その2 甘くて美味しいお菓子談義
またまた、とある休日にて。
「これ、美味しいですね~」
思わず、私は笑顔でそう答えていた。
お姉さんから久しぶりに呼び出されたので、
本日はお姉さんの家にお邪魔しています。
先日の電話の件……これだったのね。
残念ながら彼は忙しいらしく、
今日は一緒に来れなかったのは残念だけど……
「気に入って貰えた?」
「はい、とっても美味しかったです」
その分、お菓子独り占めでちょっと嬉しい事に。
もちろん、この事は彼には内緒だよ?
でも、それだと少し可哀想になるから……
「今度教えてくれませんか、お姉さん」
「仕事でない日なら、いつでも教えてあげるわ。
そもそもその為に今日こうして作って見せたのだから」
「本当、こんなに上手いとは思いませんでした」
話に聞いていた以上で、びっくりした。
凄く丁寧に作られてるし、何より美味しい。
「これを見て、作ってあげたくなったでしょ?」
「は……はい……」
顔が赤く火照っていく。
うん、私の作ったお菓子を幸せそうな笑顔で食べてくれる彼……
そんな姿が頭の中を過ぎって行く。
「ラッピングとかも含めて色々と教えてあげるわよ」
「はい、ありがとうございます」
「本当はあなたもデコレーションしてラッピングして……」
「また変な事企まないでください!」
ああ、また話が脱線していく……
そもそも、着せ替え人形にさえされなければ、
色々と尊敬できるお姉さんなのにね。
「それでも、プリンの作り方は真っ先に教えてあげるから」
「え……どうして?」
「手順を間違えなければ意外と上手く作れるの」
「そんなに……簡単?」
むしろ、かなり難しいのではと思ったけど、
お姉さんがそう言うのならば、大丈夫なのかな?
「ちなみに一番簡単なのはゼラチン溶かして固めるだけのゼリーね……
それくらいなら、今からでもすぐに作れると思うわ」
「コーヒーゼリーなら自分で作った事もあります」
「全く作った事が無いわけではないのね。
それでも、教え甲斐がありそうね……」
お姉さんは嬉しそうに私の方を見ている。
教え甲斐があるって、私そんなに……
「美味しいお弁当、作ってあげてるんでしょ?」
「は、はい……」
「僅かでも調理器具を扱う経験があるなら、
お菓子作りもすぐに手際も良くなるわ。
今日は材料が無くて教えられないのが残念ね……」
残念そうな顔をしているお姉さんを見て、
何故プリンを最初に教えてくれようとしているのか知りたくなった。
「あの……
何で、最初にプリンなんですか?」
「言ってなかったわね。カスタードプリンが特に隊長の大好物なのよ」
「そうだったんですか!」
私、確かに彼と付き合っているけど……
あんまり好物の話とか聞いた事が無いのです。
「ちなみにカスタードクリームとかも隊長は好物で……
時折、コンビニでシュークリームとか買って食べてるのよ?」
「そんなに……」
意外すぎる彼の一面。
ちなみに私はチョコ系が大好き。
エクレアだったら、彼と一緒に半分こできるかなぁ……
「エクレアとかって作れます?」
「基本となるシュークリームも含めて、難しいと思うわ。
順を追って作っていきましょうね」
「はい、そうします」
いつか、私の作った美味しいお菓子で、
彼に喜んでもらうんだぁ……
そんな事を思いながら、今日のこのお茶会はお開きとなった。
「それでは、また来てね」
「彼も一緒に来てくれるかな……
そうすれば、出来立てのお菓子を一緒に食べれるのに」
「二人の柔らかな笑顔を見てると、きっと皆幸せになれそうね……」
後ろから、誰かが来る。
郵便配達の人かと思ったけど……
「何が……いや、誰が幸せになれそうだって?」
紛れもなくそれは、私の大好きな人の声だった。
「あ、来てくれたんだ……」
「遅かったわね、彼女のお迎えなのかな?」
「ああ、そのつもりで来た。
包んでもらったお菓子も含めて、忘れ物は無いな」
「うん、確認してきたよ」
「それでは、行こう」
「お姉さん、ありがとうございました!」
こうして彼に連れられて、私は帰宅の途へ。
頂いたお菓子の大半は私の物になりましたとさ……
でも、彼と一緒に食べた時に本当に嬉しそうに食べていたので、
お姉さんの話が事実だと良く解りました……
待っててね、今度は私が作ってあげるからね……
~ 後日談 ~
それから少し経って。
「上手く……できたっ!」
「うんうん、これなら上出来だと思うわ。
本当、なかなか様になっているわね……」
いい評価を貰って、嬉しい。
「何が出てくるんだ……一体。
作っているのが彼女の時点で少し不安なんだが」
「大丈夫よ、私が見てた限り、
失敗した箇所は無いと思うから」
「それなら安心して食べられるか」
彼は彼で、楽しみ反面、怖さ反面なのだろう。
「はい、私特製のプリンですよ~」
出来上がったプリンを机に置くと、
彼は直ぐに目を輝かせてそれを見ている。
「おっ……これは……」
見た目はまずまずの出来だと思う。
なら、後は味さえよければっ!
