第2話 話すと長くなるかもしれないけど
第2話が書き終わりましたので投下します。
まだまだ何も始まってない感じですが、とりあえず主人公初登場です。
床に壁、天井まで石で作られた通路を1人の男が歩いていた。
男は何故か裸足で、石で出来た床の冷たさと、時折感じる小石の痛みを足裏に感じながら彷徨い歩いていた。
遠くに聞こえる何かが爆発する様な音と、通路から足に伝わってくる僅かな振動が、不安と恐怖を煽っていた。
「ほんとに……、ここ何処だよ……?」
自分が何処にいるかも分からず、何処に向かえば良いのかも分からない状態で、男は誰に言うでもなく呟いた。
先程から彷徨い歩いているが、誰かと出会う事も無く、同じ様な通路が続くため、不安で不安で心が落ち着かない状態になっていた。
男の服装はジャージで裸足、手には小さな石板を持っていて、誰かと出会えば不審者にしか見えない格好だが、本人にそんな気持ちの余裕は全然無く、とにかく誰かと会って話しが聞きたい気持ちだけが心を占めていた。
男の名前は、桜雷春人。
今年で21歳になった会社勤めの何処にでもいるごく普通の青年だった。
歩き疲れた春人は、壁に背を預ける様に廊下に座り込んだ。
「いったい何なんだよ……、足は痛いし、誰もいないし、足が痛いし、誰か説明しろよ……」
周りを見回してみるがやっぱり誰もいなくて、さっき部屋で会った全身鎧の男とローブの2人が何処に行ったのかも分からなかった。
音が聞こえる方に向かえば誰かいるかもしれなかったが、危険な感じしかしなくてとてもじゃないが近づく気にはなれなかった。
かといって此処にずっと座っていても何も解決しないのは分かっていた。
分かってはいるがーー裸足で歩きまわるのも辛く、何処にいるのかも分からない、何も頼るものも無い状態は精神的にかなりきつかった。
「迷子ってこんな気持ちなのかな……? ハァァ……、この歳で迷子とかマジ勘弁してほしいわ……」
少しでも気分を変えようと冗談まじりに言ってはみたものの、やっぱりあのまま部屋にいた方が良かったかもと後悔しながら、最初の部屋も何処にあるやら分からなくなっている事に気付き、やっぱ俺迷子じゃんと心の中でツッコミを入れていた。
「ホント、これからどうすりゃ良いのか……」
深い溜息を吐きながら、三角座りで膝に頭を乗せてウジウジと考えるばかりで、春人が動きだす気配は全くなかった。
それから十数分が過ぎたが、相変わらず春人はあーだこーだとウジウジ、ジメジメ腐っていて、放っておけば横になり丸まってゴロゴロ転がり始めるのでは? と思える程ダメ人間っぷりを発揮していた。
そんな時、通路の曲がり角から出て来る誰かの影が春人の視界の隅に入った。
瞬間、春人は顔をあげ視界に入ったものを凝視する。
ユラユラ揺れる黒いワンピースに、フラフラと動く少女ーー。
春人の心臓は飛び出るかという程強く脈打ち、早鐘の様に激しく鼓動する。
「ゆ……ゆゆゆゅゅ……ユウレェーキタァァーー!!」
思わず叫んで逃げようとするが足に力が入らず仰向けに倒れてしまう。
春人の声に反応したのか、黒い少女はフラフラとこちらに向かって来ていた。
ヤバイヤバイヤバイヤバイーー。
春人の頭はヤバイ一色に染まり、思考は完全に停止していた。
視線だけは黒い少女から離せず、ただ近づいてくるのを見ている事しか出来なかった。
黒い少女の距離が迫り、ついに見る事も耐えられなくなった春人は固く目を瞑り身を硬くした。
ウダウダやらずに早く此処を離れれば良かった。
俺って何でこんなにツイてないんだよ!
