第24話 じゃあ街を目指して行きますか!
ブクマ感謝です。
やっと1章完結です。
次話から2章となります。
頑張って執筆しますので応援してもらえると嬉しく思います。
暖かな日差しが降り注いでいた。
日差しを受けた頬が暖かく、柔らかな枕がとても心地良かった。
ん、んん。
もう朝か……?
硬いベッド? またゲームで寝落ちして床で寝ちゃったか?
何かリアルで、変な夢だったなぁ。
異世界に勇者として召喚されたのに、何かステイタス最弱で、すっごい好みの美少女に会って……、あんな可愛い子、現実にいる訳無いし、俺みたいなゲームヲタクが付き合える訳無いよねー。
相手にされないだろうし、釣り合わないしね。
でも、あんな可愛い子を彼女に出来たら、死んでもいいかも……。
そんな馬鹿な事を考えながら、そろそろ起きるかと目を開けるとーー紅い眼と目が合った。
…………居たあぁぁーー!!
「うおわぁ!!」
奇声を上げてハルトは飛び起きる!
「ぐおッ! ってぇぇ、痛ってえぇ!! 全身痛い!」
こっちが現実だった!
昨日の無理が祟って、全身筋肉痛……。
あまりの痛さに、もう動きたくなかった。
どうにか痛みを我慢して座り込むと、紅い眼の少女に視線を向ける。
「ハルト、だいじょぶ?」
あぁ、顔も、声も、カワイイ……。
っと、俺が答えないから心配そうな顔してる。
「だ、大丈夫。ちょっと筋肉痛で身体中痛いだけだから」
そうは言った物の……、これ程酷い筋肉痛は、今迄生きて来て初めての経験だった。
少しでも身体を動かそうとしたら、耐え難い程の激痛が走るという……これ、どうしたら良いんだ?
こんな状態だと、ここから動けないんだけど……。
それより、俺っていつ寝たんだろ?
いったいどれだけの時間寝たんだ?
太陽の加減から何となく、今は朝方なんじゃないかって感じだけど……。
「ええっと、ルウ、俺ってどのくらい寝てた?」
「んと……暗くなって、明るくなるまで?」
「って、それ、半日くらい寝てたんじゃ……」
あれが昨日の事だって感じたのは間違いじゃなかったか……。
寝過ぎだろ、俺。
まぁ、ルウの膝枕が気持ち良すぎるから爆睡しちゃったのかもなぁ。
ん? ずっと膝枕してたなら、ルウって寝てないんじゃ?
「ルウ。昨日寝た?」
「寝てない、よ」
あ〜、やっぱり。
俺が膝枕させてたから、ルウがずっと寝れなかったんだよな……。
悪い事したなぁ。
俺なんか放って寝てくれて良かったのになぁ。
とりあえずルウには少し寝て貰うとして、俺はどうするかな?
「ごめんね。俺の所為で寝れなくて……。今から少し眠ると良いよ」
「だいじょぶ、だよ」
「ーーいや、だって寝てないでしょ。俺もすぐに動けないし、まだ時間あるからルウは少し寝てて。何かあったらすぐ起こすからさ」
「……うん、分かった」
ルウは水路出口の側に移動すると、そこに横になった。
ルウはこれで良しっと。次は、俺の身体、どうするかな?
本当の事を言えば、もうお腹と背中がくっつきそうな程にハラ減ってるし、すぐにでも街を探して飯を食べたいんだけど。
この筋肉痛じゃ、座ってるのもしんどいし、すぐに移動ってのは正直キツイな……。
気休めにしかならないかもしれないが、ルウが寝てる間、自分でストレッチやマッサージでもするか。
いったたた、あいたたた……。
腕を伸ばしたり、身体を捻ったり、脚を摩ったりと、出来る範囲で身体を解すが。
やっぱり痛い……。首も肩も腕も腰も脚も、痛いとこしかないわ。
ルウは、やっぱり無理して起きてたのか、すぐに寝息を立てて眠ってしまった。
あー、マリアンさんが居てくれたらなぁ。
回復魔法で治して貰うのに……。
回復魔法……どうにかして覚えられないのかなぁ。
俺のMPが壊滅的でも、1回くらいなら使えるんじゃないか?
ゲームだって、回復手段の確保は最優先事項だしな。
マリアンさんの回復魔法ーー何て言ってたかな?
たしか、ル……何とかディア? 何だったか? ル……、ル、ルー…………。
んー? ルミア? ルミアディアだっけか?
