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決めなきゃ人生変えられない!  作者: 空橋 駆
本編 決めなきゃ人生始まらない!
2/13

2.災いの予兆

ここだけの話だけど、彼を振った日を境にして妙な事が起きている気がする。


外に出ると妙な視線を感じる時がある。

彼と一緒に居た時にはあまり感じなかった視線。

きっとそれは好意的な視線だけでは……ないかもしれない。


彼が何か裏で手を回しているのかな……

そう思うと、怖い。

何を考えているか表情からあまり読み取れない彼だからこそ、

どれだけ黒い物が渦巻いているのか……


なんて、ね。

そんな事は絶対に無いと思う。

彼の事、それなりに信頼していたからね。

むしろ、逆に私は今もまだ護られているのかもしれない。


だけど、今感じてる変な視線は……怖い。

何か嫌な予感がする。



その予感が正しかったと気付かされたのは、

私が交差点で信号待ちをしていた時だった。

いつもよりも人が多いと思って、立ち止まっていたら……


いきなり……

私は背後から来た誰かに突き飛ばされて……

体が車道へと、倒れて……


「危ないっ!」


いきなり腕を掴まれて、力いっぱい引き戻された。

車道に倒れてしまう前にどうにか助かったらしい。

ただ、思いっきり引っ張られたので腕が少し痛かった。


「やっぱり、見張っといて正解でしたね」

「えっと……」


私を助けてくれたのは、若い男の人だった。


「大事になる前に助けられて良かった」

「えっと、ありがとう……ございます」

「いやいや、当然の事をしたまでですよ……」


軽くお辞儀をして、まずは助けて貰った事を感謝した。

でも、ちょっと待って欲しい。


この人、私はよく知ってるよ?


「あの人の弟さんだよね?」

「あの人呼ばわりですか……

 まあ、そういうわけです」


よかった、気のせいではなかったらしい。

久々に見たので少し顔を忘れていた。


「ここに居ては話しづらい事もあります。

 近くに車が止めてあるのでそこに行きましょう」

「はい」


とりあえず、交差点から離れて近くに停めてあった車の後部座席に乗せられた。

何というか……


「軽自動車……しかも型式、古いですよね」

「ああ、それは運転手よりも所有者の趣味。

 ついでに言うと、運転手には席を外してもらってるから、

 暫くの間なら自由に話が出来る」


掴まれた場所は少し赤く腫れている。

病院に行かなくても良いけど、痛くなったら言おう。


「さてと、何から話せば良いか……」

「洗いざらい全部話してください」

「お、怒らないでください。とりあえず……」


こういう場所に連れてこられたのならば、

色々と聞かないといけないといけない。

それにしても、そんなに私は怖い顔をしてるのかな……


「どうして私を助けてくれたのかから、教えて」

「一応、兄からあなたの護衛を頼まれていたんですよ。

 まさかここまで露骨に狙ってくるとは思わなかったけどね」

「狙って……ということは、犯人は?」

「逃げられました。

 あなたを助けるので精一杯だったので」

「見つけたら、許さないんだから……」


怒りがふつふつと湧いてくるけど、それは置いといて……


「私を狙っている相手って、誰?

 それとも、どこかの組織とか……」

「残念ですが、今はそれを話せないんですよ。

 少々複雑な事情があるので」

「知らないで大丈夫なわけ、ないよ。

 既に巻き込まれているなら、尚更知っておかないと」

「それでも、話せない理由があるのです」


彼の真剣な眼差し。それを見て思う。

こういう時の目線の鋭さは、お兄さんと似ているよ……と。


でも、黙って頷くわけにはいかない。


「私はあなたのお兄さんに伝えたはずです。

 もう付きまとわないでくださいと」

「兄にそんな事を言ったとは……」

「言い切ってやりました」

「一応伝えておきますが、かなり凹んでましたよ……

 まあ、自業自得なのでとやかくは言いませんが」


凹んでいる彼の姿……

実は全く想像できないのだけど、どんな感じなのかな?

