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第23話 終わった……のか?

またブクマして頂き、ありがとうございます。

もうすぐ、帝都脱出編が終わりますので、頑張らせて頂きます。

 身体が地に投げ出される衝撃と、ルウが胸元に収まる感覚が同時にあった。


「グッ、ア……、ルウ? ルウ! ルウ!!」


 ハルトは荒い息を整える間も無く、自分の胸元に収まったルウの名を呼んで、大鼠に喰われたルウの腕を見る……。


「ルッ、……腕! ある? あ、アレ?」


 そこには、キョトンとした顔の傷一つ無いルウが居て、喰われた筈の左腕も存在していた……。

 見間違い、か? いや! 確かに、大鼠に、喰われた、はず……?

 あの一瞬で何かあったのか?

 何で服すら破れていない?

 目の錯覚とか? 焦り過ぎて見間違えただけか?

 いや! 今は考えてる場合じゃーー大鼠は!


 ルウが無傷な理由を考え込もうとした所で、大鼠からまだ逃げ切っていない事実を思い出し、先程出てきた出口の方を見るーー。


「ーーなっ!」


 その現状を見て、ハルトが驚きの声を上げる。


 大鼠の大群はーー出口から真っ直ぐ飛び出して……、その先に広がっている崖へと身投げしていた……。

 前を走る大鼠が崖へと落ちていくのに、後ろに続く大鼠は意に介さず、速度も落とさず崖へと身投げしていく。


 なん、だ? これ?

 集団自殺? 崖があるのに止まる所か速度も落とさず飛び出して……、何十、何百という大鼠が崖下へと滝の様に落ちていく……。


 暫くすると、切れ間なく続いていた大鼠の身投げが途切れ静寂が訪れる。


「終わった……のか?」


 ハルトはゴクリと唾を飲み込み、出口を眺めながら様子を伺う。

 すぐにでも出口に駆け寄り、中を覗いて安全を確認したかったが、限界を超えて酷使した両脚は痙攣し、少し動かすだけでもかなりの痛みを感じる為、動く事すらままならなかった。


 今、もし襲われたら逃げる事も出来ないし、ルウが1人で戦う事になるだろう。

 だから、安全かどうかだけでも早く確認したかった。


 ハルトは、立って歩ける状態ではない為、四つん這いになりながら出口の前まで移動する。

 ルウは心配そうな顔をしながら、すぐ後ろを付いて来ていた。

 ルウが付いて来ているのは分かったが、ハルトは特に何も言わず出口へと向かった。


 今は、先に安全確認をしよう。

 出口は……っとーー居ない……。

 大丈夫……かな? もう大鼠は居ないみたいだ。

 崖の方は? うわ、意外と高いし底が見えない……。

 ここから落ちたなら、大鼠も生きてはいないだろう。

 仮にもし生き残りが居ても、ここまで戻ってくる事はないと思う。


 とりあえず、もう危険は無さそうだ。

 これでやっと一息吐ける……。

 ハルトは大きく溜息を吐くと、その場で仰向けに寝転がる。

 身体を酷使し過ぎて、もう限界だった。

 乱れた呼吸はだいぶ落ち着いてきていたが、全身が痛くて怠い、こんなに走ったのは初めてだ。


 インドア派なハルトは、運動が嫌いで、中学、高校と体育の授業くらいしか身体を動かしたりしなかった。

 それも、義務的に仕方なくやっていた程度で、体育とかかったるいなぁって感じで手を抜きまくっていた。

 毎日部活で練習に励む生徒を、物好きな奴等と思っていた程だ。

 働きだしてからは、さらに運動とは無縁な生活になり、身体は完全に鈍っていた。

 そんな身体に鞭打ち、命懸けで全力で走れば、動けなくなるのも当然の結果だった。


 はぁー、何とか助かったあぁ〜。

 今回はーー運が良かった……。

 ルウが魔法で援護してくれて、大鼠との距離を稼いでくれなかったら、確実に集団に飲み込まれてた。

 大鼠に踏みしだかれて死ぬとか、今思い出しただけでもゾッとするわ。


 それに出口でも……、大鼠を少しでも躱せればと、そう考えて横に飛んだが、それで偶然にも命を拾った。

 本当ならあの時気付くべきだった。

 出口を見つけて走っていた時、外に見える景色が青い空しか無いって事は、道が無かったって事だ。

 それなのに何も気付かなかった、あのまま真っ直ぐ走っていたらーー俺達も崖下に落ちていた。

 たまたま横に躱して墜落死を免れ、崖があったから大鼠が落ちて助かった。

 もし、大鼠が崖に落ちてなかったら、今頃囲まれて、もう一歩も動けない俺は詰んでしまってただろう。


 しかし、何故大鼠は止まりもせず崖下に落ちたんだ?

 猪みたいに走り出したら曲がれなくて止まれないとかか?

 ん〜、でも一応鼠だしなぁ。猪と同じってのは何か違う様な気もするな〜。

 あっ! そういえば何か昔、本で読んだ事があるアレと同じとか?

 たしか、レミングス……だっけか? 何か集団自殺する鼠だとか何とか書いてた気が……。

 何で自殺するのかは知らないけど……。


 まぁ、大鼠が地球の鼠と一緒かって言われると微妙な気もするが、これが一番しっくり来るし、鼠の習性みたいな物と思っとこ。


 しかし、まぁ、それ以上に謎なのは……。

 やっぱルウ、だよなぁ〜。

 ルウは今、隣に座って休んでる。

 あの時、確かにルウの左手は大鼠の牙に喰われた……様にしか見えなかった。

 あの、鮫みたいな牙が生えた大口で喰われてーー無傷ってのは絶対にオカシイ。

 目を瞑ってしまったから、喰われた後にどうなったかは分からない。

 でも、服も破れる所か汚れ一つ付いていない……。

 ルウは、何なんだ?

 最初に出会った時間違えたと思ったけど……、本当に幽霊ってオチか?

 いや、でもルウは温かいし、触れるし、柔らかいし、幽霊ってのも違う気もする……。


 本当に、何なんだろ。

 魔法だって、あんな威力が普通とは思えない。

 まして、一般人があんな強力な魔法を普通に使うとか……、いくら異世界って言っても、やっぱり普通じゃないと思う。

 いくら俺が運動不足で貧弱って言っても、あれだけ必死に走って、息も乱さず汗一つ流さないとか、オカシイとこだらけだ。


 ルウが普通じゃないってのは、ほぼ確定で良さそうだけど、記憶が戻れば謎も解けるかな?

 ルウの記憶、戻せるなら戻してやりたいし、家族だって心配してるだろうから帰してやりたいけど……もし、家族が帝都に居て、すでに殺されてたりしたらーー。

 いや! すぐに悪い方に考えるのはダメだ。


 とりあえず今は安全な場所に……、どっか街とか村とか探して、ご飯も食べたいし、あったかいベッドで寝たいしーースゥスゥ。


 疲労のピークを過ぎていたハルトは眠る。

 ルウは眠ったハルトの頭を膝に乗せると赤く染まり出した空を眺めていた。

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