第27話 これからどうするか考えた?
ブクマ感謝です。
「んんー、ふわぁぁー……。あーよく寝たわー、何か、久しぶりに寝たって感じだわー」
ハルトは寝惚け眼を擦りながらダルそうにベッドから這い出す。
昨日はなんだかんだと色々あったけど、こうして寝床を確保出来たのはかなりの幸運だったと思う。
街中では、沢山の人が道端で野宿しているだろうに……。
そう考えると少し申し訳ない気持ちにはなるが……、だからと言って自分が手を差し伸べられる訳でも無いし、現状を誰かに譲る気も無い。
ホント自分勝手だよな……俺。
まぁ、クリスティーナさんはあんな感じだけど、良い人なのは間違いないんだよなぁ。
昨日も、ルウの手を引いて路地裏に行く俺を見て、ルウを無理矢理人気の無い場所に連れ込んでいる暴漢だと勘違いしたのが発端らしい。
この街の人々の避難民への対応から、冷たい人間ばかりだと思っていたけど……クリスティーナさんは、暴漢からルウを助けようとして声をかけてくれたんだよなぁ。
まぁ、人間じゃなくてエルフみたいなんだけど……。
ただ、俺が失神するくらい強烈なビンタを食らったのは、クリスティーナさんをオカマと呼んだのが原因みたいだ。
クリスティーナさんはキレると手が出るらしいから、オカマとか容姿に関する発言は注意しないと危険だな……不用意な発言は生命に関わりそうだ。
左頬、まだ少し腫れてる様な気がするし……。
さて、そろそろ起きて顔でも洗うか。
もう窓から差し込む陽射しが眩しくなって来たし、良い時間になってるだろう。
やっぱり時計は欲しいな……、クリスティーナさんの家にも時計は無いみたいだし、この世界に時計があるのかも分からないんだけど、現代人の性か、時間が分からないと何か落ち着かない気分になる。
「そういや、手洗い場って1階の風呂場の横か……」
独り言を言いながら、ハルトは部屋を出ると1階へと降り、そのまま風呂場に続く廊下を歩いていく。
こういう時、アニメのお約束だと美少女の入浴シーンが拝めたり、風呂上がりの美少女とバッティングしたり、オイシイシチュエーションが待ってるよな。
言わずもがな、美少女とはルウの事だが。
そう思い至ると、ハルトは足音を立てない様に忍び足で風呂場へと向かう。
風呂場の前で立ち止まると、中から人の気配がした。
よし! よしよしよし! 期待通りだ!! ここは何も気付かないフリをして中に突入だ!
ガラガラッとスライド式の扉を勢い良く開け放ち、中に居る人を足元から順に視界に入れていく。
「あッ、ごめ〜ん。まちがーーエタアァァァ〜!!」
「きゃッ。もうハルちゃんったら、そんな大胆に覗きなんて、イケない子ね。でも、そんなにみたいなら、見せてあげるわよ。大・胸・筋!」
「ーーーーすみませんでしたぁ〜!!」
ハルトは扉を開けっ放しにしたまま逃げ出した。
「もう、そんなに慌てて逃げなくったって……。ほんとウブなんだから」
脱衣所には、少し頬を染めて照れた感じのクリスティーナだけが残された。
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「いやぁ、さっきは申し訳ないです……」
「あらぁ、私はいつだって大歓迎よぉ」
「遠慮しておきます……」
先程のダメージが抜け切らず、食堂の机に突っ伏したままのハルトがクリスティーナに謝り、大歓迎発言をゲンナリした顔でやんわりと断っておく。
ルウは向かいの椅子に座ってるが、いつもと変わらず無言でクリスティーナさんの炊事を観察している。
あぁー、もう失敗したぁ。
失念してたわぁ、なんでもう1個のお約束の方が来るんだよ……。
朝からゲンナリだよ。この世の地獄を見たよ……。
はぁーあ。やる気でねぇー。
今日は1日ゴロゴロして過ごしたい気分だよ。
「朝ご飯出来たわよー。ほら、ハルちゃんもいつまでも机で伸びてないで場所開けて」
「はぁーい」
ダルそうに返事をしながらハルトが椅子に座り直すと、クリスティーナさんが手際よく朝ご飯の準備を終える。
ホント手際良いよなー、料理も美味いし、これで普通の女性だったら良いんだけど……。
男だし……オカマだし……マッチョだしなぁ……。
「さぁ、食べて食べて」
「あっ、いただきます」
「……いただきます」
ハルトとルウは手を合わせてそう言うとスプーンを片手にシチューの様な物を食べ始めた。
クリスティーナさんも椅子に座ると、スプーンを手に取り食べ始めていた。
あー、やっぱ美味いなぁ。
見た目は普通のシチューみたいだけど、具材がとても柔らかいのに形が崩れたりしてないし、程良い甘みが食欲をそそる。
味付けも俺好みで文句の付け所も無いな。
とか考えてるうちに器が空になっていた。
「おかわりあるわよ。ハルちゃんおかわりする?」
「えっと、いや、大丈夫です」
