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第18話 何でこうなった……?

たくさんブクマして頂きまして、ありがとうございます。

毎度毎度、更新が遅くて、続きを楽しみにされている方には申し訳なく感じております。

これからも長い目で生暖かく見守っていただけるとありがたく思います。

 そうとなったら、少し先を急いだ方が良いな。


「ーールウ、そろそろ出発するけど大丈夫?」


「……だいじょぶ」


「えっと……、少し速く歩くけど、もし疲れたりキツくなったりしたら言ってね」


「……うん」


 さて……、ちょっと無理してでも急いでここから出ないとーー。


 ハルトはそう考えると、ルウの歩幅を気にしてゆっくり歩いていたのを止めて、自分のペースで歩き出した。


 水路はどれだけ進んでも同じ造りで、変わり映えのしない景色が続く、もう自分が何処に居て、何処から来たのかすら分からないーー。

 マリアンさんに言われた通り、大きな水路を水の流れに沿って歩いているが、本当にこのまま進んで大丈夫なのかと不安に心が掻き毟られる。

 もし、一度でも横道に逸れてしまったら、死ぬまでこの水路を彷徨い続ける事になるだろうーー。

 それ程に、この水路は広大だった。


 変わらない景色に飽き始め、特に何かが起こる様子も無かった所為で、ハルトは完全に気を抜いてゲンナリした表情を浮かべながら漫然と歩き続けていた。

 ブライス城内に居た時の追われる様な死ぬかもしれない不安感や危機感は鳴りを潜めていたが、道を間違えていたらーーや、外に出れなかったらーーといった異なる不安はあるものの、死の危険から解放されたと感じた事で安全であると勘違いしていたーー。


 だからーー。

 それが唐突に目の前に現れた時、平和ボケした心がーー、もう死の危険は無いと気を抜いた覚悟がーー、目の前の存在に対して警笛を鳴らす事を怠る結果を産み出したーー。



 ********



 それは、2人の数歩前まで近付いていた横道から唐突に飛び出して来たーー。

 ハルトは黒い影が急に目の前に現れた事に驚き、身体をビクリと震わせたーー。


「ーーーーっ!」


 しかし、鳴らない警笛がハルトに無謀な行いをさせるーー。

 ハルトは速くなった鼓動を抑える様に右手で心臓を抑えた後、無防備に近付き覗き込む様にソレを見た。

 細長く伸びた鼻先に6本の髭を伸ばし、4本の脚を地に付け、茶色く短い体毛に全身を覆われた生物が其処に居た。


「ーー! あぁー、びっくりしたぁ〜。ーーこいつ何だ? ん〜、……ネズミ? かなぁ? 大きいけど……」


 ハルトは未だ暢気に対象を観察し、警戒心の欠片も抱かないーー。

 故に、その生物の鼻先から喉元に掛けて、赤い亀裂が入って行くのをただ見ていたーー。

 そしてーー其処に並ぶ白いギザギザした物が見えた刹那ーー。

 ハルトは胸に重みを感じ仰向けに倒れ込んだーー。



 ********



 ーーいったい何が起こったのかーー?

 ハルトは突然の出来事に混乱する。視界が急激に変化し、背中に衝撃が走るーー。


「ーーぐッ!」


「ーー! ハルト!」


 ルウの驚く声が聞こえ、息が詰まるーー同時に胸元に重みを感じ、無我夢中で両手で何かを掴もうと虚空を掻き泳ぐーー。

 右手が何かを掴み、遅れて左手が何かを掴んだーー。

 ハルトに掛かる重みは身体に喰い込み、痛みを感じるーー、視界には何も入っていないーーただ、視界の先に壁が見えるだけ……。

 掴んだ両手は離さないーー、ソレを押し除けようと力を入れるがビクともしないーー。


「ギギギァアアァァァーー」


 咆哮ーー其の声にハルトは全身を硬直させるーー。

 右頰にーー額にーー飛び散る飛沫が降り注ぐーー。

 重みの掛かる右肩が、一層強く押し込まれてーー痛みに顔を顰めた瞬間、ソレが視界に入ったーー。


 赤いーー内臓の様な赤さを湛え、上下に細長く丸く広がる物体ーーその物体を縁取るのは白く尖った硬くて鋭い物ーー。

 一体自分は何を見ているのか?


 ーーなんだコレーーなんだコレーーなんだコレーーなんだコレーーなんだコレーーなんだコレーーなんだコレ!!


 ハルトは混乱の極みにあった。


「うわあぁぁァァァーーーー!! アァー! ァァァアー!!」


 理解出来ない恐怖がーー痛みがーー重みがーーハルトを絶叫させた!


 怖いーー怖いーー怖いーー怖いーー痛いーー怖いーー痛いーー痛いーー重いーー怖いーー。


 なんで! どうして! 何が! どうして! 何を!


 ハルトは瞳から流れる水滴を撒き散らしながら、必死にただ叫ぶ! 掴んだ両手を限界まで伸ばし、無意識にソレを遠ざけようと努力する。

 しかし、離れないーーソレはさらに強い力でハルトを抑えつけ、ハルトの頭は赤い物体に呑み込まれーー。


「ーー水圧(アクアプレッシャー)!」


 か細い女の子の声が聞こえたーー。

 ブシャッと水が弾ける様な音と同時にハルトの身体から重みが消失するーー飛び散る飛沫がポツポツとハルトの全身に掛かるーー。


「はぁはぁ、はぁはぁーーっ、ハァ、ハァ

 ーー」


 ただ、ハルトの呼吸のみが辺りに響くーー。

 ハルトは脱力し、四肢を投げ出したまま荒い呼吸を続けるーー。


 ーーな、なにが?