何かちょっと違う気がするなぁ。
んん〜、あッ、ルミナディアだ!
多分これで間違いない!
これって呪文の名称だけで発動するのかな?
マリアンさんは何か詠唱っぽいの言ってたけど……、でもルウって呪文の名称だけでも普通に使えてるよな?
ん〜、この世界の魔法の仕組みが分からないから、答えが出ないわ。
あー、でも鑑定って名称だけで使えてたなぁ。
スキルと魔法が一緒かって言われたら、これも分からないんだけどね……。
まぁ、とりあえずダメ元でやってみるか。
半日も寝たらMPは全快してるだろうし、もし使えたら儲けものだし、損する訳でもないしな。
「ーー癒光」
ルウを起こさない様、小声で呪文を唱える。
一瞬何か起こった様な気がしたが、特に変化は無い……。
やっぱ無理だよなぁ。
そんな簡単に使えたりしないわな。
まぁ、ダメで元々、そんな期待してなかったし仕方ないね。
ただ、やっぱり魔法でも薬でも良いから、回復手段は早めに確保しないとな。
今迄は、運良くたいした怪我もせず来れたけど、この先大怪我する可能性だってあるし、何よりルウが怪我して治療出来ないとかなったらーーそれだけは絶対嫌だ。
俺は多少怪我しようが傷が残ろうが構わない。
男だし、傷があっても別に恥ずかしいとも思わないし、逆に顔に傷とかあったらカッコイイとか思っちゃうしなぁ。
でも、ルウは……、女の子が怪我したり、傷が残ったりするなんて可哀想だ。
まして、顔に傷なんて残ったら、絶対に嫌だ!!
あんな可愛い顔してるのに、傷が残る様な怪我なんてしたら、俺……そんな女の子を慰める方法何か分からないし、責任だって取れないよ。
だから、ルウにはあんまり戦わせたくないんだけど、俺が弱すぎるから……。
何か……、哀しくなってきたわ……。
ま、まぁ、当面は、街探しと食事、それから回復手段の確保が目標かな。
何か色々考えてる間に、結構時間経ったな。
身体もストレッチの効果か、大分楽になった気がする。
多少動けそうなので、水路に近づき顔を洗って少しサッパリした。
空腹もピークを過ぎたのか、今はハラ減って死にそうって感じでも無く、まだ我慢出来る範囲だった。
それでも、何かの足しにする様に、水路の水をがぶ飲みしておいたが……。
「ふう、これで少しは持つと良いけど」
ハルトは独り言を呟きながら、昨日あまり確認出来なかった水路の出口周辺を見て回る。
出口部分は、水路と同じ石で崩れない様にしっかりした造りになっていて、水路の水は、昨日大鼠が身投げした崖へ流れ込んでいた。
下から見れたら、結構大きな滝みたいに見えて綺麗かも知れないなぁと思いつつ崖下を覗く。
崖下は、ここからだと全く見えず、森の様に木々が茂って地面は見えない。
この場所は、位置的には山の中腹って感じで、水路出口の上に山が続いている様だった。
上の方は、今度は雲で遮られてこちらもどうなっているか分からない。
出口の横には山沿いに下れそうな道があるので、進むならこの道を辿るしかないだろう。
道の先を目で追いながら、ふと少し遠くに視線を向けた時、やっと気付いた。
黄金色の大地が広がるその中央に、建物の屋根らしき物ーー赤や青の色が目に入り、そこが街か村だろうと思われた。
「あれ、街か? 山を下りて結構距離あるけど、ここから真っ直ぐ行けば着きそうだ」
誰に言うでもなく言葉が口を吐き。
ハルトは、寝ているルウを起こしに行く。
「ルウ、起きて」
身体を軽く揺すりながら優しく声をかける。
「ん、んん。……ハルト? どうした、の?」
「眠いのに、起こしてごめんね。向こうの方に街みたいなのが見えるから、明るいうちに出発して暗くなるまでに街に着いておきたいなと思って……。大丈夫? 起きれそう?」
「ん……、だいじょぶ」
そう言ってルウは起き上がると、少し乱れた服装を整え、土を払う。
「何か、やり残した事とか、忘れ物とか無い?」
「だいじょぶ」
「そっか、じゃあ街を目指して行きますか!」
歩き出す2人の行く道を暖かな日差しが優しく照らし、鳥の囀りが前途を祝福する様に鳴り響いていた。




