第22話 もう少し、あと少し
ブクマありがとうございます。
少しずつですがブクマが増えて嬉しいです。
これからも頑張りますので、宜しくお願い致します。
隠し扉を抜けてから2度の戦闘を経験したが、かなりの距離を歩いている筈だった。
時計も無いので体感時間だし、誤差だらけだろうが、感覚的に5〜6時間は経過したと思われる。
戦闘やら休憩を引いても、3〜4時間は歩いた筈だ。
少なく見積もっても15〜20kmは移動していないとオカシイ計算だ。
15kmーーそれだけの距離なら、元の世界でも県を端から端まで行けるだろう。
それなのに、出口に着かないし、水路も終わりが無いんじゃないかってくらい先まで真っ直ぐ伸びている。
ホント、いつになったら出れるんだろうか……?
こんなに歩いて出れないとか、流石に不安で堪らない……。
この世界に来てから、何かずっと道が合ってるのか、間違ってるのかで悩んでばかりな気がする。
それと、いい加減腹が減ったし、何か食べたいんだけどーー水以外何も無い……。
まぁ、水があるだけまだマシなのかもしれないが……。
後厄介なのは、大鼠の存在だ。
今まで出会ったのは2回ーーそのどちらも、俺は助けが無ければ死んでいただろうし、2回共ルウに助けられた……。
恥ずかしい事だが、また大鼠と戦っても俺は役に立たないだろう……。
ながら歩きをしながら出口に着かない水路を漫然と進んでいると、右肩に砂がパラパラと落ちてきた。
少し汚れた右肩を無意識に左手で払うと、特に気にも留めずに歩み続ける。
またパラパラと天井から砂が降って来た時、漸くハルトは砂が降って来ている事に気が付いた。
「ん? 何だ? ……砂? 何か砂落ちてきてるけどーー」
微妙な振動を感じて、ハルトは周囲をキョロキョロと見回し、ルウもハルトに続いて同じ様に周りを見る。
少しずつ振動が大きくなっている気がして、何かドドドドといった感じの低音が響いている気がした。
何処から聴こえ、響いているのかと耳を澄ますと、その音と振動は元来た道から響いている様に聴こえ、2人は真っ直ぐに伸びた道の先の暗がりを見通そうと眼を凝らす。
ハルトは、眉間に皺を寄せながら眼を細めて、遠くの暗がりを覗き込む様に見るが、遠いのと暗いので良く分からず、悩み始めた所にルウが口を開く。
「……ハルト、……ネズミさん、いっぱい、来てるよ」
「ン? ネズミさんって、何処のネズミさん? ◯ッキー、は違うな? …………エッ!? ネズミって! まさか!!」
ルウの言葉の意味に一瞬理解が追いつかず、全くお呼びでない何処ぞのランドのマスコットネズミが頭に浮かんでしまったが、嫌な方のネズミの存在が頭を掠めて、すぐに思い当たる。
そして、ハルトはルウの視線の先を凝視するが……、やはり暗がりが見通せない。
しかし、ルウの言葉を信じるならーー暗がりの向こうから大鼠がいっぱい来てるって事になる。
ハルトには見えないが……、見えないけれどーー嫌な予感がした。
だからーーハルトはルウの手を取って走り出した!
「マジかよ!? 走るよ! ルウ!!」
ハルトに右手を引かれたルウは、頷くのと同時に走り出していた。
「俺、全然見えないんだけど! ネズミって、どれ位の数いるか、分かる?」
「いっぱい、いる」
「いっぱいって? 分からない位、多いってこと?」
「……うん」
「マジ、かよ……。此処一直線だし! これ、出口までずっと走るのか? あぁもう、少しは、運動しとけば、良かったよ!」
まだ走り始めたばかりだったが、勢いは最初だけで、すでにハルトは軽いジョギング程度の速度にまで落ちていた。
ルウが言う様に、大鼠がいっぱいこっちに向かって来ているなら、追いつかれる前に出口まで行くしかない。
横道に逸れて逃げたとしても、そのまま追いかけられたら出口も分からなくなってしまうし、袋小路に入ってしまったら、それこそ終わりだ。
大鼠1匹ですら、ハルトは2回も死にかけた。
それが何匹もいたらーーハルトは言わずもがな、ルウの魔法でも対処し切れないだろう。
だから、ハルトの選択肢はーー追いつかれる前に出口から逃げるの1択しかなかった。
ハルトとルウの2人は、ただひたすら先にあるだろう出口を目指して走り続ける。
直線で見通せない程の距離なら、追いつかれるまでの時間はまだ有るだろう……。
しかし、出口までの残りの距離が分からない事が不安を掻き立てる。
追われる恐怖に冷汗を流しながら、後ろが気になり何度か振り返るが、幸いにもハルトの見える範囲に大鼠は居ない。
このまま逃げ切れればと、淡い期待を抱きながらもルウの手を引き前へと進んだ。
走り続けて何分か過ぎた頃、後ろから聴こえる音と振動が、徐々にハルト達に迫って来ていた。
後ろを振り返れば、もうハルトにも視認出来る距離に大鼠が見えたーーいや、大鼠の大群が居た!
これだけの数がいったい何処に居たのか、2度出会った大鼠は2度共1匹で行動していたのにーー今、後ろに居るのは大群。
数えるのも馬鹿らしい程の数が、我先にと互いに押し退ける様に追いかけて来ていた!