ホラー観て、あれくらい逃げられない奴がバカなんだよ! って言った事謝ります。
逃げるの無理です! 怖くて無理です! 謝るから助けてください!
完全に混乱し意味不明な思考を巡らす春人に向けて声が放たれた。
「……違う……生きてる」
その声は、とても綺麗で可愛らしい音色だった。
「ーーへっ?」
春人の口からは、全てを台無しにする程マヌケな声が漏れていた。
ゆっくりと目を開けた春人の眼前には、黒い少女の顔があった。
黒い少女は屈んで春人を覗き込む様にじっと見ていたが、春人は黒い少女の顔を見た瞬間、またしても硬まって凝視していた。
黒い少女の顔は天使と見間違う程に可愛らしく、美少女と言う言葉でも足りない程に美少女だった。
オタク街道まっしぐらで、まともに女の子と接した事が無い春人には、それだけで刺激が強すぎた。
春人の顔は真っ赤に染まり、アワアワしながらも頭の中の恐怖は変換され、可愛いでいっぱいに染まってしまっていた。
「……どした……の?」
黒い少女の声が聞こえ、春人は我に返って黒い少女から視線を逸らす。
「ぃ……いや! だ、だいじょぶ! ちょっと驚いた……だけ……だから」
春人は黒い少女を見ない様に視線を逸らして返事を返し、落ち着きを取り戻そうと努力していた。
おちつけーオチツケー。と心の中で繰り返しながら春人は壁際に寄って、壁を背にして座り直した。
それを見て、黒い少女も春人の左隣に腰掛けて、背を壁に預けた。
黒い少女が隣に座った事で、春人の心臓はドキンッと強く波打った。
何で隣に!? ダメだぁぁ、ドキドキして全然落ち着けない!!
とにかく何か話題をぉー、話題をォー。
「えとッーーなまえ!! そうだ! 名前は何て言うの?」
「んっ……と……、るぅ…………ルウ……だと…………思う」
「へっ? ……思うって?」
「よく……おぼえてない……」
えっ? 覚えてないって? まさか記憶喪失? マジで?
ーー本気でマジもんの記憶喪失なのかな? どうすればイインダロ……。
春人が考えていると、ルウが口を開いた。
「……なまえ……は?」
「あっゴメン、まだ言ってなかったよね。俺の名前は、桜雷春人。ハルトで良いよ」
「ハル……ト」
ルウに名前を呼ばれただけでドキンとした。
俺、この子に一目惚れでもしたのかな?
学校でも会社でも、今まで女子にこんなドキドキした事なかったんだけど……。
「えとっ、……ル、ルル……ルウ…………ちゃん」
名前呼ぶだけでキツイ! ムチャクチャ恥ずいし!!
「ルウ……で、……良いよ」
お約束きたぁぁー、テンプレ万歳!
あぁ、もうどんどん壊れてくな俺!
ルウ、ーールウかぁ、良い響きだ!
美少女を呼び捨てとか、テンプレ最高!!
ととっ、いい加減話しを進めないとイカンな。
「それで、ルウ……は、他に覚えてる事ってないの?」
相変わらず名前一つで一喜一憂しながらハルトはルウに尋ねた。
「ん……分から、ない、気が付いたら此処にいた」
「じゃあ、ルウって名前以外、何も覚えてないの?」
「ーーぅん」
どうしたものかな? 誰かには会えた訳だけど、結局迷子が二人になっただけなんだよなぁ……。
ハルトが少し考え込んでいると、三角座りしたルウが膝に顎を乗せながらこちらを見て話しかけてきた。
「ハルトは……、どうして此処にいるの?」
ハルトは一瞬ルウを見たが、すぐに顔を赤く染めて視線を逸らす。
あぁもう、可愛いすぎて顔も見れないよ!!
と、とりあえず何か話さないと!
「えと、話すと長くなるかもしれないけど……、俺はーー」