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第25話 久しぶりのベッドだぁ

大変お待たせしました。

第2章の執筆を開始しましたので投下します。

今後もよろしくお願いします。

ブクマ頂いた方に感謝を。

「あ〜、美味かったあぁ〜」


 左頰を赤く腫らした黒髪、黒眼の青年が、椅子の背もたれにもたれながら、お腹を摩り満腹を示し声を上げる。

 その隣では、薄藍色の髪と真紅の瞳を持つ美少女が、スプーンを空の器に静かに置いて両手を合わせていた。


 空になった器を下げに来たのは。

 金髪ロングのサラサラヘアーに、青い眼、尖った耳ーーハルトからすれば見馴れた容姿だが、現実では出会った事など無い……出会えるはずなど無かった存在。

 ーー所謂、エルフが其処に居た。

 顔は彫りが深く、鼻も高い、整った顔立ちで、エルフなら頷ける造形美……たしかに美形だ、と思う。

 そう、顔だけなら……。


 問題は顔の下だ。

 身体は、ボディビルダー並みに筋骨隆々で、腕の太さもハルトの太腿より太い。

 身長も180は超えてるだろう、ハルトが並ぶとまるで大人と子供だ。

 この全身筋肉鎧のムキムキ感と威圧感……。

 まるで、どっかの世紀末覇者、◯オウ様かと思ってしまう貫禄……。さらに桃色のエプロンが殺人的な威力を底上げしていた……。


「まぁ、お口に合って良かったわぁ。ルウちゃんも満足して頂けたのかしらぁ?」


「……美味しかった」


「あら、嬉しいわぁ。そう言って貰えると、女冥利に尽きるわねぇ」


 女冥利って、どっから見ても男だろッ! エルフのイメージが……エルフのイメージが……と床に突っ伏したくなる程の残念感と、諸々ツッコミを入れたくて仕方ない要素がふんだんにあったが、左頰の腫れ具合を思い言葉を飲み込む。


 要点だけを纏めるとすれば、エルフの美顔に長身のドワーフの身体をくっ付けたようなアンバランス感と、さらに桃色エプロンとオネエ言葉がこれでもかと奈落に突き落としてくるーー見る者全てに恐怖を撒き散らす存在だった。


 しっかし、ルウの順応力高すぎだろ。

 もう、違和感無く受け答えしてるし……。

 俺は未だに話しかけられたら顔は引き攣るし、背筋に悪寒が走るってのに。

 まぁ、メシは美味かったし……メシ食わして貰って文句言うのもどうかと思うけど。

 とりあえず礼くらいは言わないと失礼だしなぁ。


「あの! クリ……クリス、ティーナ……さん! えと、食事! ありがとう、ございます。あと! 美味しかったです」


 クリスティーナって……全然名前似合わねーよ! あんな化物をクリスティーナって呼ばないといけないとか、何の罰ゲームだよ!


「まぁ、ハルちゃんったらぁ、私がいくら綺麗だからって、そんなに緊張しなくて良いのよぉ。さっきはごめんなさいねぇ。たまにあるのよぉ。私、乙女心がちょっぴり傷付いたりするとねぇ。つい手が出ちゃって、……悪い癖よねぇ。治そうとは思ってるのよぉ。でもねぇ、昔からの癖でぇ。ダメなわ・た・し、テヘペロ」


 ウッ、気持ちわるぅ!! だ、ダメだ! 寒気と吐き気がパネェ。 やっぱ無理、吐きそう!

 今は試練の時だ! 耐えろ! タエロタエロタエロ!!

