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6話 呪いの魔杖、開封の儀

入り口の方から、微かに熱を帯びた魔力の気配が滲んでくる。

それは圧迫感というほどではないが、明らかに「格」のある魔力だった。


「——店主の言う通りよ。これほどの『魔力圧』、間近で見るのは初めてだわ」


凛とした声が、背後から響いた。


振り返ると、そこに立っていたのは一人の少女だった。


燃えるような真紅の髪をポニーテールに束ね、アルカナム学院の真新しい制服をカッチリと着こなしている。

その手には、同じく真紅の、立派な杖が握られていた。


「魔力Fランクの落ちこぼれがいると聞いて来てみれば……ふん。何か手違いがあったようね」


俺が首を傾げると、真紅の髪の少女はツンと顎を上げ、自信に満ちた笑みを浮かべた。


「私はフレイア。炎魔術において、すでに中等級オービットを扱える天才よ。……あなたこそ、名前は?」

「あ、カインです」

「そう、カイン。いいわ、私のライバルになることを許可してあげる」


(……はい?)


なんだこの高飛車な美少女は。

しかも、勝手に『隠れた天才』みたいな激重な勘違いを始めている。


「さあ、カイン。あなたにその辺の木の枝は似合わないわ。店主! 奥にある『アレ』を出してあげなさい!」

「ア、アレですか!? しかしお嬢様、あれは百年間、誰も持ち上げることすらできなかった『呪いの魔杖』……!」

「構わないわ。彼なら……いえ、この規格外のバケモノなら、きっと使いこなせるはずよ」


(いやいやいや! 呪いの魔杖ってなんだよ! 俺は普通に、オシャレなエルフっぽい杖が欲しいんだけど!?)


私の心の叫びも虚しく、店主は奥の倉庫へと走っていった。


しばらくして——ズ、ズズ……と、石畳を引き摺るような重い音が近づいてくる。


倉庫の扉から姿を現したのは、見た目からして完全にやばい箱だった。

表面には古い呪文が無数に刻み込まれていて、そこだけ空気が歪んで見える。

近づくだけで、肌がじわりと粟立つような、重苦しい圧迫感があった。


開けてみろという無言の圧をかけられ、しぶしぶ近づく。


(いや、マジで開けたくないんだけど。すごい封印されてます感あるし。)


意を決して、鍵もないのに重い蓋を持ち上げると——


箱の中には、銀色の美しい杖があった。


(あれ?結構いい感じの杖じゃん)


禍々しい外箱とは裏腹に、杖そのものは細く、品のある造りをしていた。

銀色の表面が店内の灯りを静かに反射している。

どこか見ていると吸い込まれそうな、不思議な光沢だった。


そっと手を伸ばして、持ち上げてみようとすると——


(いや、重!?重すぎだろ!!)


先ほどまでの杖とは比べ物にならない重さが、手のひらに伝わってくる。

これ、杖というより鉄の棒だ。

……まぁ、俺は異常に鍛えられた剣聖の体があるから、普通に持てるんだけど。


(百年間、誰も持ち上げられなかった曰く付きの一品って…ガチで物理的に重かっただけなのかよ。もっと、呪いが~とか、持つ資格があるものだけが~とかそんなやつかと思ってた)


でも見た目は、正直かなり好みだ。

細くて銀色で、ミステリアスな魔術師っぽい。

何より——いくら握っても、壊れない。


(普通に握っても壊れないからいいな、これ)


俺は、そっと杖を握り直した。


その瞬間——杖の表面に刻まれた細かな文様が、ほんの一瞬だけ、銀白色の光を放った。


店主が息を呑む音が聞こえる。

隣にいたフレイアは、信じられないものを見るように目を大きく見開き、ワナワナと肩を震わせている。


(……なんか光ったけど、気のせいかな)


俺は首を傾げながら、杖を腰に差した。


店を出る際、店主に杖の代金を聞くと——タダでいいと言われた。

折った杖2本の弁償も、しなくていいそうだ。


(え、いいの? めちゃくちゃありがたいけど、なんで?)


理由を聞こうと思ったが、やっぱり払ってとか言われたら嫌なので、深く考えるのをやめて礼を言って店を出ようとした、その時。


背後から、店主の声がかすかに聞こえた気がした。


「——どうかご武運を、カイン様……」


(……様?気のせいだろ。俺はただのFランク生徒だからな)


俺は特に気にせず、杖を腰に差したまま、大通りへと歩き出した。


こうして俺は、軽くてオシャレなエルフっぽい杖を求めて店に入り、

百年間誰も持てなかった謎の重杖を手に入れて出てきたのだった。

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