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2話 伝説の剣聖

肺を、冷たくて澄んだ空気が満たす。カビ臭い地下室とは大違いだ。

外に出て初めて、五感が異常なほど鋭敏になっていることに気づく。


(うわ、凄っ。夜の森の匂いが、手に取るようにわかる。それに、遠くを走る虫の音まで……)


魔力は感じないが、この肉体のスペックは、どうやら俺が思っていた以上にバグっているらしい。


霊廟のある森を抜け、俺はゆっくりと夜道を歩いた。

やがて、丘の下に広がる街の明かりが見えてくる。


(あれ……?)


その街並みを見た瞬間、強烈な既視感デジャヴが俺を襲った。

初めて来る場所のはずなのに、どの通りに何があるか、なんとなくわかってしまう。


(いやいや、まさかな。そんな、小説みたいなこと、あるわけないだろ……)


自分にそう言い聞かせながら、俺は街の中へと足を踏み入れた。

夜深いため、人通りはない。石畳に、俺の足音だけが響く。


街の中心にある大きな広場に出た時、俺の足がピタリと止まった。


広場の真ん中に、月光を浴びて荘厳にそびえ立つ、一つの銅像があった。


その銅像の顔を見て、俺は思わず息を呑む。


(ん……? なんか……俺に似てないか?)


いや、似ているなんてレベルじゃない。

さっき水溜まりで見た、あの鋭い眼光、影のある顔立ち。そのままだ。


全身から、冷たい汗が噴き出す。

俺は、震える足で銅像の台座へと近づいた。

ドキドキと、鼓膜がうるさいほど脈動する。


(まさか、そんな……な?)


祈るような気持ちで、台座の下に彫られた銘板の名前を見た。

そこには、古代文字で、しかし俺にははっきりと読める言葉で、こう刻まれていた。


『伝説の剣聖・カイル=ヴォルフリート』


「…………げぇッ!!」


声にならない悲鳴が、喉から漏れた。


剣聖。よりにもよって、剣聖。

魔術の魔の字もない、物理の頂点。

しかも死んだ後の、伝説の存在。


俺が憧れていたのは——霧の中からふと現れて、ピンチの推しキャラを助ける謎の強キャラだ。

飄々として、誰にも縛られず、現れれば誰もが驚くような魔術を操る存在。

なのに俺は、数百年後の世界に語り継がれる英雄の死体に入っている。


笑えない。本当に笑えない。


俺は、前世で読んでいた小説『聖剣のレクイエム』の世界に転生してしまったのだ。

そして俺のこの体は、その小説の主人公たちが生まれる数百年前に死んだ——おとぎ話の中の英雄だった。


(死んだ後の剣聖になって、どうやって魔術極めろって言うんだよぉぉぉッ!!)


頭を抱えてしゃがみ込む。


だが、その混乱の中で、俺の脳裏に前世の、最後の記憶が蘇った。


(……待てよ。確かあの小説の終盤、俺が死ぬ直前に読んでた最新話で、伝説の剣聖の死の真相について、重要な伏線が張られてた気がする……)


「数百年前に死んだはずの剣聖が、実は──」


そこまで思い出して、俺は唇を噛んだ。

その「実は」の先が語られる前に、俺は前世の人生を強制終了させられてしまったからだ。


(その真相がわかる前に俺は死んでしまった。だから、カイルがどう今の時代に関わってきたのか、その肝心な部分を、俺は知らない)


ただのカンスト物理キャラではない。

俺のこの『肉体』には、元の小説の主人公たちも知らない、物語の核心に関わる大きな『謎』が隠されているのだ。


「謎か、結局なんだったんだろう……いや、今の俺にとっては、魔法が使えないことが大問題だ!!」


俺は立ち上がり、自分の銅像にベッと舌を出した。


「よし、決めた。剣聖カイルなんて、今日限りで終わりだ。俺は身分を隠して、絶対に魔術を極めてやる!!」


たとえこの体が、剣を握るために生まれてきたものであったとしても。


俺の、魔術への憧れは——終わらない。


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