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決めなきゃ人生変えられない!  作者: 空橋 駆
本編 決めなきゃ人生始まらない!
6/13

6.衝撃の真実

彼はほんの少し考えを巡らせていた。

何を告げられるかを楽しみにしながら、私は待った。


「まず、驚かないで聞いて欲しいのだが、

 君の誕生日パーティーの主催者は君の祖父だ」

「え……祖父って……

 それ本当? 冗談じゃないよね? 嘘なら嘘って言って!」

「衝撃的な事実かもしれないが、とりあえず落ち着け」


落ち着いてなんかいられない。


「信じられない……」

「ともかく……

 あの苗字は父方の祖父、確か君が過去に名乗っていたそれと同じはずだ」


あのビルの名前は、見間違いではなかった事になる。

母の旧姓を名乗っている今、本当はあまり関わりたくない相手。


「それで私は連れてこられたのね」

「そういう事なのよ……

 あなたは今まで殆ど知らなかったと思うけど」

「はい、今の今まで全く知りませんでした」


知らされた事実に、私は驚かされた。

でも、そんな事はあまり大きな事ではなさそうだった。

こんな事実なら、覚悟を決めてまで聞く事じゃない。


「本当に重要なのは、ここからだ」

「やっぱり、そうなのね」

「仕来りといえば、大体予想がつくと思うが……」

「しきたり?」


そんな物が、あったの?

聞いた事が無かった。


「また随分と遠回しな言い方ですね、隊長」

「だから隊長と呼ぶなと……」


とにかく、その仕来りが問題なのね。

遠回しな理由も全部聞けばいいし……


「十八歳になる誕生日に、婚約者と結婚するかどうかを決めるのだが……」

「婚約者?

 そんな人が私に居るの?」

「居る、しかも大体の場合は拒否権など持たないから無理矢理結婚させられる」

「婚約者がいるなんて聞いた事もないし、

 そんな仕来りがあるなんて今ここで初めて知ったよっ!」


あまりにも現実からかけ離れていて、驚いた。

思わず私が彼に掴みかかった所で、お姉さんが口を開く。


「知らされていなかったのは、

 血縁関係こそあれど、実態を伴っていなかったからなのよ。

 既に無効になったと思われていた件ですもの」

「私が旧姓を名乗っているから?」

「うぐっ……ああ、そうだ」


私に掴みかかられている彼が、苦しそうに答える。

とりあえず、窒息されても困るから放した。


「落ち着いたか?」

「こんな事聞かされて、気分としては最悪よ!」


あっさりと落ち着いている彼に怒鳴ってみる。

動じてもくれなかった。

余計に、寂しさが募った。


「それに、話にはまだ続きがある」

「え?」


まだ、何かあるの?

もっと悪い事実ならもういらないよ?


「既に好きな人が居る場合、無理矢理別れさせられる場合が殆どなのよ。

 特に、あなたのような女性の場合はほぼ確実にね」

「ひどい……そんなの……

 そんなの、ひどすぎるよっ!」


泣きたくなった。私はもう、ここで運命が定まっていたなんて。

でも、そうなると彼はどうして……


「という事は、あなたは最初から……

 私が顔も見せた事も無い意味不明な婚約者と無理矢理結ばれるのを知っていて、

 私と付き合っていたの?」

「当然だ」

「何とも思わなかったの?」

「仕方ない事だと思っていた」


つまり、私が彼を好きになった事は、全部無駄に……

もう、嫌だ……

こんなの、聞きたくなんかないよ……


「隊長……」

「ん?」

「あんまり意地悪してはいけませんよ?」

「意地悪か、そんなに」

「自覚が無いだけ、酷いわよね……」


お姉さんが少し呆れている。顔は笑っているけど。

そんなお姉さんと彼の会話を聞いて、私の絶望は更に深い物に……


「で、今の話の流れからすると有り得ない事だと思うが、

 実は君の両親は元々婚約者同士ではないんだ」

「そうなのよ……あなたの両親は普通に出逢い、

 恋愛を経て婚約者になり結婚しているのよね」

「え、どうして?」


話と違う。落ち込む前にもう何が何だか意味が……

仕来りにより必ず婚約者と結ばれるのでは?


「そもそも仕来りの全部を説明していなかった俺が悪かった」

「そうね……」

「ほえ?」


え、あれで全部じゃないの?


「残念だけど、婚約者と必ず結ばれるとは限らないのよね。

 仕来りは、あくまで道を選ぶ為の術でしかないの。

 大体は干渉されて親の思い通りに運ばされてしまうけど……」


その言い方だと……

そういえば、前にも言っていたはず。


「決断、しないといけない?」

「そういう事よ。あなたがきちんと決断すればいいの」

「でも、それと今の状況ってどうやって……」


決断と言われても、私には全く解らない。

それに、このままだと結婚させられて……


「あの誕生日パーティーが鍵になるのよ。

 それがあなたにとって最初で最後の大切な意思表示に繋がるの」

「あれ?

