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7話 ダンジョンに潜る

杖を買った翌日。

俺は宿屋のベッドに寝転がりながら、アルカナム学園の入学案内パンフレットを読んで、盛大に頭を抱えていた。


(嘘だろ……学費、高すぎないか!?)


パンフレットには、残酷な現実が記されていた。


『魔力判定Aランク以上の優秀者は学費半額免除。Sランクは全額免除とする。なお、Bランク以下の生徒は、学費は全額自己負担とする。また、全寮制のため寮費も一括納入すること』


「世知辛い! ファンタジー世界なのにめちゃくちゃ現実的!!」


俺はベッドの上でゴロゴロと転がった。

自分の墓からくすねた装飾品を売ったお金があるから、当面の生活費や入学金くらいはどうにかなる。

だが、この先の高い学費や寮費を払い続けるには、明らかに心もとない金額だった。


入学まではあと2週間。

それまでに、まとまった金を用意しなければならない。


(……稼ぐか。手っ取り早く、ドカンと)


むくりと起き上がり、前世の記憶——小説『聖剣のレクイエム』の知識を引っ張り出す。


確か、王都の近郊に『旧き石の遺跡』と呼ばれる初心者〜中級者向けのダンジョンがある。

あそこの地下10階層、特定の壁を壊した先にある隠し部屋に、高く売れる希少な魔石があったはずだ。


原作では主人公パーティが序盤に立ち寄る場所で、隠し部屋の存在はほぼ誰にも知られていない。


(つまり——俺だけが知ってる、未発見のお宝がある)


完璧だ。


「よし、善は急げだ。せっかくいい杖も手に入ったことだし、魔術の実戦練習も兼ねて行ってみるか!」


杖を手に取る。ずしりとした重さが、手のひらに馴染んでくる。

持っていると何となく魔術師っぽい気分になれるから最高だ。


俺は杖を腰に差し、意気揚々と王都の門をくぐった。



王都の東門を抜けて半刻ほど歩いた先に、それはあった。


草原の中にぽつんとそびえる、古びた石造りの建造物。

入口のアーチには苔が張り付き、内部からはじんわりと冷たい空気が滲み出ている。

地面には無数の足跡が刻まれていて、ここが長年にわたって多くの冒険者に利用されてきた場所だとわかった。


『旧き石の遺跡』——通称、石遺跡。

初心者から中級者向けの、王都近郊でも最も有名なダンジョンだ。


(おお、本物だ……!小説で読んだやつが実際にある!)


俺は感動に打ち震えながら、入口に近づいた。


そこで——ふと、周囲を見渡す。


入口の前には、今まさに潜ろうとしているらしい冒険者たちが何組かいた。

全員、複数人でパーティを組んでいる。

最小の組でも三人。多い組は六人だ。

それぞれ装備を確認し合ったり、作戦を話し合ったりしながら、息の合った様子で準備を進めている。


一人で来ているのは——俺だけだった。


(……あれ?)


俺は立ち止まって、記憶を引っ張り出した。

原作小説『聖剣のレクイエム』で、主人公パーティがこの石遺跡を攻略したのは——確か入学して間もない頃。一年生の時だ。

地下十階のボスを倒して、隠し部屋の魔石を手に入れていた。


うん、知ってる。そこまでは知ってる。


(……主人公パーティ、何人いたっけ)


えーと。

確か主人公と、幼馴染のヒーラーと、ツンデレ魔術使いと、飄々とした剣士と——


(四人だ)


四人いた。

それも全員、それなりに魔力ランクが高いメンバーで。

そのうちの一人はCランクで、ボス戦では要の役割を担っていた。


俺は自分の手のひらを見下ろした。

魔杖を、一本だけ握っている。


(……俺、一人じゃん)


しかもFランク。

パーティどころか、本来ならこのダンジョンの10階層に近づくことすら推奨されていないランクだ。


「…………」


しばらく沈黙した。


(でも、まぁ)


俺はちらりと自分の腕を見る。

見た目は細い。儚げな青年そのものだ。

だがこの腕は、実際には剣聖カイル=ヴォルフリートの肉体だ。

石棺の蓋を軽々と吹き飛ばし、黒曜石の杖を簡単に折ってしまうバグったスペックが。


(ボスがいたとして——魔術が使えなかったとしても、物理でどうにかなるんじゃないか?)


いや、なるだろ。たぶん。

引き返すのも悔しいし。

せっかくここまで来たんだし。

なにより、学費が必要だし。


「……よし、行くか」


俺は杖を握り直し、一人でダンジョンの入口をくぐった。


すれ違ったパーティの冒険者の一人が、こちらをちらりと見て、何か言おうとして、やめた。

たぶん「一人で大丈夫か」と言いたかったんだと思う。

儚げな銀髪の一人ぼっちが、不安げに見えたのかもしれない。


(心配してくれてありがとう。でも大丈夫です。たぶん)


冷たい石の空気が、肌を包んだ。

足元には松明の光が届かない暗がりが続いていて、遥か先から魔物の低い唸り声が微かに聞こえてくる。


俺の心臓は、期待と緊張で、じわじわと高鳴っていた。


(さて——魔術の実戦練習、始めますか)


Fランク魔術使い、単独で初心者〜中級者ダンジョンに潜入。

地下10階層を目指して、いざ——。


ちなみに、このダンジョンの10階にはボスがいる。

初心者の場合は、本来C〜Dランクが一人以上いないと攻略できないと言われている。

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