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第26話 何処に行っても、皆一緒か

たくさんブクマして頂きまして、ありがとうございます。

応援してくれる方が居ると思えるだけで励みになります。

これからも頑張りますのでよろしくお願いします。

 漸く抜け出した水路から、近くに見えたいくつもの屋根があった場所を目指して歩く事数時間。

 道と思わしき砂地が露出した通りを辿り、途中木々の間を抜けて視界が開けたその先に街があった。


 街は2m程の高さの、木の板を組み上げた簡易な塀で囲まれ、入口の門も隙間だらけの木造りの門があるだけだった。

 その気になれば塀をよじ登って越えられるだろう。

 街の周囲は、黄金色の絨毯が敷き詰められた様であり、最初はそれが何なのか、理解する事が出来ない程に美しい光景だった。

 風が舞い、波打つ様に揺れる穂先を目にした事で、漸くそれが麦畑なのだと理解が及ぶ。

 辺り一面に広がる広大な麦畑と、その中心に位置する街ーーまるで、黄金の海に浮かぶ街ーー黄金郷の様な幻想的な光景だった。


 その街の入口には群衆が集まって列を作り、高台から鎧を着込んだ兵士が列を乱さないように、列に並ぶようにと群衆に指示を出していた。

 ハルト達は仕方なくその長蛇の列の最後尾へと向かった。


 塀とか簡単に乗り越えられそうだけど、皆並んでるしなぁ。

 もし塀を乗り越えてるのを見つかったら、ごめんなさいではすまなさそうだし……。

 列に沿って最後尾に向かう間にも、剣や鎧で武装してる人達や、列の側に立って周囲を見回している入口の兵士と同じ鎧を着た兵士が居たり、女性や子供でも短剣を下げている人がチラホラ居るのも分かった。

 女子供でも武器が必要な世界で、下手な事して捕まったりすれば、一生牢屋から出られないとか殺されるって可能性だって無いとは言い切れない……。

 ここは時間がかかっても素直に並んだ方が良いだろう。


 最後尾まではかなりの距離があった。

 ハルト達はどうにか最後尾に並べたが、まだこの街へ向かっている人が居るらしく、すぐにハルト達の後ろにも人が並んでいく。


「うわぁー。これだけの人、どっから来てるんだろ? こんな人数、コミケ会場の入口みたいだなぁ」


 ふと、ハルトが素直な感想を口に出してしまうと、前に並んでいた男がこちらを見て訝しげな顔をした後、話し掛けてきた。


「ん? ……あんたらどっから来た? 知らないのか? 一昨日帝都で大変な事があってな、皆帝都から逃げて来たんだよ。すぐ街に入って宿を取りたいところだが……。この人の多さじゃぁ、もう空いてる宿なんか無いだろうな」


「そ、そうですか……」


「あんたらも運が無かったなぁ。うちは馬車があるから最悪こいつで寝れば良いが……。街中で野宿ってのも不憫だと思うがね。まぁ、命あっての物種って言うしな、街中なら魔物の心配だけは無いし、休めるだけありがたいってもんよ」


「魔物……か」


 あの鼠みたいな化物が彷徨いてるなら何とかして街には入らないとな。

 宿はもう空いて無い……か……。


「あぁーー!!」


「うおっ! 急に大声出すなよ兄ちゃん。びっくりするだろうが」


「しまった……、お金、持ってない……」


「はぁ? オイオイ兄ちゃん文無しか? それじゃ飯にもありつけねぇぞ。つってもこんだけの人が押し寄せてるんだ、飯の値段も馬鹿高くなってるだろうから、庶民には払えねえと思うがね。まぁ、今は何処に行っても同じようなもんだろうから、どっか伝手を頼るか、近場で獣でも狩って食い繋ぐのが良いかもな」


 そこまで話すと男はまた前を向いて列に並び直していた。


 あー、マジどうしよう。

 この世界の金なんて持ってないし、狩りとか言われても……そんなの俺に出来る訳ないよ。

 ルウが居れば、魔法で何とか狩れるかもしれないけど、それを食べるとか言われてもどうしたら良いか分からないよ……。

 と、とにかく、街に入ってから考えよう。

 ああは言われたけど、実際中に入ってみないと分からないし、中に入れば何とかなるかもしれないし……。


 お金……お金、か。

 どうしよう? どうしたら良いのかな?

 ルウは……、こう言っちゃなんだけど、あんまり相談事の役には立たないんだよなぁ。

 んー? この短剣とか……売ったらいくらになるんだろ? 流石に飯代くらいにはなると思うけど。2人の一食分にしかならなかったら意味無いしなぁ。

 しかし、飯の事考えてたら余計に腹減ったなぁ。

 前食べたのいつだ? そういや会社終わってから食べたパンが最後か?