 そこから私は今、逃げてますよね……」


そう、車で延々と遠い場所にまで逃げようとしている。


「選択肢は三個」


彼が指を立てて、私に見せながら話をする。


「まずは、パーティーに出て、婚約者との結婚を受け入れる選択。

 大体はこの選択にさせられる。今回もここに落ち着く予定だった」


認めたくないけど、私はそうなる運命……


「もう一つは、パーティーには出たとしても、

 婚約者とは結婚しないと宣言する事もできるの」

「できるんですね、それも!」


つまり、私は無理矢理結婚させられる事もない……

絶望から、少しだけ戻ってこれた気がした。


「だが、それは当事者が男の場合でしかまず通用しない」

「権限を持てないあなたの場合は……まず、無理ね」


それを聞いて、またすぐに絶望へと叩き落された。

つまり、女である私には取れない選択。

結局、これからの私に自由なんてない……


「そして最後の選択は勿論、パーティーに出ない」

「それだけで良いの?」

「ただそれだけだ。

 それで婚約自体が破談となり、自由の身となる」

「そんな簡単な……」


出席しなくて良いのなら、別に問題なんて……


「簡単なわけ無いだろう?」

「何を相手にしているのか考えて発言しなさい」


それも、そうだよね……

二人に言われて、ようやく事の大変さが解った。


「でも、真実を知って良かった。

 何も知らなかったら、私は多分嫌々結婚を受け止めてる」

「俺が少し束縛しようとしただけで嫌がったのに……

 耐えられるとは思えないんだが」

「うっ……」


厳しい事を言われて、何も言い返せなかった。

事実、その通りだったから。


「ただ、俺は振ってもらったお陰でこうして動けるんだがな」

「あら、それも言っちゃうの?」

「え……?」


私は運転手のお姉さんの方を見る。


「ええっ?」


そして、彼の方を見た。

彼は相変わらず無表情に近いけど、不思議と何を考えているか判る。


「警護に就いている限りは関わるわけには行かないからな。

 雇い主に直接反抗するわけにもいかないだろう」

「あ、そっか……」


そうなるよね……

だって、この場合祖父の意向を無視している事に他ならない。


「君の祖父から絶大な信頼を受け、君にもまた信頼されていた結果、

 そのまま長い間警護についていたわけだが……」

「それを知っていれば……」

「知っていたら、俺との付き合い方に悩む事になるだろう?

 だから、俺は無表情をわざわざ作ってあまり踏み込まれないようにした」

「無表情って、演技だったの?」

「いや、それは……」


珍しく彼が言いよどんだ。

まるで、触れて欲しくない何かに触れたみたいで。


「表情を出していた方が演技だったなんて気付く人はいないでしょうね。

 色々あったのよ、立ち直らせるのは結構大変だったわ……」

「それ以上は教えてやらないでくれ。

 人にその記憶を抉られるのは、好きじゃない」

「すみませんでした」


聞いていることしかできなかった。

私の知らない彼の何かの一端に触れたことに気付かされた……


本当に私達は、上辺だけでしか付き合ってなかったんだね。


「あえて距離を置く方法を取って、

 目論見通り君に振られて顔も見たくないなんて言われた訳だ」

「あの時は……言い過ぎたね。ごめんなさい」


私は軽く頭を下げて謝る。


「謝らないでくれ。むしろ感謝している。

 そうやって嫌って突き放してくれないと、

 俺はこの任務から抜け出せなかったんだ……」

「任務……祖父のですか?」


彼は首を縦に振った。


「恋というものを教えてやって欲しいと頼まれた。

 人並みに恋をさせてから結婚させてやりたいと……」

「それを聞いた私は今とっても複雑な気分だよ!」


別れさせられる事を前提で付き合う。

人の気持ちを考えない行動だと思うけど……

恋も知らずに結婚させられるのも、確かに嫌かもしれない。

どちらに転んでも、嫌な物は変わらない。


「そうね、最初から叶わない恋なんて虚しいだけよ。

 だから隊長は無理を続けていたの」

「私のために……」


もう一度彼の顔を見る。

やっぱり表情を変えてなんてくれない。

何か読み取れる物があれば、私はもっと感情的になれるかもしれないのに。


「振られたら終了だった。

 任務はそこまでで、俺はまた別の任務に就けばよかった」

「私の前から消えたのは……

 もしかして、顔も見たくないって言ったから?」

「そのお陰でこんな大胆な方法が使えた」


あ、そっか……

嫌われた上に顔も見たくないなんて言われたら、

近くで護衛なんてできない。当たり前だよね。


「さて、ここまで話したんだ。

 君はどの選択を取るか……」

「まだ、決められない。

 だけど、時間をくれてありがとう」

「感謝するのは俺だけじゃない。そこの姉さんと、俺の弟……

 まあ、それ以外にも色々関わった奴全員に言ってやってくれ」

「うん、そうする。

 でも、一番言いたいのは、あなた」


彼の手を取って、私はそう言った。

ほんの少しだけ、彼が笑った気がした。

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