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決めなきゃ人生変えられない!  作者: 空橋 駆
本編 決めなきゃ人生始まらない!
5/13

5.逢いたかった人

翌日。とうとう私の誕生日がやってきてしまった。

だけど、私のいるこの部屋には誰もやってこない。

まるで、私がここにいないかのような……そんな扱い。


「退屈かも……」


私がここに居ることは内緒にされているらしい。

お姉さんか弟くんが机の上に置いてくれたメモがあって、

それを読んで色々と知った。


まず、私がこの部屋にいることを皆は知らない。

大切な来客が一泊してるとだけ、伝えられている。


「誕生日を祝われる側だから大切なのは解るけど……」


こんな場所に閉じ込められているのは少し、常識外れかも。

でも、本当はサプライズのパーティーなのに、

ここに連れて来られているのは緊急事態だからに他ならない。

だから、私がここから逃げようとすれば問題はややこしくなる。


黒服の人々が原因だと思うと……

私の置かれている状況はあまり良くない。


だから、誕生日を祝ってくれる人がまだ誰も居なかった。

こんなに寂しい誕生日は初めて。


「あんなパーティーなんかに出てもつまらないかもね」


そんな悩みを聞いてくれる人も居なくて。

本当にここは、寂しい。


隣に彼がいてくれたら。

もう少し楽な気持ちになれたかもしれないと思うと……

本当に、私は彼に護られていて、私自身もそれを欲していたのかな。

逢ったら、ありがとうって言っておかないと。


夕方まで、私はそのままずっとこの部屋にいた。

その間、誰一人私の所にはやってこなかった。

このまま、忘れられてしまうのかな……

そう思っていた時、途端に外が騒がしくなった。


窓の外を見ると、ヘリコプターが近くを飛んでいた。

このビルに向かってきている……


それを見ていた時、部屋の扉が開けられて弟くんが飛び込んできた。

私は、その様子を呆然とただ見ていた。


「緊急事態です。逃げますよ!」

「え、ちょっと、何?」


いきなり言われても、どうすれば?


「説明している暇はありません。

 社長室まで案内します、急いで!」

「一体どうしたの?

 誕生日パーティーに……」

「敵襲なんです。まさか空から来るなんて!」

「空、まさか……」

「窓の外に見えていたヘリコプターに、

 黒服が乗り込んで……」


逃げないと、いけない。

私は弟くんに連れられ、急いで階段を駆け上がる。


「こちらはこのまま屋上に向かいます。

 あなたはこの階にある社長室へ向かってください」

「え、大丈夫なの?」

「心配しないでください。

 社長室の前には、頼もしい援軍が来ています」


援軍って、お姉さんなのかな……

それとも私が一番期待している人かも。


「後は任せた、と伝えておいてください」


弟くんはそう言うと、そのまま走り去っていった。

私は私で、廊下の奥にある社長室へ。


扉を開けると……

私はいきなり背後から抱きつかれ、口を手でふさがれた。


「ん……んんっ……」


誰かに捕まえられた!

何とかして振りほどかないといけないと思い、必死に手足を動かした。

そうすると、口をふさがれていたはずの手が外れた。

これで声を出せる!


「何するの、離して、離してっ!」

「こ、こら……暴れるな、落ち着けっ!」


あれ?

この声はもしかして?


彼……だ。

嬉しいと思う前に、この状況。


「二度と付きまとわないでって言ったよね?」


最悪な再会だったから、私は怒った。


「そういうわけには行かないと言ったはずだ」


相変わらず無表情で、彼は返す。

いつの間にか社長室の扉は閉められて鍵が掛けられていた。

セキュリティシステムが動いた事が告げられる。


「なんて……ね」

「無事で良かった」


一番逢いたかった人だから。

つい、意地悪な事を言ってしまったけど……

彼は彼で、そんな私の気持ちを悟ってくれたのかな。


「色々と教えてもらったから」

「ああ、知ってるよ。事情を言えなかった俺にも責任はある」


彼は私を解放してくれた。

だけど、椅子に座ることは許してくれなかった。


「もう少し待つ。準備が終わっていない」

「準備……何かあるの?」

「敵が降りてくる前に何とかする」


格好良い。格好良いんだけど……

なんだろう、この変わらない感じは。


「相変わらずなんだね、表情を変えないまま」


彼の表情は、こんな緊急事態でも変わらない。

もう少し感情が豊かなら、いいのに。


「これも任務だし、責務だからな。

 そして俺の望んだ事だから」


彼は単に、ただ単に彼は任務をこなしているだけの人間。

そんな人間を、私は好きになることなんかできない……


「私を護るのも任務、なんだよね」

「そうだ」


彼は無表情で答えてくれた。

それを見て、私は心底呆れた。

なんで、こんな人を好きになったのかなって。


「こんな所にまで来て……

 あなたのそんなつまらない顔、見たくなかったよっ!」

「俺の何が悪いんだ……」


彼は気付いていないの?