嘘だ。ホントはもっと食べたいが居候なうえ、大飯喰らいとかじゃ気不味いから遠慮した。
「遠慮しなくて良いのよ。2人共美味しそうに食べてくれるから、私嬉しいのよ。ハルちゃんまだ足りないでしょ? まだいっぱい作ってあるから」
「はぁ……じゃあ、お言葉に甘えて」
「ふふ、ルウちゃんもおかわりどうかしら?」
「……おかわり」
「じゃあ、少し待っててね」
クリスティーナさんはそう言って俺達のおかわりを入れに行った。
ルウはスプーンを咥えたままクリスティーナさんをぼーっと見てた。
何かすごく子供っぽい仕草だけど……ってまだ子供だったか。
でも、やっぱりルウって何やってても可愛いなぁ。
行儀はあまり宜しく無いけど……。
「ルウ」
「……ん? 何? ハルト」
俺はさりげなくジェスチャーで口に咥えたスプーンに注意を促す。
ルウはスプーンを口から出すと、右手でスプーンを握り締めて机の上に手を置いた。
握り締めたスプーンが垂直になっているが、よく小さい子があんな感じでスプーン握ってご飯待ってたりするなぁ、とか思いながら。
まぁ、さっきよりはマシだけど……ま、いいか。汚れたスプーンを机に置くのもどうかと思うし、咥えるのを止めてくれたなら良しとしとこう。
そこまで考え終わるのと同時にクリスティーナさんが戻ってきて、俺達におかわりが出される。
「はい、おまたせ、好きなだけ食べてね」
「いただきます」
「……いただきます」
ルウは俺の方を伺いながら、俺に続いて答え食事を再開する。
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「ごちそうさまです。美味しかったです」
「……ごちそうさま」
「お口に合って良かったわぁ」
クリスティーナさんは食器を片付けると、飲物の入ったコップを3人分用意していた。
食器類は全部木製だったが、使い心地は意外と良かった。
コップの中身は昨日と同じ、紅茶の様な味がする薄い茶色の飲物だった。
どっちかと言えば、コップよりティーカップで飲みたい感じの飲物だが、木製の食器しか無いところを見ると、陶器は有ったとしてもこの世界では高級品なのかも知れないなと思った。
「ところでハルちゃん。貴方達、これからどうするか考えた?」
「いえ……まだ、何も。……この街の事も何も知らないし……、今の自分に何が出来るかも分からなくて……正直、困ってます」
ホントは……街だけじゃなく、この世界の事も、この世界の常識も、魔物の事、金の事、
ステイタスやスキル、勇者や魔女……。
分からない事だらけで、分からない事しか無かった。
でも、こんな事、全部話してしまって大丈夫なのか? 話して信じてもらえるのか?
分からない……分からないから、話すのが怖かった。
「……そう。まぁ、決められないのも、仕方ないかもしれないわね。昨日から貴方達の事を見ていたけど……。食事の仕方やルウちゃんの服を見る限りでは、かなり裕福な環境で育ったのではなくて?」
「え!? いや……そんな事は……」
「……ハルちゃんは嘘が下手ね。隠しても手を見れば分かるわよ」
「手?」
「ハルちゃん手。ルウちゃんもだけど、すごく綺麗だし、手豆の一つも無い。そんな綺麗な手をしてる子なんてーー貴族や皇族くらいな物よ?」
「えぇ! そ、そんな事で……」
そう言いながらも、何となく気不味くて、両手を机の下に降ろしてクリスティーナさんから見えない様に隠してしまう。
「ごめんなさいね。何もハルちゃん達をどうにかしようって訳じゃないの。私が貴方達を気に入ったって言うのは嘘じゃないし、話したくない事なら無理に聞き出したりする気もないわ。だから警戒しないで」
「……はぁ」
気の無い返事を返しながら、気付かない内に高まっていた警戒感が少し緩む。
「私が言いたかったのは、貴方達がそれなりに裕福な暮らしをしてきたって見られている事を理解してない事が心配なの。この街も、見た目は綺麗だけど人々の暮らしは貧しいわ。表通りはまだ安全な方だけど、裏通りに入れば窃盗や強請りたかりは日常茶飯事なの。だから、まずは街での暮らし方を覚えてもらわないといけないわね」
「まぁ、それは……たしかにそうかも」
「だから、すぐに家賃を払ってもらおうとか、何かしてもらうつもりもないから、焦らずに行きましょうって事よ。今日は私が街を色々案内してあげるから、分からない事は何でも聞いて。仕事とかは、街に慣れてきてから探していけばいいのよ」
「あ……ありがとうございます」
ホント、クリスティーナさんに知り合えて良かった。
こんなに親切にしてもらえて、クリスティーナさんには、いつかちゃんと恩返ししたいな。
いつも読んでいただいてありがとうございます。
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