第1話 こんなもので如何にかなるとは思えんが
初小説の初投稿です。
投稿の使い方に慣れていなくて再投稿しました。
御一読頂けたら幸いです。
ドォーンッ、バァンッとまるで花火でも打ち上げているかのような爆発音が遠くに聞こえていた。
爆発の衝撃が石造りの部屋をビリビリと振動させ、天井からパラパラと細かな石の欠片が降ってくる。
その部屋の中央の床には、巨大な魔法陣が血の様に赤黒い線で描かれている。
魔法陣の中央には祭壇が設置されており、祭壇には純金で作られた聖杯が置かれ、中には赤い液体が溢れんばかりに注がれていた。
「時間が無い! 早く儀式を始めろ!!」
全身鎧で身を包み、上半身を隠せる大きさの凧盾を背負った頑強な男が叫ぶ。
フードとローブで身を隠し、年齢も性別も判別出来ない12人の魔法使い達が魔法陣の外縁部へと動き出す。
魔法使い達は配置に着くと、その手に持つ金の錫杖を掲げ詠唱を始めた。
金の錫杖が青いオーラに包まれ、錫杖の先端から祭壇の聖杯へとオーラが流れていく。
石造りの部屋の外からは断続的に爆発音が響き、その振動と地鳴りが天井を軋ませる。
爆発音の中に微かに人々の悲鳴や怒声が混じりだし、音を発している何かが部屋に近づいて来る気配を感じる。
儀式が進むにつれ、青いオーラの光が増していき、魔法使い達の全身も青く輝いていた。
聖杯が一際強く輝くと赤い液体が蛇の様に宙に漂い始め天井付近に魔法陣が描き出された。
そして、床と天井に描かれた魔法陣を結び青い光の柱が天に向かって突き抜けていく。
その時、地を突き上げる様な激しい衝撃と耳をつんざく爆発音が響き、石で出来た天井にビシビシと音を立てながら亀裂が走る。
「クッ……まずい!!」
全身鎧を纏った男が足を取られ壁にもたれかかりながら声をあげた。
魔法使い達も先程の衝撃で転倒したり、膝をついていて動ける者はおらず、皆の視線は天井の亀裂へと集まっていた。
ドンッという音と共に、再び地を揺るがす衝撃が走ると、ビキキッと嫌な音を立て、天井は脆くも崩れ去った。
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「ぅ……あぁ……」
「儀式は…………っ……」
地揺れと崩壊音が収まり、砂埃が舞う部屋で誰ともつかない呻き声が聞こえていた。
ガチッ、カチャッと金属が鳴る音が聞こえ、身体に残る痛みを堪えながら一人の男が立ち上がった。
立ち上がったのは全身鎧を纏った男だった。
背にあった凧盾は失っていたが、儀式を部屋の隅で見守っていた事と金属の鎧のおかげで、たいした傷も負わず崩壊から免れていた。
全身鎧の男は腰の剣に手を添えながら、鋭い目付きで天井を見上げ警戒していた。
天井を崩壊させた原因と思われる爆発音は少しずつ部屋から離れていっている様に感じられ、今は崩壊も落ち着いていた。
そして、全身鎧の男は天井から視線を逸らすと、ぐるりと部屋を見回して瓦礫から覗く手や足、潰れた祭壇を確認して呟き、まだ聞こえる呻き声の主に向かって声をかけた。
「儀式は? ……失敗したか? ーー動ける者はいるかッ!? 生きている者は返事をしろっ!」
「こちらは……何とか動けます!」
「足、が……折れてる、手を貸してくれぇ」
「たっ……たすーー」
数名の魔法使いから返事があり、全身鎧の男は状況を確認した。
軽傷で動ける魔法使いは2名、左脛を骨折した者が1名、瓦礫に挟まれ生きてはいるが動かせない者が1名いた。
部屋はまだ砂埃で見えにくく、意識を失っている者の確認がすぐに出来る状態ではなかったが、いつまた部屋が崩壊するか分からず、儀式も失敗した以上ここに留まる意味はなく、すぐにでも避難する必要があった。
「よし! 2人は他に生きている者がいないか部屋を確認しろ、確認が終わりしだいすぐにここから退避する。宝具の回収も忘れるな!」
「「了解しました!」」
2名の動ける魔法使いは返事をすると、すぐに部屋の中の確認と宝具と呼ばれる何かを回収しに向かった。
全身鎧の男は、瓦礫に挟まれた魔法使いの元へと近寄り状態を確認したあとで、顔色も変えず無情な言葉を告げた。
「お前の下半身は完全に潰れている。長くは持たないだろうが……望むなら俺が介錯してやろう。ーー選べ!」
全身鎧の男は剣の柄えと手を添えて返事を待った。
瓦礫に挟まれた魔法使いは失意の表情を浮かべ、頭を少し左右に振り力なく項垂れた。
「…………」
全身鎧の男は、興味を無くした様に瓦礫に挟まれた魔法使いから意識を逸らし、背を向けて離れて行った。
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「副団長!! すぐにこちらへ来て下さい!」
砂埃で見通せない部屋に声が響き渡る。
「何があった?」
副団長と呼ばれた全身鎧の男が返事をしながら声の聞こえた方向に歩き出した。
砂埃の向こう側に部屋を確認させていた二人の魔法使いの姿を確認し、床に誰か倒れているのを確認すると副団長は再び声をかけた。
「生きているのか?」
「意識はありませんが、息はあります……確認が必要かと……」
「他はどうだ?」
「他に生存者はいません、宝具はーー」
副団長は手で言葉を遮り、少し思案したあと言葉を紡いだ。
「すぐに撤収する。俺とお前でこいつを運ぶ、お前は向こうの奴に手を貸してやれ」
副団長は指示を出すと側にいた魔法使いと共に倒れている者を担ぎ上げ出口へと向かう。
もう一人の魔法使いは左脛を骨折した魔法使いに手を貸し、副団長に続く様に出口へ向かい始めていた。
副団長は担ぎ上げた男を横目で少し見るが、すぐに出口に視線を向け歩きだす。
「こんなもので如何にかなるとは思えんがーー」
そして血と死の臭いが漂う部屋は静寂に包まれた。