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9話 アルカナム学園入学式

アルカナム学園、入学式当日の朝。


私は宿の姿見の前で、新しく袖を通した濃紺の制服をじっくりと眺めていた。


「お〜……やっぱこの学園の制服はいいな! カッコいい!」


鏡の中には、色素の薄い銀髪に、どこか憂いを帯びた瞳を持つ美青年が立っていた。


制服の仕立ての良さが、その「儚げな美魔術師」という偽りのビジュアルを完璧に補完している。中身が筋肉ムキムキの男らしい顔立ちだなんて、口が裂けても言わなければバレないはずだ。


「よし、髪がちょっと邪魔だな……。結んじゃうか」


俺はその辺に転がっていた、買い物の際についてきた黒いリボンを手に取った。

ざっくりと後ろで一つにまとめ、リボンで結び上げる。


すると、顔周りがすっきりした代わりに、より一層「深淵を知る魔術師」のようなミステリアスな雰囲気が増してしまった。


「……うん、いいんじゃないか? 魔術師っぽくて」


俺は満足げに頷くと、準備した杖と鞄などを持って、宿を出た。



学園へ向かう道中、そして校門をくぐってからも。 どういうわけか、周囲からの視線を痛いほどに感じた。


すれ違う新入生たちが足を止め、私を見てはコソコソと何かを囁き合っている。

特に女子生徒たちの視線が熱い気がする。


(ん〜……ちょっと、カッコよくし過ぎたか?)


いや、自意識過剰だな。

確かに、この顔はカッコいいが、この世界ではこのくらいの顔は沢山いるはずだ。


俺は、自分のクラスを確認するために掲示板へと歩みを進めた。

掲示板の前にはすでに人だかりができていた。

人混みをかき分け、自分の偽名を探す。


(えーと、カイン、カイン……あ、あった。1年Fクラスか)


自分の名前を見つけ、ほっと息をつく。

そして俺は、念のためにもう一つの名前を探した。

原作小説『聖剣のレクイエム』の、主人公の名前だ。


SクラスからFランクまで、名簿を隅から隅まで目で追う。

…ない。どこにも、あの見慣れた名前はなかった。


(居ない。ってことは、やっぱり俺のいるこの時間軸は、主人公が学園に入学する前ってことだ)


確信に変わる。

あの王都近郊のダンジョンで、地下10階層の隠し部屋のお宝が手付かずのまま残っていた時点で薄々感づいてはいたが、これで間違いない。


(良かった…!)


俺は胸の奥で、安堵の息を吐き出した。

主人公がまだ学園に入る前の時間軸なら、間に合う。

あの絶望的な未来を変えて、俺の『推し』を救えるかもしれない。

いや、絶対に救ってみせる。


(そのためには、主人公が来るより早く魔術を極めて、最高位のクエーサー魔術を獲得しないと…!)


目標は明確だ。

俺は密かに、両手でギュッと拳を握りしめ、決意の炎を燃やした。

——まぁ、今のところ出せる炎は『豆粒サイズの火の玉』だけなんだけど。


気合を入れ直し、俺は式典会場の講堂へと移動した。


指定されたクラスの列に並ぶと、やがて壇上に一人の壮年の男性が現れ、厳粛な面持ちでマイクの前に立った。


「——新入生の諸君、入学おめでとう。私は本学の副学園長である……」


(……あ、学園長じゃないんだな)


俺はほっと胸を撫で下ろした。


入学試験で意味深な笑みを浮かべていた金髪エルフの学園長。

正直、あいつと目が合うのは心臓に悪い。副学園長の話が長いのは前世の校長先生と同じだが、正体を見透かされるような恐怖がないだけマシだった。


長い、とにかく長い式辞がようやく終わり、次は新入生代表の挨拶へと移るらしい。


「新入生代表——フレイア・フォン・ローゼンベルク、前へ」


その名を聞いた瞬間、俺は「ん?」と顔を上げた。


壇上に上がってきたのは、燃えるような真紅の髪をポニーテールにした少女だった。

背筋をピンと伸ばし、堂々とした足取りで歩く姿は、まさに『選ばれし天才』そのものだ。


(あれって、あの時の杖屋の子じゃないか?)


まさか代表に選ばれるほどの超エリートだったとは。

フレイアは壇上で立ち止まると、会場全体をゆっくりと見渡した。


その鋭い視線が、Fクラスの列にいた俺を捉えた——ような気がした。

彼女の口元が、ほんの少しだけ挑戦的に吊り上がったように見えたのは、果たして気のせいだろうか。


(……なんか、嫌な予感がするな)


俺の穏やかな魔術師ライフを予感させるはずの入学式は、嵐の予感と共に幕を開けたのだった。



長かった入学式が終わり、新入生たちはそれぞれの教室へと移動した。


1年Fクラス。

学力や実技はともかく、魔力測定において決められているクラス編成だ。魔力量によって学ぶことが出来る魔術のランクが異なるため、この学園はかなり実力主義社会なのだ。


(俺はここから、魔力量を上げて毎学期末の試験でSクラスまで上がるんだ!…でも、目立つと謎キャラじゃなくなっちゃうから学園ではなるべくひっそり過ごそう)


俺は教室の最後列、窓際という『絶対に目立たないであろう特等席』に陣取り、ふぅと息をついた。

窓の外を眺めて、今後の穏やかな学園生活に思いを馳せる。


ガラッ


その時、教室の扉が勢いよく開いた。


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