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5話 まさかのFランク

学園長の長い挨拶が終わり、いよいよ新入生たちの入学試験——『魔力測定』が始まった。


アルカナム学園は、貴族から平民まで、多少なりとも魔力があればどんな身分でも入学できる、開かれた学園だという。

だから試験といっても、複雑な筆記や実技はなく、この広場に並べられた巨大な『魔力測定の水晶』に触れるだけらしい。


(よし、ついに来たぞ……!)


列に並びながら、俺は胸を高鳴らせていた。

伝説の剣聖とはいえ、ファンタジー世界に生きていた超人だ。さすがに魔力くらいはあるだろう。

できればいっぱいあれ! 水晶が光り輝いて「なんという才能だ!」ってちやほやされたい!


「次。そこの銀髪の君、水晶に手をかざして」


無愛想な試験官の声に呼ばれ、私は緊張気味に水晶の前へ進み出た。 大きく深呼吸をして、そっと両手をかざす。


(来い……! 俺の、未知なる莫大な魔力……!)


……………………。

…………。


「……あの。何か、起こってますか?」


水晶は、沈黙していた。

いや、よく見ると、奥の方で蛍の光よりも弱々しく、チカッと一瞬だけ光ったような気がする。


試験官は冷ややかな目で水晶を一瞥し、手元の羊皮紙に何かを書き込んだ。


「判定、F。ギリギリ魔力を感知できたレベルだね。君、魔術師として大成するのはかなり厳しいと思うけど、魔力量はある程度なら増やせるから、落ち込まず励みなさい」

「……エフ」


(F! まさかのF! 最低ラインじゃん!!)


俺は絶望で膝から崩れ落ちそうになった。

剣聖の肉体、魔力だけは本当にスッカラカンだったらしい。

周りの新入生たちからは「Fランクだってよ」「よく恥ずかしげもなく受けに来たな」と、ヒソヒソと嘲笑う声が聞こえてくる。


「で、名前は?」

「……え?」

「名前だよ。登録するから」


試験官が羽根ペンを構えて、面倒くさそうに聞いてきた。


(な、名前……!)


しまった、完全に考えてなかった!

ずっと「どうやって身分を隠すか」と「魔術で無双する妄想」ばかりしていて、一番肝心な偽名を用意するのを忘れていた!

どうする、なんでもいいから適当な名前を——!


「えーと、カ……」


焦りで頭が真っ白になり、うっかり本名カイルを言いそうになる。

いかん、伝説の剣聖と同じ名前なんて、いくら顔が違っても変に目立ってしまう! 何か、響きの似た別の名前を——!


「カ……カイン! カインです!」


俺は裏返った声で、咄嗟にそう叫んでいた。


「カインね。はい、登録完了。次の者」


あっさりと処理され、俺は肩を落としながら広場の隅へと移動した。


(やっちまった……伝説の剣聖としての威厳も、ミステリアスな青年としてのクールさもゼロだ)



「入学は1週間後か。 それまでに何を用意するんだったっけ」


俺は宿の窓から王都の大通りを見下ろしながら、指を折って数えた。

制服、鞄、教科書、筆記用具、杖。

筆記用具以外は指定の専門店で買わないといけないらしい。


さて、どれから行くか。


そんなの決まってる。


杖だろ!!!



というわけで、俺は心を躍らせながら王都の商店街へとやってきた。


新入生たちでごった返す大通りを抜け、目当ての老舗魔術具店『銀蝶』の扉を開ける。


瞬間、鼻をついたのは古い木材と、かすかな魔力の焦げたような匂いだった。

壁という壁に、様々な素材で作られた杖がずらりと並んでいる。

細いものから太いもの、透き通った水晶のものから、黒々と重みを帯びた金属製まで。

どれも微かに光を帯びていて、俺は思わず息を呑んだ。


(すごい……魔術具店ってこんな感じなんだ……!)


魔力判定Fランクの俺が、低等級メテオクラスの魔術を発動させるには、魔力を増幅・操作するための『道具(杖)』と『呼唱』が必須だ。

杖は、魔術師として生きていくための生命線である。


だから、しっかり選ばないと。


「おっ、これなんか初心者向けで良さそうだな」


俺は店先に立てかけられていた、木製のシンプルな杖に手を伸ばした。

そして、持ち手部分を軽く握り——


バキッ。


「あ……」


乾いた音と共に、杖が真っ二つに折れ曲がった。


(折れちゃった。ん〜、力加減が難しいんだよな)


俺は折れた杖の残骸を見つめ、心の中でため息をつく。

このカイルの肉体、とにかく素の力が強すぎる。

前世との差にまだ慣れてなくて、つい普通に掴んだだけでこれだ。

こんな異常な筋力で、繊細な木の枝を握ってはいけない。


(力加減。力加減。……よし、次こそは)


気を取り直して、今度は少し丈夫そうな黒曜石が埋め込まれた杖にそっと手を伸ばす。

卵を包み込むように、優しく、優しーく……。


メキッ、パキンッ!


「……あっ」


(ダメだ! 黒曜石ごと粉砕しちゃった!! どれだけ力抜けばいいんだよこの体!)


「ひ、ひぃぃぃっ!?」


カウンターの奥から、白髪の店主が悲鳴を上げて飛び出してきた。


「お、お客さん! やめてくだされ! あなたのその莫大な魔力……いや、圧倒的な『魔力圧』に、うちの杖が耐えきれずに自壊しておりますぞ!!」

「えっ? いや、これは魔力じゃなくてただの握りす——」

「なんという魔力の密度……! その細く儚げなお体のどこに、そんなバケモノじみた力を隠しておられるというのですか……!」


店主は完全に勘違いをして、ガクガクと震えている。


違うんです。魔力じゃなくて、本当にただの物理的な握力なんです。

魔力なんて一切込めてないから。

ほんとは、すごい魔力量でした~とかならどれだけいいか。


(どうしよう、弁償で路頭に迷う……!)


青ざめていた、その時だった。


店内の空気が、すっと変わった。


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