「食べてみるぞ? んっ……」
スプーンですくって、一口。
一番食べて欲しい人が、口にしてくれた……
それが何よりも嬉しくて、舞い上がりそう。
「実に良い出来だ。
まさかこんな美味しいとは思わなかった」
「本当? 私、まだあんまり自信なかったんだけど……
美味しくできて良かった~」
彼が喜んで食べてくれているのを見て、
私はほっと胸を撫で下ろすのだった。
「機会があれば何度でも食べてみたい。
その時は、作ってくれるかな?」
「はい、喜んで!」
お弁当の評価も嬉しいけど、
これはこれで、面白くて……
私の新しい趣味になってしまいそうです。
「上手く行って、良かったわね」
「はい、教えてくれてありがとうございました。
これからも、よろしくお願いしますね」
「なるほど、直伝のプリンだったか……
当然の如く、美味しいはずだ」
「それでも、今まで食べた中で一番美味しかったのでは?」
お姉さんが彼に聞くと、彼は照れながら……
「ああ、俺の知っている中では究極の品になるかもしれない。
本当にありがとう」
「そんなに喜んでくれるなんて……
お菓子作り、もっと勉強しちゃうよ?」
「是非ともやってくれないか。
試食ならいつでも大歓迎だ」
いつも勉強を教えてもらってばかりだから……
喜んでくれると、嬉しいな。
「今からこんな調子だと、結婚しても変わらなさそうね」
「え、そうですか?」
「何を根拠に……」
「悪い意味で言ったのではないわ。
長く続く、良い夫婦になれるのではと思ったのよ」
お姉さんが茶目っ気たっぷりの笑顔で答える。
「そ、そんなに私達って……」
「いや、そこまで俺達は……」
二人同時に答えてしまって、つい見合って頬を染めた。
「息、本当にぴったりね」
「あうぅ……」
うん、こんな事ばかりしてるから学校でも夫婦って言われるのかな……
でも、最近は言われても嬉しいと思ってしまう。
一息ついて、お姉さんが私の近くに寄ってくる。
「二人の子供が楽しみね……」
耳元でこっそりと呟かれた言葉で、私の気持ちは一気に吹き上がった。
「ま、まだ早すぎるよぉ……
それは結婚してからゆっくりステップを踏んで……」
「な、何を言われた?」
思考が暴走しかけている私を見て、
心配そうに声を掛けてくれる彼……
嬉しいけど、お姉さんに同じ事言われたら私みたいになるよ、きっと。
「隊長にも教えてあげます。
二人の子供が……」
「わーっ、それ以上言わないでっ!」
慌てて止めに入ったけど……
「皆まで言わなくても大体解るさ。
これまでに何回か聞かされているからな……」
彼が呆れた顔で言う。
なるほど、それなら私も一安心……で、いいのかな。
「先の事を楽しみにしているのは解るが、
まずは無事に卒業する必要がある」
「うん、そうだね」
「色々、頑張ろうな」
「お互いね」
私と彼は笑顔で、互いを見合って頷きあった。
ちなみに、お菓子だけでは止まらず、
後々お姉さんから彼の好物とか料理だけでなく、
礼儀作法まで含めて教わる事になるのだけど……
それはまた、別のお話。