 ウプッ、ぐっ。ハァハァ……あ、あぶねぇ。

 危うくさっきの全部吐いちゃうとこだったわ……。


 やっぱキツイ……あの野太い声でオネエ言葉話されると、気持ち悪くて仕方ない。

 ちょっと聞こえただけで全身に悪寒が走って、酸っぱい物まで込み上げて来る……。

 あぁもう、全身に鳥肌も立ってるよ……。


「いや、まぁ。あれは俺が変な事言ってしまったから。悪いのは俺の方です。すみません」


「ホント、ハルちゃんは良い子ねぇ。食べちゃいたいくらい」


 ゾクゾクッと身体が身震いし、爪先から頭の天辺へと寒気が走り抜ける。

 髪の毛が全部逆立つ様な感覚を感じながら、身の危険を覚えた。


「い、いや、遠慮しておきます……」


「あら、残念」


 なんとか危険を回避しつつ、ちらりとルウの方を見ると、食べ終わった食器は下げられ、代わりに出された飲み物を両手で包む様に持ちながら飲んでいた。

 いつの間にか、俺の前にも同じ飲み物が出されていた。

 って、いつの間に飲み物出されたんだろ……。

 料理に飲み物に、何か無駄に女子力たけーよなぁ。

 身体はあんなマッチョなのに……。


 エルフって、スリムでスレンダーな身体に、美男美女しかいないってイメージだったのに、何であんな……ムキムキマッチョな筋肉達磨なんだろ……。

 顔は確かにイケメンだと思うし、あれで身体がスレンダーならオカマでも女と間違えてたかもしれない。

 もしかして、この世界のエルフって、皆こうなのか?

 いやいや、流石にそれは勘弁してくれ。クリスティーナさんだけが特別だと信じたい……。


「そういえばハルちゃん、貴方達、行く宛はあるの? 帝都が魔女に襲われたとかで、避難民が街に流れて来てるから宿はどこもいっぱいだし、通りにも行き場の無い人が溢れてて、何処か身を寄せる所が有るなら良いんだけど……」


「……いえ、何処も行く場所は無くて。それに俺達……お金も、持ってなくて……」


 ハルトは、両手で持ったコップの中身を回す様に揺らしながら、揺れる水面を見つめて答える。


「そう……。んー、一つ提案があるのだけど」


「何ですか?」


「私、ハルちゃんとルウちゃんの事、気に入っちゃったの。2人共素直で純粋だし、少し話しただけで分かるくらい、とても良い子だと思うわ」


「えっと、それは、どうも……」


「それで、今、ホントにたまたまなんだけど、ここの2階に空き部屋があるの」


「はぁ……?」


「もう! 鈍い子ねぇ。2人さえ良かったら2階に住ませてあげても良いわよって事よぉ」


「えっ! 良いんですか!!」


「ええ、良いわよぉ。でも、家賃はちゃんと貰うわよぉ」


「いや、だからお金無いって……」


「すぐに、とは言わないわよぉ。ハルちゃんが稼いで来るまでツケといてあげるわよ」


「あぁ、それなら何とか、なる? かな?」


「しっかりしなさいなっ、ルウちゃん1人くらい養える様に頑張りなさい」


「そ、そうですね……」


「ホント、大丈夫かしらぁ。……まぁ、いいわ。それ飲み終わったら部屋に案内してあげるから、これからよろしくね」


「あ、よろしくお願いします」



 ********



「あー、疲れたあぁー。久しぶりのベッドだぁ。生き返るわぁ」


 クリスティーナさんに部屋に案内されると、

 ハルトはすぐにジャージに着替えてベッドに飛び込んだ。


 クリスティーナさんの家は意外と広く、1階は少し広めの玄関ホールを入り、2階への階段横に応接室と、反対側にはクリスティーナさんがやってる雑貨屋に繋がっているらしい扉があった。

 1階奥に続く通路を行くと、先程居た広めの食堂とキッチンがある。

 食堂は、4人掛けの机と椅子が3セット置いてあり、キッチンも3人くらいで同時に料理が出来そうな程立派だった。

 他にも部屋がいくつかあるが、そこは食材置場だったり倉庫だったり、風呂場だったりした。

 2階の方は、寝室が個室でいくつもあり、宿屋だって開けるんじゃないかって感じだ。

 そのうちの、隣合わせの2部屋が俺とルウの部屋になった。

 何でこんな広い家にクリスティーナさん1人だけなのか? それは不思議に思ったが聞くのは何故か戸惑われた。

 クリスティーナさん自身の問題で1人なのかもしれなかったし……聞くのがちょっと怖かったってのもある。

 それよりも、あのナリで店をやっているという事の方が不思議だ。

 失礼な話しだが、一見さんだと店に入った瞬間逃げられそうだと思う。


 これからいつまで此処に居るかは分からないが、でも、当面は仕事を探して、働いて、家賃を稼がないといけない。

 異世界に行っても金、金、金。

 結局生きて行く為に働いて金を稼ぐ、それは何処に行っても同じなんだなと思った。


 兎にも角にも明日から……明日から何をするか考えよう……。

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