですか?」


「あら、何かしら?」


「そのぉ、よく考えたら、まだこの街の名前知らないなぁって……」


「はぁ〜、呆れて物も言えないわ……。ここは帝国の4大都市の一つよ? そんな事も知らないなんて……。まぁ、いいわ。ここは、ブライス帝国4大都市の一つ、麦と冒険者の街、オーゲストよ」


「オーゲスト、か。……あと麦と冒険者の街って言うのは?」


「この街はね。帝国の食糧庫なのよ。帝国で食べられる食糧の殆どがここで作られているの。その中でも、特に小麦の生産が多くて……街の外で見なかった? この街の周囲一帯は巨大な小麦畑だから、街に入る時に見たと思うのだけど」


「あー、あのやたら広い金色の絨毯みたいな畑ですよね?」


「そう。それで麦の街。あとは、駆け出しの冒険者が集う街でもあるから。麦の黄金と一攫千金を夢見た冒険者が集う事を揶揄して、黄金の街、とも呼ぶ人はいるわ」


「黄金の街、か。えっと、駆け出しの冒険者が集うのは何で?」


「この街の周辺は比較的安全でね。まぁ、危険が少ないから街の外で農作業出来たり、街の防壁も木製で簡単な造りなんだけど。森に入っても魔物も弱いのが多いし、駆け出しでも何とか出来る依頼が多いのよ。だから、冒険者を始めるにはうってつけの街で各地から冒険者志願者が集まって来るのよ。そういった意味も含めて、麦と冒険者の街、なんて呼ばれてるのよ」


「そうなんだ……。クリスティーナさん教えてくれてありがとう」


 どういたしましてとクリスティーナさんは返事をして厨房へと向かう。これからお昼の準備をするんだろう。

 冒険者の街、かぁ。

 やっぱり、異世界に来たなら冒険者になるのが王道だよね。

 冒険者……憧れだよねぇ。

 この街が駆け出し冒険者の街なのも運命感じるよね。

 ここはもう冒険者になるしかないでしょ。

 お金を稼ぐにも、ルウを守れるくらい強くなるにも、冒険者になるのが手っ取り早いかもしれないしな。

 ルウの記憶、出来れば戻してやりたいし、家族がいるなら探して会わせてやりたい。

 街の外が危険なのは何となく分かったし、旅をするとかなってもルウを守れるだけの強さと自信も欲しい。

 もう、心は決まった!

 俺は! 冒険者になる!!

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