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翼の話  作者: 杉並よしひと
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 どうにかして、抱え上げたりっちゃんを、おんぶする形になる様にする。

 耳元へ、弱い息がかかる。僕は、慎重に何段か階段を下り、そして、転がる様に、全速力で駆け下りた。

 保健室のある一階まで降りると、僕はりっちゃんを背負いながら、保健室の扉まで走った。

「すみません!」

 げんこつで、保健室の引き戸を叩く。がたがたと扉の揺れる音が、静かな廊下にこだました。

 返事が無い。僕は、重い引き戸をがらりと開けて、保健室の中に入った。

 部屋には、誰もいなかった。部屋の電気は消えていて、ベッドの上も、椅子の上も空っぽだった。

 背負って来たりっちゃんを、ベッドに寝かせる。スカートから覗いたふくらはぎに触れた時、僕は思わず手を離してしまった。

 冷たかった。血が通っていない様な冷たさなのだ。

 もう一度、今度は掌に触れてみる。冷たい。

 柔らかくて、小さくて、そこまではあの祭りの日と同じなのに、暖かさだけが足りないのだ。

 僕は、恐ろしくなった。りっちゃんが、何か得体の知れない物にとらわれて、どこかへ行ってしまうのかも知れないと思った。それが当たりか外れか、そんな事は、今の僕には解らない。

 とにかく、りっちゃんを引き止めておきたかった。

 僕は、もう一度りっちゃんの手を握る。冷たいけれど、僕の手で、いくらかは温められないだろうか。

 保健室には、誰かのジャージが置いてあった。セーラー服の上から、どうにかしてそれを着せる。隣のベッドから、毛布と布団を取って来て、あるだけの布団を、りっちゃんにかぶせた。

 そして、僕はベッドのそばに椅子を持って来て、座った。両手で、固くりっちゃんの手を包み込む。

「りっちゃん。りっちゃん」

 僕は、何度もそう呼びかけながら、何かを祈って、目を固く閉じた。


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