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1話 魔術のある世界

冷たい。


石の冷気が、背骨の一本一本に、じわりじわりと染み込んでくる。

視界は完全な暗闇だ。背中に張り付くのは、ひんやりとした硬い石の感触。

肺を満たすのは、むせ返るようなカビの匂いと、長い年月が凝縮された土の匂い。


(…あれ、俺、死んだはずじゃ?)


ゆっくりと目を開ける。

どうやら暗い箱———いや、石棺のようなものの中に、仰向けに寝かされているらしい。

頭上には鈍く光を反射する石蓋。隙間から、ほんの細い光が差し込んでいた。


無意識に自分の顔を覆おうと手を持ち上げ、俺は固まった。


その手は。

分厚く、骨張っていて。

手のひらには無数の分厚いマメが刻まれていた。


(え、誰の手!?俺、こんな武闘家みたいな手じゃないんだけど!)


混乱で心臓が早鐘を打つ中、ふと、外から話し声と、カチャカチャと金属が触れ合う音が聞こえた。


「…おい、今、物音しなかったか?

「はー?そんなわけないだろ。ここ、何百年も前の墓だぞ。いたとしても動物か何か——」


ゴトン


俺が身を起こそうとして、石棺の蓋をうっかり押し退けてしまった瞬間だった。


松明を持った薄汚れた男たちと、完全に目が合った。


「「「ギャァァァァァァァァァァッ!!?」」」


男たちも、俺も、地下室に反響するほどのけたたましい悲鳴を上げた。


(びっくりした!なに!?盗掘者!?)


「だ、誰だてめぇぇぇ!?」

「バケモン出たぁぁぁっ!!」


パニックに陥った盗掘者の一人が、半狂乱で錆びた剣を振りかぶり、こちらに向かってくる。


(えっ、ちょ、どうしよう!?俺、武器なんて持ってないんだけど!!)


大慌てで周囲を見渡し、石棺のそばに落ちていた手頃な枯れ枝を引っ掴む。

少しでも武器として使えれば、と縋るような思いだった。


影が落ちたのを感じて顔を上げると、あと数十センチで剣先が当たりそうな距離にあった。


——その瞬間。

ふわり、と世界がひどく遅く見えた。


男が死に物狂いで振り下ろす剣の軌道が、まるでスローモーションのように脳内に描かれる。

どっちに避ければいいか、どう動けばいいか、体が勝手に理解していた。


(うわ、相手の動き、おそっ!これなら余裕で避けられる)


ヒュッ、と首をわずかに傾けて剣を躱す。


男は俺に避けられたことで、勢いそのままに地面へ顔からぶつかった。


それを見ていたであろう、もうひとりの男は「お、お前、何なんだよ!」と言いながら懐から何かを取り出した。


木の棒?


なぜ、そんなものを出したのか図りかねていると、男は震える唇で何やらぶつぶつと言葉を口にし始めた。


すると、男が言葉を紡ぐたびに、木の棒の先端に赤く光る幾何学的な文様が浮かび上がっていく。

同時に、周囲の空気がチリチリと焦げるような、独特な匂いが漂い始めた。


「炎魔術:メテオ 『フレア』ッ!」


男の叫びが終わると同時に、木の棒の先端からバスケットボール大の赤い塊が放出された。


炎だ。

ゴォォォッという空気を焼く轟音と共に、灼熱の火球が俺の顔面めがけて飛んでくる。

熱風が前髪を激しく揺らす。

普通なら死を覚悟する場面だ。だが、俺の体は一切の焦りを見せず、またしても軽く首を傾げるだけで、その炎をあっさりと躱してしまった。

後方の石壁に着弾した炎が弾け、熱波が背中を撫でる。


(え、今のって魔術か?魔術なのか?!この世界、魔術がある世界なのか!!)


俺は、人生で一番興奮していた。


どっちの人生のことだ?という質問は受け付けない。人生と言えば人生だ。


俺は、ずっと魔術ってやつを使ってみたかった。

じゃあ、俺も!俺も使えるのか?!


同じように言えばいけるかもしれない。ただ、良く聞こえなかったので、聞こえたところだけ——。


俺は、心を躍らせながら、ちょうど持っていた枝をなんとなくで振ってみる。


「炎魔術 フレア」


──ドゴォォォォォォォォンッ!!!!!


鼓膜が破れそうな爆音と共に、突風が巻き起こった。

不可視の刃が空間を抉り、盗掘者たちは遥か彼方の壁まで紙屑のように吹き飛んだ。

それどころか、霊廟の分厚い石壁が豆腐のように真っ二つに両断され、外の月明かりが燦々と降り注いでいる。


「……え?」


ポツリと、俺の口から間の抜けた声が漏れた。


握りしめていた枯れ枝は、今の威力に耐えきれずサラサラと灰になって崩れ落ちる。


(なんで…?俺、炎魔術唱えたよな?だけど、今のは風だよな)


あまりの光景に冷や汗を流しながら、俺は崩れた壁のそばにできた、地下水溜まりへとフラフラ歩み寄る。

水面には、銀色の月が反射していた。


水溜まりに映る男と、じっと目を合わせる。


鋭い眼光。どこか影のある、凄絶なまでに整った顔立ち。

俺の魂が求めていた「謎めいた魔術師」とは正反対の、戦場が似合いすぎる男の顔だ。


(……なんか、凄く見たことあるような気がするんだけどな。誰だ、こいつ)


首を傾げると、水面の男も同じように首を傾げた。


……ダメだ、思い出せん。

前世で会った誰か、では絶対にない。だってこんなイケメン、現実リアルにいたら絶対に忘れないからな。


「……まぁいいか。とにかく、ここから出ないとな」


俺は、先ほど自分の放った『なにか』によって豆腐のように両断された壁の隙間から、霊廟の外へと這い出た。


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