まるで、私を助けるのに一切の感情が無いかのように話している。

彼の好意も、任務の上にあるの?


「私を護って、恋人のふりをするのも任務だったの、まさか」

「今は答えられない」

「なんで……」


そんな大切な事を答えてくれないの……

そう、言いたかったのに。


彼は私の手を引いて……


「準備ができた。降りてから続きを話そう。

 幸い、話し合う時間は沢山残されている」


彼はそのまま私を抱きかかえた。

これって、もしかして……お姫様抱っこだよね?


「緊急用エレベーターを使って一気に降りる。

 そこで、君も知っている人物がいる」

「まさか、あのお姉さん?」

「当たり。簡単だったか……」


簡単に答えてしまったので、彼は少しがっかりとしていた。

思い当たる人が居ない、それだけなんだけど……


「あいつが先に出てくると思ったんだがな」

「弟くん?」

「社長室にまで誘導しようとしたの、彼だよ?」

「その後は?」

「屋上に向かったみたい」

「何してるんだ……あいつは……」


彼からするとそれは予定外だったのか、

溜息交じりの声で呟いていた。


あれ?

表情に出て無くても、声にしっかり出てるよね……

まあいいか、気のせいかも。


エレベーターに乗り込んで、私達は下っていく。


「下に黒服はいないの?」

「居ない、というか空から来るのも想定の範囲だったらしい。

 ある意味、相手の計画を逆手に取った……」


つまり、この流れも最初から計画されていたの……

手際が良いと思ったら、まさかの真実だった。


「究極の脱出劇だ」


格好良く言ってるけど、本当に予定通りなのか心配だよ?

それにまだ私は本当の事を聞いてない。


「このまま一緒に来てくれ、何処までも」

「嫌!」


即座に私は断った。

事情次第では、私はあの黒服に捕まってもいい。


「ちゃんと、教えて」

「車の中で何が起きているのかを教える。

 それで納得できないなら、途中で降ろすさ」


そう言われてしまうとこれ以上は拒めないよ。

だって、降ろさずにずっとお姫様抱っこしてくれたの嬉しかったし。


「着いた、急いで乗るんだ」

「うんっ!」


私と彼はそこに止められていた車に乗った。

この前も乗ったあのオンボロな軽自動車……


「運転が荒い運転手って、お姉さん?」

「行きの運転が誰だったか忘れたの?」

「あ、そうでした……」


お姉さんの目線がこちらに来ると同時に思い出す。

そういえば、お姉さんが運転してここまで来たのでした……

こんな事になるとは思わなかったのですっかり忘れてました。


「それに、この車の所有者本人が滅多に乗らせてもらってないのよ。

 本当、久しぶりの運転で鈍ってるわ……」

「それで運転して本当に大丈夫ですか……」

「大丈夫よ、多分」


根拠何処にあるのですか、心配に決まってるじゃないですか!

だけど、そんな心配をよそに車は発進して一般道へ。


「文句があるならそこの隊長さんに言ってやってね」

「た、隊長?」

「そ、その呼び方は勘弁してくれないかと毎回言っているんだが……」


彼がそんな呼ばれ方をしていたなんて知らなかった。

本人は受け入れたくなさそうな事を言っているけど……

私からすると、とても似合ってると思う。

主に、雰囲気が……


「ここまで来たのだからもう話してあげても良いでしょう?

 何も知らせずこの先に行かせるのは可哀想よ」

「それも……そうかもしれないな」

「約束だったよね、そもそも」


話してくれる、その約束まで反故にされたら……

彼だけじゃなくて人を信じられなくなりそう。


「ああ、だけど何処まで話すか……」

「そうね、真実はとても重い物だから仕方ないわね」

「それでも、聞かせてください。

 何も知らないままではいられません!」


決断して欲しいとか、一方的に押し付けられるだけで……

何も知らないのにどうにかできるわけない!


「決断の為には、情報も必要だ」

「そうね。聞いた後の判断は……」


彼が、私の方を見た。

いつもはあまり変わらない表情。

でも、今この時の彼の目は真剣そのもの。


「聞いた以上は、覚悟を決めてくれ。

 約束してくれなければ俺は話したくない」


私は、首を縦に振る事しかできなかった。

というか、負けた……その真剣な眼差しに。


「約束するから、理解できるように話してね」

「善処する」


話を、聞きたかったから……

その気持ちだけで、私は突き進む事にした。

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