大鼠達は水路の中にも居たが、水路の大鼠は半身が水に沈んでいる為、あまり速度が出ずに両端の通路に上がろうとしながら進んでいた。
そして通路の大鼠は、水路から上がろうとする大鼠と場所を取り合い水路に落とし合いながら走り、此方も水路内を走る大鼠より気持ち速いくらいで、一瞬で追いつかれてしまうという事だけは避けられた。
しかし、後ろから迫るのは大鼠の大群……。
一度でも追いつかれてしまったら、あの集団に取り込まれ、何も出来ないままに殺されてしまうだろう。
「ゼ……ハァ、くっそ! ハァハァ……このままじゃ、追い、つかれる!!」
空いた手で、苦しく痛む脇腹を押さえ、荒い呼吸で酸素を求める。
一度マリアンさんに治療して貰った足も、無理な走りに再び悲鳴を上げている。
ハルトが限界を迎え、倒れるか追いつかれるかするのは時間の問題だったーー。
「……ハルト、頑張って」
後ろから、ハルトを心配して応援する可愛い声が聞こえる……。
そんなルウはーー息も乱さず、疲れも感じさせずにハルトの後ろを走っていた……。
…………ナゼだ? ナゾだ!
俺はこんな……、今にも転がって横になりたい程走るのが限界だってのに。
横腹めっちゃイテーし、息苦しくて、もう死にそうだってのに。
何でルウは全く疲れてないんだ?
それどころか、息すら乱れず、汗一つかいてない……。
俺は汗で服が濡れて、肌に張り付いて気持ち悪いってのに。
「それより、も! マジ、やべぇーー!」
息を切らし、ハルトは限界を訴える。
もうそろそろ限界だ……。ヤバイヤバイヤバイ、後ろもヤバイが横腹もヤバイ!
「くっそ! 出口、まだ、かよぉぉー」
もう、かなり近くまで迫って来てる!!
このままじゃ、すぐに追いつかれる!
「ーー水圧」
ルウが走りながら空いた手で後ろに魔法を放つ。
水のレーザーが横薙ぎに大鼠の先頭集団を薙ぎ払った。
大鼠の先頭集団は後続を巻き込みながら倒れていく。
「おぉ!! やった! ルウ、すごいよ」
大鼠との距離が再び開いていく、後ろでは倒れた大鼠を踏み越えた大鼠達が、また追いかけて来る。
しかし、だいぶ距離が稼げた。
早く出口へ、早く、早く、早くーー。
脚が熱く痛い、太腿がパンパンに腫れている感じがする。
横腹の痛いも洒落にならなくなってきた。
また、大鼠が距離を詰めて追いついてくる。
「くッ、ルウ! もっかい、やれる?」
だんだん強くなる痛みと息苦しさを堪えながら、ルウに再度大鼠の足止めを頼む。
「うんーー水圧」
ルウがまた魔法を使い大鼠が薙ぎ払われる。
先頭集団が倒れ、後続を巻き込み、倒れた大鼠を乗り越えてさらに後続が前に出てくる。
2人と大鼠の距離はまた開いたが、このままではいずれ追いつかれてしまう。
どうする? どうする? どうする? どうすれば良い?
後ろばかり気にしていたハルトが前を向いた時、視界が一瞬真っ白に染まるーー。
うっ、目が! 眩しい……。
眩しい? チカチカする目を細めながら前を見ていると、次第に光に慣れてくる。
「外だ!! 出口だ! ルウ! もう少しだ、もう少しで出口だ!」
光に目をやられた所為で、走る速度が遅くなっていた。その僅かな時間で、先程開いた大鼠との距離はかなり縮められていた。
もう後ろを気にしている余裕は無い!
もう走れる限界はとっくに過ぎている。
いつ足が縺れて転んでも可笑しくはない。
今はただ、眼前に広がる青い空を目指して走り続けるだけ。
大鼠の気配がすぐ後ろまで近づいているのを感じる……。
振り返って確認したい欲求を強く感じるが、見ている余裕なんてない。
追いつかれたら、手を引いて真後ろを走っているルウが真っ先に襲われるだろう。
ここまで来て、ルウを失うなんて嫌だ!
だから、限界を超えた脚を無理矢理動かし、ルウの手を引く。
「ルウ! 外に出たらすぐ真横に飛んで! 右側に飛ぶから!」
「う……うん!」
もうすぐ出口だ! もう少し、あと少し、もうちょっと!
「ーー今だ!」
叫んでハルトは出口の右側に飛ぶ!
ルウも手を引かれながらハルトに続いて飛んだ!
空中で、ハルトはルウを掴んだ手を強く引き寄せる。
ルウの身体がハルトの胸元へと引き寄せられていく。
ハルトには、その様子がスローモーションの様に見えていた……。
遅い! 何だコレ! 早く早く早く、ルウを引き寄せないと!!
ゆっくりと、視界の隅に黒い影が射す。
おお、ね、ずみ……、黒い影の正体を理解し、その進む先にルウの身体が残っていたーー。
ダ! ダメだ! ルウ!!
声は出ない……、ルウの身体を大鼠の牙から外そうと引き寄せるが、身体の動きも他の全てもスローモーションで……。
見えているのに……動きが遅く、少しだけしか大鼠の軌道からルウを逸らせず。
ルウの左腕が大鼠の牙に飲み込まれる……。
瞬間、ハルトは目を固く閉じてしまった。




