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翼の話  作者: 杉並よしひと
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 白い病室で、僕は三日ほど過ごして、退院した。

 久し振りに浴びる陽の光は、肌を刺す様な暑さで、その刺激が懐かしかった。

 湿って重くなった様な空気を、肩で押しながら歩く。

 いつの間にか、ツクツクボウシが一番目立つ様になっていた。

 今年も、夏の終わりが来る。

 それから二週間近く、僕は屋上へ行かなかった。

 残っていた課題をやろうかとも思ったけど、これがなぜか捗らないのだ。読書感想文だけ残して、後は全て終わらせていたけれど、この読書感想文と言うのは、どうにも苦手だ。

 その二週間、僕は何をしていたかと言うと、まず僕は、図書館へ行った。新聞の僕が五歳だった年の新聞の縮小版を、あるだけ漁っていた。

 どの新聞にも、紙面の大きさの違いこそあれ、僕とりっちゃんが溺れた事故の事は載っていた。僕の名前は載っていなかったが、どの新聞にも必ず、「死亡したのは葉山律さん(5)」と書かれていた。

 やっぱり、りっちゃんの言っていた事は、本当だったのだ。

 正直、僕は新聞記事を見るまで、まだ心のどこかで、「これは質の悪い悪戯だ」、と言う思いが残っていた。だから、こうやって真実を知って、僕はある意味で気が抜けてしまった。

 知ってしまえば、それが事実だった、と言う事実だけが残る。だから、僕はこの事に、前くらいの緊張感を持っている訳じゃなかった。

 でも、言い方によっては、りっちゃんは幽霊とも言えるのだ。僕は、あんまり科学信者ではないから、幽霊なんて物も、もしかしたらいてもおかしく無いかもしれない、とは思っている。だけど、それとこれとは全く別の話で、いざ目の前に死んだはずの女の子が現れたと解ったら、僕は結局驚いて、受け入れる事がなかなか難しかった。

 本当に、僕は情けない。

 たった一つのりっちゃんのわがままさえ、僕は叶えてあげられない。

 この気持ちが、僕の足を重くしていた。それは自分でも、痛いほどに解っている。

 解っているのに、この悔しさを、どこにもぶつけられない。一人で、そんなくすんだ気持ちを、抱えるしかないのだ。

 僕は、自室の窓から、外を見やった。

 あれから、夏は大きく表情を変えた。

 刺す様な暑さは無くなって、代わりに体を包み込む様な暑さがやって来た。朝夕はだんだんと涼しくなっているし、空もだんだんと高くなっている。

 夏の日は、また遠ざかろうとしている。


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