 あー、もっとちゃんとしたの食っとけば良かったよ。

 もう丸一日? ……二日? あれ? 今どれくらい時間経ってるんだろ?

 えーと、水路の出口で寝てるから、一日は過ぎてるはず……。

 そういやさっき、帝都で大変な事があったって話してる時、一昨日って言ってたよな?

 たしか、マリアンさんは昨夜って言ってたよね?

 なら、多分今でだいたい一日半くらい過ぎたってとこか?

 そりゃ腹も減るわ……。

 ルウは……何も言わないけど腹減ってるよなぁ。

 ルウが泣き言一つ言わないのに、俺ばっか腹減ったって言う訳には行かないしなぁ。

 しかし、どうしたものかな……。

 飯の事もお金の事も、切実な問題だよな……。


「次!」


 急に声をかけられ身体がビクッと跳ねて、ハルトは現実に引き戻される。

 いつの間にかハルト達の順番が回って来ていた。


「どうした? 入らないのか?」


「あッ、すみません。入ります」


「2人か? 街へは何の用だ?」


「えっと。俺達、帝都から逃げて来て……」


「避難民か、特に問題は無さそうだな……。今はただでさえ忙しいんだ、問題は起こすなよ!」


「だ、大丈夫です。問題なんて起こしませんから」


「なら行って良し! 次!」


 入口の兵士との問答を何とかやり過ごしてハルト達は街へと入る。

 兵士達は続々とやってくる避難民の相手で忙しそうで、特に何かを調べられる事も、荷物検査すらなく街へ入れた。

 多分処理する人数が多過ぎて杜撰な対応になってきているのだろう。

 まぁ、お陰で無事街には入れた訳だが……。


「こっから、どうしたら良いんだろう……」


 ハルトは完全にノープランだった。


「ルウ? どうしよっか?」


「……付いてく」


 予想はしてたけど、また来たよ……付いてく。

 はぁー、やっぱり自分で何か考えるしかないか。

 街中をざっと見回すと、避難民らしき人々が至る所で座り込んでいて、この街の人らしい方は避難民を哀れむ眼で見ながら避けて歩いたり、中には邪魔な物を見るような冷たい視線を向ける者も居る。

 人々で助け合おうとか、協力しようなんて空気は微塵も感じられない……。

 皆、自分達の事で精一杯、他人の事なんて構ってられないって感じだ。

 元の世界でも、こっちの世界でも、こういう所は一緒なんだな……。


「何処に行っても、皆一緒か……」


 少しだけ物悲しく思いながらも、結局自分も同じなんだと思い、現状を受け入れ諦める。

 自分だけやったって意味が無い、皆そうなんだから仕方ないだろって言い訳しながら目を背ける。

 それが当たり前だと言わんばかりに……。


 兎に角、何とか飯にありつきたい所だが。

 いかんせん先立つ物も無く、どうしたものかと途方に暮れる。

 とりあえず、何処か休める場所は無いかと2人は街中を歩きだした。

 色々歩いてみたが、何処も彼処も人で溢れ、街中に充満するのは悲壮感のみ。

 この分じゃ、何処も一緒だろうと思った矢先、前から来た馬車がグラつきルウに接触しそうになった。

 慌ててハルトはルウの手を取って引き寄せ事無きを得た。


「危ないなぁ。ルウ、向こうの路地なら馬車も通れないからあっちに行こう」


 そう言ってハルトはルウの手を引き、路地裏へと向かった。


 路地裏に入ると、そこは薄暗く人気も無かった。

 ハルトはルウの手を引きながら奥へ向かおうと歩き出す。


「おい! その子から手を離しな!!」


「え?」


 ハルトが振り向くと、そこには筋肉ムキムキの男がしなを作って立っていた。

 視線を上にあげると、金髪ロングに青い眼、整った顔立ちの美形だった。


「うわッ! 何このアンバランス!」


「いきなり失礼な子ね! 傷付くわよ!」


「オカマかよ!」


 ハルトの発言と同時に、バッチーンと良い音が響く。

 ハルトの頬にゴツい平手が炸裂した音だった。


「ぶべらッ」


 ハルトは声を上げて錐揉みながら失神した。


「ホント失礼しちゃうわ。あなた、何もされなかった? もう大丈夫よ」


「ハルト!」


「あら? 知り合い? 私、またやっちゃったかしら」


 朦朧とした意識の中で届いたのは、ルウの心配する声だけだった……。

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