少しだけ興味はあるけど、そんな事は今はどうでもいい。


「まあ、いずれ真実の壁に突き当たると思うので、

 もう少し待って欲しいですね」

「そんな事を言って逃げるつもりでしょう?」

「逃げますよ。その方が都合が良いから」


何となく、知らない方が良い真実もあるのでは……

いけない、このまま言いくるめられたら何も解らない。


「代わりに一つ、質問をさせてください。

 これを聞いたら、帰って貰って構わないので」

「あんな目に遭ったのに送ってくれないんだ」

「見たとおりのオンボロに、

 ノリノリ運転手の至極荒い運転が加わるけどいいかな?」

「ごめんなさい、わがまま言いました」


ごめんなさい、運転手さん。

そんな車に乗りたいなんて思わないよ?

車道に突き飛ばされるよりも怖い思いしそうだから……

心の中で少しだけごめんなさいと呟いた。


「話題が逸れました」

「うん」


ごめんなさい、逸らしたのは私です。

でも、嫌そうな顔をされなかったので良いよね……


ん、違う……

何か、とても深刻で、真剣な顔になっていた。


「兄の事ですが、本当に嫌いになったのですか?」


真っ直ぐな目で、問いかけられる。

私は思わず目を逸らしそうになって……


「な……何、言ってるの?」


頭が混乱して、そんな答えしか返す事ができない。


「答えてください。お願いします」

「私は、私……は……」


どう答えれば良いのだろう?

好きではないけど、もう……


「嫌い……かな……」


震えながら答えた。

本当の気持ちを覆い隠して忘れるように。


「良かった。少なくともそれならば……

 当面は安心できるかな」


そんな気持ちを知らず、彼は納得した表情を浮かべて安心していた。

安心……していた?


ちょっと待って、何で納得して安心してるの?

実の兄が嫌われてるのを知ってそんな答えが出るなんて……


「どういう意味よ、それ!」

「そのままの意味です」


この場合、どんな意味で取ればいいのだろう?

まさか兄弟そろって私が好きなんて話も……


「いや、そんな事はありませんから……」

「え、あれ?」


まさか、途中から声に……出てた?

私はつい焦って顔を背けていた。


「とりあえず当てずっぽうで言ってみたのに焦るとは、

 一体何を考えていたか興味深いね」

「は、はめられた……」

「意外と話してみると面白い人じゃないですか。

 兄が気に入るのも無理は無いね」


気に入っているのは解ってるよ。

告白されたのは彼からだけど、振ったのは私だし。


ん……振った……のかな?

最初はそう思ったけど、何か事情があるらしいので、

それっぽい何かがあった程度なのかも。


「まあ、兄の事だから……

 好きだから、愛しているからこそ、

 本音が出せないのもあるとは思いますよ」

「そうでしょうか?」


うん、意外と姿が想像できるから困る。

口では否定してるけど、本心はそうなのかもしれない。

だけど、それならそれで私は納得がいかない。


「だからこそ忠告させてもらいます。

 兄はこのままだとあなたの側に戻れない可能性があります」

「近付かないでって言った以上、

 そうなってしまうのは仕方ないかも」

「いえ、二度と姿を見ることも叶わなくなる……」

「考えすぎ、だよね?」


まさか、あのケンカが最後の会話になってしまうの?


「考えすぎでない所が、ある意味非情に厄介なんです」


彼は整然と言い放った。

私は何も、言い返せなかった。


大げさな話だと思っていたのに、私が事故に遭いかけた。

それを彼は警戒していたと聞いた。

現実感が、無かったから……


心配なんかするだけ……

心配なんかしてもどうせ……

そう、心配なんて……

心配なんか……


頭に浮かんでくる言葉が、全部否定されていく。


心配……だよね、うん。


「無茶とか、してないよね?」

「さあ、それは知りません。

 ただ、気をつけてください。

 同じ事が起きる可能性も有り得ますので……」


自分でも注意するのは当たり前。

でも、それならば……


「代わりに護ってはくれませんか?」

「それこそ、事情があって無理なんですよ」

「残念です」


手を見ると、拳が握られているのが見えた。

この状況を黙って見ていたくはない……

本当はそんな意思を持っていると感じ取れた。


「それでは、話はこれだけですか?」

「とりあえず今日は急いで帰ること。

 それだけは、約束してください」

「約束します」

「自分から危ない事に足を突っ込んで巻き込まれて、

 それを助けるなんて面倒極まりないですから」

「は……はい」


今までの事務的な話し方とは違い、

最後だけ妙に力が入ってたので、それが本音なのね。


「それでは」

「気をつけて」


私は車から降りて、急いで帰宅した。

幸い、家の近くだった事もあり……

車を降りた後、危険な目には遭わなかった。

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