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第16話 俺、行くよ……

ブクマ感謝です。

最近、アクセス数が増えているみたいで嬉しく思います。

中々更新出来なくて申し訳ないですが、今後ともよろしくお願いします。

 3人は隠し扉が完全に開ききるまで待っていたが、扉が開き終わってからもマリアンさんが中に入る様子は無く、ただ扉の先をジッと見つめて動く様子が無かった……。

 ハルトは、動かないマリアンさんに怪訝な表情を向けるが、マリアンさんはハルトのそんな様子にも気付かず、未だ扉の先を見つめていた。


「えっと……、行こうか?」


「ーーいえ、私は此処までです」


「えっ? なんで!?」


「私には任務がありますので……、本隊に一度戻らなければいけません」


「も、戻るって……。戻ってどうするの? 魔女と出会ったらどうするんだよ! 戻るったって……、死にに行くようなものじゃないか!! ここから外に逃げれるんだろ? だったら一緒に逃げよう!!! 戻ったって仕方ないだろ!」


「このまま、お二人と一緒に行けたら良かったのですが……、まだ、騎士団の仲間が魔女と戦っています。私一人逃げる訳にはいかないのです。ですからーー、ここから先はお二人で進んで下さい」


「だ、ダメだ! 戻っちゃダメだ!! マリアンさん一人戻ったってどうにも出来ないだろ!! それに!! まだマリアンさんが居ないと困るんだよ!」


「勇者様に頼ってもらえるのは、とても嬉しく思います。でも、もう少しだけ頼れる男性になってもらえたら、もっと嬉しいのですが……。ルウさんも、きっと頼れる男性が好きだと思いますよ」


「ルウは……、関係ないだろ……」


「ーー勇者様は、ルウさんの事、好きなんですよね?」


「そん……、なの、今は関係ないだろ……」


「私は、すぐに分かりましたよ。勇者様がルウさんを見る時の瞳とか、ルウさんの歩く速度を気にして合わせてあげたりする優しさとかで、ーーあぁ、勇者様はルウさんの事が好きなんだなぁって、すぐに分かりました。だから、ちゃんとルウさんの事、守ってあげて下さいね」


「そん、な……、死にに行くみたいな事、言わないでくれよ……」


「ここを進めば、広い水路に出ます。後は、水の流れに従って進めば外に出れますので、お二人だけでも大丈夫ですよ」


「ダメだ!! 絶対に行かせないからな!」


 ハルトはそう叫ぶと同時にマリアンの手を取ろうとしたーー。


「ーー風操(ゲイルマニュピレート)


 ーーが、同時にマリアンさんが言葉を発すると、ハルトとルウ、2人の足元から全身を持ち上げるような突風が巻き起こり、2人の身体は簡単に吹き飛ばされ扉の中へと転がり落ちた。


 マリアンさんがルウに向かって、聴き取れないくらい小さな声で『勇者様をお願いします』と発した時には、扉はゴゴゴと石の擦り合う音を響かせ閉じていた。



********



 ハルトは、突然巻き起こった突風に驚き、身体が浮き上がる浮遊感に戸惑い、混乱した。

 何が起こったのかも理解出来なかった為、受身すら取れずに床に落ちた衝撃で、全身に痛みが走る。


 ハルトの視界には、閉まっていく扉と人影が写っていたがーーただ、その光景を眺めているしか出来なかった。


 一瞬停止した思考が動き出し、人影がマリアンさんで、扉が隠し扉だと認識した時には、すでに扉は堅く閉ざされていたーー。


 思考と認識が噛み合い、ハッとしてハルトは痛みも忘れて飛び起きると、扉に駆け寄った。


「マリアンさん!! ここを開けて下さい! 一緒に逃げよう!! ーーマリアンさん!!!!」


 ハルトは叫び、右手で扉を叩いたが、ベチベチと自分の手が音を出すだけで、扉はビクともしなかった。

 声も向こうには届いていない様な、そんな感じがする程、扉は堅く閉ざされてしまっていた。


 なんで……、なんでだよぉ……。

 一人で戻ってどうするんだよ!

 魔女は傷一つ付けられないって言ったのはマリアンさんだろ!!

 そんなの! ーー死にに、行くようなものじゃないか……。


 ハルトの脳裏に、中庭で見た光景が蘇り、それにマリアンさんの姿が重なるーー。


「なんでだよ!!!」


 ハルトは叫んで扉に両手を打ち付けた。

 ゴッと鈍い音が一つしただけで、辺りはシンと静まり返っていた。

 後に残ったのは、ジンジンと鈍い痛みを感じる両手だけだった。



********



 ハルトの右頬が微かに濡れていた。

 扉に打ち付けた両手が痛むからかーー、マリアンさんを止められなかった不甲斐なさからかーー。

 ルウには分からなかったーー。

 ルウには、ハルトが泣いてる事は理解出来ても、何故泣いているのかは分からなかった。


 ただ、ずっと昔、朧気な記憶の片隅に、誰かが泣いている子を抱き締めて、その子が泣き止んだーーそんな事があった気がした。

 だから、同じ事をすれば、ハルトも泣き止むのかと、ただそう思っただけ。


 前もそれでハルトは泣き止んでくれた。

 だから、ルウはハルトの背を抱き締める。

 朧気な記憶に従ってーー。



********



「ルウ……、ごめん、迷惑かけて……」


 暫くして、ハルトはルウに声をかけた。

 ルウはハルトから離れると、首を横に振って迷惑じゃないと伝えた。


 扉は堅く閉ざされて開かないーー、開け方も分からないーー。

 例え、戻れたとしても、俺では何の役にも立たないしーー何より怖いーー。

 それに、死ぬかもしれない場所にルウを連れて行くわけにはいかないーー。


『だから、ちゃんとルウさんの事、守ってあげて下さいね』


 一瞬、マリアンさんの声が聴こえた気がしたーー。

 ごめん、マリアンさん……。

 勇者なのに弱くて……、勇気も無くて……。

 助けに行きたいけど……、でも、死にたくないし、怖いんだーー。

 だから、ごめん……、ルウだけでも守れるように頑張るから……。俺、行くよ……。


 今の俺には何も出来ないからーー行くしかないんだ……、仕方ないんだ……。


 ハルトは、仕方ない事だと自分に言い聞かせながら、後髪を引かれる思いを振り切って歩き出す。

 ルウは、ただ静かにハルトの後に続いて行った。

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