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決めなきゃ人生変えられない!  作者: 空橋 駆
本編 決めなきゃ人生始まらない!
7/13

7.決断の時

私が悩んでいる間にも時間は過ぎて。

いつの間にか、街は遠くに過ぎ去って……


そして、気が付いた時には、

お姉さんが車を止めていた。


「本当なら、ここに着く前に決心して欲しかったのだけど……」

「え、どこに着いたの?」

「見覚え、あるでしょう?」


そこは先日、お姉さんと一緒に泊まった場所だった。

つまり、お姉さんの家……


色々な事を話しながらここに来た。

色々な事を考えながらここに来た。

長くて短い、曖昧な時間を抜けて来た。


だけど、行きの時に掛かった時間を思えば……

実際に過ぎた時間はあまり長くなかった。


「ここで日付が変わるのを待つか、

 それとももっと別の場所に逃げるか……

 これも、あなたが選ぶのよ」

「私は……」


どうすれば良いのかな?

逃げてみたとしても、燃料がなくなれば車は動かなくなる。

それに、どこまでも逃げられるわけじゃない。


「決めるまでは、この車から出すつもりは無い」

「隊長の言う通り。決めるまでは動かないわ」


彼の判断はとても正しい。

だから、私はあえて彼に聞いてみる。


「本当なら、今頃追っ手が来ていても不思議じゃないの?」

「その辺の撹乱を俺がやっていたのさ。

 丁度君の任務から外れたから、更に念入りにな」

「それでも追っ手は居るでしょう?

 特に、黒服とか……」


そう、その問題を忘れてはいけない。


「実はな、黒服の襲撃を逆手に取ったんだ。

 最初の襲撃のお陰でこちらも行動する大義名分が生まれた」

「なるほど、私を護るのを口実にして動けたのね。

 ということは、黒服って誰の差し金なの?」


そういえば、私はそれも知らされていない。


「これこそが今回の最大の難敵。

 君の婚約者が、君を独占したいが為に放った相手だ」

「祖父じゃないのね、あんな危険な事をしてきたのは!」


安心すると同時に、怒りがこみ上げてきた。


「まあ、落ち着け。この件があるから婚約破棄に印象は傾いている。

 先程の二つ目の選択肢も今回は選べる公算が高くなった」

「あ、なるほど……

 そんな相手と結婚させたくないよね」

「ただ、相手が出てきてこの件を強引に揉み消されると意味が無い」

「うん……」


相手が相手だから、やりかねない。


「ここからは彼らの行動について説明するわ。

 まず、あなたが車道に突き飛ばされかけた件だけど……」

「すべての始まりですよね」

「そうね、あれはあなたに怪我を負わせて、

 自分達の目の届く病院に入れて軟禁するつもりだったみたいね」

「ひどい……そんな事を考えていたなんて!」


相手を傷つけて、その上自分の物にしようと思うなんて……

許せない、絶対に許せない。


「その後の計画も多分、

 あなたを捕まえてパーティーに出させる予定だったみたい。

 だけどそれでも確実じゃないから……」

「無理矢理にでも結婚させる為に替え玉でも使いかねないな。

 本物を監禁して既成事実さえ作れば問題ないだろう」

「最悪です、冗談でもそんなこと言わないで!」


だけど、それもまた本当になりかねない。

冗談で済んでいてほしい。


「そんな相手から、本当に逃げ続けられるの?」

「今日中ならばまず大丈夫だとは思うが……」

「確実ではないのよ……」


彼も、お姉さんも断言はしてくれなかった。


「それに、君の祖父も動いている可能性がある」

「当たり前よね」


留まっても、逃げても本当に何とかなるとは思えない。

そう考えていた時、お姉さんは……


「あえて黙っておいた方が良かったかもしれないけど……」

「何か、あるの?」

「あなたが居なくなった事は想定外の事柄のはず。

 だからその為に動いていても不思議ではないの」

「含みのある言い方だな」

「そうだよね」


私と彼は揃って同じ反応をする。

お姉さんの言葉の通りならすぐに探されていても……


「だけど腑に落ちないこともあるの」

「確かに」


私も、何か引っ掛かってる事がある気がする。


「今の時点で、婚約者の暴挙の件についても、

 確実に伝えられているはずなのよ」

「あ、そっか……」


祖父はそんな相手と私を結婚させて良いと思うのかな?

まず確実に、思わないと考えた方がよさそう。


「暴走を止めに入ってくれているのなら、

 あなたを探す為に人を割く事なんてしないわ」

「十分に考えられる話だ」

「それなら、逃げた方が都合が良くなりますね……」


そのまま行けば、婚約が解消されて自由の身になる。

仕来りで決められた物で逆らえないのだから、

もちろん利用するに決まっているよね?


「俺の作戦、何処となく上手く行き過ぎているのも疑っていたが、

 それならば若干予想した展開から異なってくるかもしれないな」

「作戦?」

「君の所在は、自宅を離れた時から偽装されている。

 友人の所に泊まっているなどの理由をつけて……」

「そうなの?」

「そうだ」


知らなかった。

だけど、そうでなければ私はあのビルには居られない。


「だからこそ、あの特別室で君の祖父とは引き合わせなかった。

 先に呼び出されて待っている事にしても良かったのだが、

 君の本心を聞き出された挙句、要注意人物として俺に監視でも付けられたら……」

「こんな風に、逃げ出せないよね」


私が彼を一度振ったからこそ、上手く逃げられた。

その全てを壊してしまいかねないから……


「しかし、少しくらい疑われても良いとは思わないか?

 仮にも、恋人役をやらされていた人間だぞ?」

「う、うん……」


言われて気付いた。一応偉くて賢い人だよね、私の祖父って……


「残った弟が何とかしているのかもしれないが……

 もしかすると状況自体が好転している可能性も高い」

「上手く立ち回ってくれることを、祈るばかりね」


あ、やっぱり弟くんも私達の味方だったのね。

今聞かされるまで、半信半疑でした。ごめんなさい。


「それで、どうするの?

 このまま逃げる、パーティーに出る、ここで立てこもる……

 あなたは今、重大な選択を迫られているのよ」


お姉さんに言われる。でも、もう迷わない。


「うん、心は決まったよ。私は……ここにいる。

 パーティーには出ないで、今日を乗り切るよ」

「決断してくれて、ありがとう」


彼に感謝された。

無表情……に、少し見えなくなってきた。

少しだけ表情みたいな物があるような……


「そうね……部屋に入ったら

 あなたに提案したい事があるのだけど、いいかしら?」

「あ、もしかして……」


笑顔で何かの話を持ちかけてきたお姉さん。

この顔は……うん、何となく想像できる。


「落ち着いた所で話した方が良いでしょ?」

「うんっ」

「何だ……何の話だ……」


私とお姉さんの会話についてこれない彼は、

少し困った声を出していた。


そんなことを気にせずに、私達は家の中へ入った。

そのまま、夜が更けていく時間になるまで待ち続ける。


体感にするととても長い、長い時間だった。

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