 何が起こった?

 ーー助かっ……た? 助かったのか? 俺はーー。


 もう、ダメだと思ったーー何が起こったのかは分からない……、でも、自分が喰われるんだっていうのは何となく理解出来ていたーー。

 だから、自分は死ぬんだと……、喰われて死ぬのだと……、そう感じて必死に抗った。

 アレは、何だったんだ……?

 只の大きい鼠だと思ったーー。

 でも、何だーーあのバケモノは!!


「……ハルト? 怪我、ない?」


 頭の上から声が聞こえた。

 どこか怯えた様なーー恐る恐るといった様子で声を掛けてくる。


 ハルトは仰向けに寝転んだまま、頭を上にして声の主を視界に捉える。

 其処には、ハルトを心配そうに見下ろす紅い眼の少女が居たーー。


 眼が合った瞬間、ハルトは自分が助けられたのだと理解する。


 そうかーー俺、助かったんだ……。助かーー。


 ハルトの両眼から再び水滴が流れ落ちるーー。

 それを見た少女は少しだけ慌ててハルトに声を掛ける。


「ーーハルト、だいじょぶ? 怪我した? 痛いの?」


「ゴメーーだ、大丈夫、大丈夫だから……、心配……しないで……」


 ルウの心配そうな声を聞いて、ハルトは慌てて右手の袖口で濡れた顔を擦る。

 ハルトはルウの少し慌てる様子を見て不謹慎ながら嬉しく思っていたーー。


 ルウが慌てるとこなんて、初めて見た気がするーー。

 記憶を失くしたーー道に迷ったーー下着姿を見られたーー。

 あれだけ色々あったのに、取り乱す事も、泣く事も、叫ぶ事もしないーー。

 膝枕してくれたり、慰めてくれたりしたけどーー、何にも興味が無くて、感情も希薄で、何考えてるのかも分からないーー。

 そんなルウが俺を心配して、少しだけど慌てていた……。

 初めて見えた人間らしさが可愛くて……、可愛くて……、何より嬉しかった。


 いつまでも寝転がってたらルウを心配させてしまう……。

 そう思ってハルトは身体を起こそうとするーー。

 上手く力が入らないーーなんで? そう思い自分の腕を見ると、手が震えていた。

 右肘を支点に身体を横に向け、左手で右手を抑えるーーが、どちらの腕も震えが止まらず力が入らないーー。


「あれっ、アレッ? 何で……震えて……。何で? 止まらない……」


 ハルトは必死に震えを抑え込もうとするが、全く止まる気配がなかった。


「アレッ、おかしいな……、止まらーー」


 そっと、ルウの右手が震えるハルトの手に添えられる……。

 ハルトの顔は両膝を付いて屈んだルウの胸元へと吸い込まれる様に収まる。


「ーーェッ」


 ハルトから一瞬漏れた言葉は、ルウの胸元で口を塞がれ遮られた。


 エッ!? ちょッ! 胸が!!

 こ……これじゃ、動くに動けない……。

 下手に顔を動かして変な場所に当たったりしたらーー。


 そう考えて余計に身を固くするハルトは、状況に困惑しながら身動き一つ出来ずに固まるしかなかったーー。

 そんなハルトを余所に、ルウは残った左手でさらにハルトの頭を胸に押し付ける形で抱き込んだ。

 ルウの行動に、ハルトはビクリと全身を震わせてさらに固くなってしまう。

 口元がさらに強く胸で塞がれ、かなりの息苦しさがあったが、ルウの身体に吐息が当たる事すら気になって、呼吸すら碌に出来ない有様であった。


 それでも暫くは呼吸に神経を尖らせ、可能な限りゆっくりと、ルウに吐息が当たらない様にと頑張っていたが、流石に息苦しさが我慢の限界を超え、頭を更にルウの胸に埋める形で顎を引き口元を解放させるーー。


 ーーハァァ……、息は何とかなったけど……これじゃ、自分からルウの胸に無理矢理顔を突っ込んだみたいになってるよ!

 ルウが頭を抑えてるし、手にまだ力が入らないから離れるのもままならない……。


 何でこうなった……?


 ーーいや、俺が震えてたから……多分落ち着かせようとしてくれてるんだとは思うんだけど……。思うんだけど……ね。

 この状態じゃ刺激が強すぎて逆に落ち着かないよ!!

 こんな……こんな、嬉しい……、じゃなかった、オイシイ……でもなかった。

 あぁもう、年齢イコール彼女居ない歴な俺に、こんな美味しいイベントが訪れるとは!

 あぁ、もう死んでも良い……。


 あ、いや、やっぱ死ぬのは勘弁……。

 さっき死にかけたし、怖いのや痛いのは嫌だーー。

 と、いつの間にか震えが止まってる……。


 両手に少し力を込めてみると、もう普通に動かせそうだった。

 しかしーー。


「……でも……このまま……もう少し……いや、でも……それは流石にーー」


「……ハルト? もう……たいじょぶ?」


「へっ? あっ、いや……あぁ、あー、だいじょぶ、も、もう、だいじょぶ! ーーだいじょぶ!」


 ハルトの心の声がただ漏れだった所為で、ルウに大丈夫だと気付かれ、声を掛けられた。

 焦ったハルトは慌てて返事を返しながらルウから離れ視線を逸らしたがーー。

 横目でルウの胸元を名残惜しそうに眺めていた……。

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