8.関係修復
そして今、私達三人は一つの部屋に居る。
本当は彼は玄関に居たのだけど、作戦会議と称して無理を言って来てもらった。
大事な話があるから。
「さて、何で俺まで呼ばれたか教えてくれないか?」
「彼女の決断は、まだ終わってないわよ」
お姉さんが、私を助けてくれる。
「婚約が解消されれば自由の身。それで良いじゃないか」
「それじゃ、駄目なの」
「何が言いたい……」
「本当は解ってるくせに」
彼も彼でまた、私の本心を知りながら答えてくれていると思う。
「俺は一応、君に振られた身なんだ」
「うん、私が振ったんだもんね」
「付きまとわないで欲しいと思われてしまうくらい、
君に嫌われたはずの人間なんだ」
「うん、確かにそう言った」
全部、その通り。
だから、彼から復縁を引っ張り出せるなんて思っていない。
私から言わなければならないのかも……
「だけどそれは、俺自身が企んでわざわざ仕掛けた事でもある。
俺としては本心とは違う事を無理してやっていた」
「お互いに本心かと問われると疑わしいかもね。
私だって、売り言葉に買い言葉だったし……」
そう、あの時上手く引き出されて、
別れの言葉を叩きつけていたような……
疑い始めると、止まらなくなるかも。
「ここで一つ提案なんだが、
この際、あの件はお互い様という事にして片付けてしまおう」
「賛成、その方が良いかも」
真実を何も知らなかったから、彼を拒んだ。
拒まれなければいけないから、壁を作った。
でも、その必要はもう無くなった。
だから私は、彼に……
「俺から言わせてくれないか」
「う、うん……」
期待しても良いんだよね。
あの時みたいに、彼からの告白を期待しても……
「もう一度友達から始めてくれないか?」
あれれ?
「え、何て言ったの?」
予想外な事を言われて、
聞き間違いじゃないかなって私は困惑する。
「お願い、もう一度言って?」
「だから、もう一度友達からで良いので、
そこから順を追って仲良くなってくれないかと……」
あ、お姉さんが呆れてるのが見えた。
私もこんな間の抜けた事言われるなんて思わなかった。
「何でそんなに関係が後退してるのよっ!」
「え、何故怒る?」
「鈍感すぎますよ、隊長……」
何も悪い所が無いと言わんばかりの彼の言葉と態度で、
お姉さんの呆れ具合が更に増していく。
当事者の私は気持ちだけならとても冷静なんだけど、
ここは、言う事だけはちゃんと言ってしまわないと!
「責任はちゃんと取ってよね。
私は、恋人同士でも物足りないくらいなんだよ?」
「待て、俺はそこまで……
任務も終わった以上、逢えなくなる可能性も……」
何をそんなに戸惑っているのかな?
「もう、そんなの些細な事でしょ?」
「そんなに物事は簡単ではない」
あくまで冷静に答えているつもりみたいだけど、
声がとても動揺しているの、凄く……
「少し離れて考えたら、あなたの事もっと好きになったよ。
たとえ陰からでも、ちゃんと私を護ってくれてるから」
「なっ……」
「もう、大好きで、大好きで、止まらないの」
「待て、それ以上言わないでくれ……」
言っている私もすごく照れているけど……
それ以上に彼の顔が照れて真っ赤になっていく。
無表情だったはずの顔に、驚きが……あれ?
「あら……珍しいわね」
それを見たお姉さんが目を丸くして驚いていた。
私もそれを見て、びっくりした。
「そんな顔もできるんだ……
嬉しいな、もっと見せて、無表情以外の顔が見たいよ」
「た、頼んでも見せてなんかやるか……」
大崩れしてるのに何を言ってるんだか。
「と、とにかく俺は……」
理由をつけて私と距離を置こうとする彼を、捕まえよう。
焦って立ち上がろうとしている彼に、私は抱きつく。
「な、何をする!」
「逃げないで、一言一句逃さずに聞いてね」
そっと彼の耳元に口を寄せる。
「止めてくれ、本当にそれだけは勘弁してくれ……」
「往生際が悪いですよ、隊長……
何故彼女から逃げようとするのですか?」
「とにかく今は止めて欲しいんだ。
このまま流されるのだけは、勘弁して欲しい」
何で彼はこんなに拒むのかな……
何でも良いや、告白しちゃえば逃げられないよね。
「隊長が何を考えているかは知りませんが、
言っちゃえば良いと思うわ」
お姉さんの援護射撃で、私の気持ちは更に盛り上がる。
「ねえ、こっちむいて……」
私は彼の目を見る。
彼は目を逸らそうとする。
だけど、私は諦めずにじっと見つめる。
「私はね……
あなたの側で、ずっと笑っていたいの。
だから、もう一度付き合ってほしいの」
告白、しちゃった。でも……
「ごめん、今の俺にそれは受け入れられない」
彼は、動揺しながらもしっかりと私の目を見て拒絶した。
「え……何で?」
思わず私は反射的に聞き返していた。
「その時が来るまでは、俺は絶対にお前を受け入れられない」
「あ……」
「仕方ないわね……この場合」
お姉さんが、彼の言葉に納得していた。
私は、どうしてそんな事をするのか解らなかったし、
お姉さんが納得している理由も……
「あなたの気持ちは伝わっているわよ。
とりあえずそれで今は諦めなさい」
「う……うん……」
振られた……のかな……
そうでもない気がするけど、中途半端。
「一言だけ、言わせてくれ」
彼は私の目を見つめて……
「君を完全に護り抜けるまで、決意は心に隠しておいて貰いたい。
例え心で決断して望んでも、周りに認められねば意味が無い」
「あ……あうぅ……」
「これは、その為の試練になる」
その言葉で、気付かされた。
ああ、彼はちゃんと私を護ろうとしてくれている。
そして、彼の心は……うん、伝わってくる。私の心が振るえるほどに。
「格好……よすぎるよぉ……」
だから、そんな事を真剣な目で言われたら、惚れ直しちゃう。
「最悪俺が盾とならなければならない可能性もあるんだ。
下手をすれば、二度と逢う事も叶わなくなりかねない」
「嫌だ……そんなの……絶対に嫌」
「俺だって、それは避けたい。
だからこそ、君の気持ちは全てが上手く言った時の褒美として受け取りたい」
「うん……」
私は彼から離れた。
でもそれは、もう一度いっぱい抱きつける時が来るのを待つため。
「頑張ろう。あと少しだもんね」
「ああ、ここからが正念場だ」
今のやり取りを見ていたお姉さんは笑いを必死にこらえていた。
そんなに今の私と彼の会話が面白かったのかな……