絶対的正義の集団に犯され侵され殺されて
「……つまらない。声がキモい。裏ではあーだ……あのメンバーとの仲が……性格が実は……最近卒業したメンバーはこの女のせい……か」
無数の言葉、無数の呟き、無数の人々の意思が書き込まれる広すぎるソーシャルネットワーキングサービス。私はそれを使って、自分の名前を検索していた。
一週間ほど前まではこんなに多くなかった。私を否定する言葉、私を拒絶する意見、私を狂わす発言。誰も彼もが私を憎み、私を恨み、私を攻撃してくる。
ごく稀に見える肯定的な意見、一見味方な素敵な意見。だけどそれのリプ欄を見ると、私と同時に私を守ってくれようとしている人までが叩かれ殴られ傷つけられている。
「……凄いな」
思わず呟く一言。関心の意が込められたその一言は、私に余裕を持たせるために呟かれた虚言。
一週間ほど前に、私は所謂炎上をした。コラボ配信での言葉の選択ミスが原因で、なんだかもう、よくわからないくらい怒られている。
当然それを知った私はすぐに相手に謝った。気にすることないよ、そんなに気にしてないよと、優しく都合のいい言葉を貰い私は安心していたが──
「……あー……そうなんだ……へー……ふーん……知らなかったぁ……知らなかったな……知らないよそんなの……」
少し涙が出てきてしまって、胸の辺りが凄く冷たくなって、私は敢えて何でもないよう装うために独り言を呟き、画面をスクロールしていく。
曰く私は、人気のないメンバーを仲間外れにし、会社に命令し冷遇させ、その子を傷つけているらしい。
「……そんな酷い事するわけないじゃん。皆んなと仲良いもん……仲良いはずだもん……」
曰く私は、会社の重役と肉体関係を持ち、大きな企業との大きなタイアップを手に入れているらしい。
「……気持ち悪い。何でそんなすぐに……そう言う事言うのかな、言えちゃうのかな」
曰く私は、チャンネル登録者数と同接人数を金で買い、ランキングに入る事で人気と錯覚させ、人々を騙しているらしい。
「……頑張って増やしたのに」
曰く私は、有名男性配信者と付き合っており、その人と共に自分に金を貢ぐリスナーを笑いものにしたり、バカにしたりしているらしい。
「……彼氏いないし。リスナーさんを笑いものになんてしないし……よっぽど変な人の愚痴を言う以外悪く言わないよ……」
曰く私は、最低最悪な女らしい。
曰く私は、この世で最も醜い人間らしい。
曰く私は、生きている価値のない最底辺のゴミらしい。
曰く私は、他の人に迷惑をかけるだけの邪魔な存在らしい。
曰く私は、他のメンバーから嫌われている必要のない浮いている存在らしい。
曰く私は、曰く私は、曰く私は──
「……もうわかんないよ。私って……なんなの? 誰が私をこう言う人間だと定義しているの? 私は……そう言う人間にしか見えていないの? 私の見ている世界と違いすぎるよ皆んなの見ている私……仲良いのに悪いとか……彼氏いないのに彼氏いるとか……人を騙してるとか……詐欺師だとか……生きている事自体間違いとか……待ってよ……私って……やっぱりそう言う人間だから……そう言う人間だから……自分で気づけていないだけでそう言う人間だから……そう言う人間に見えているの……?」
頭がぐちゃぐちゃになっていく。私、私って、私ってどう言う人間なんだろうって。
みんなが言っている。私は最低な人間だと、私はゴミクズだと、私は消えるべき存在だと。
みんなが認めている。いいねをしている。肯定している。そうだそうだと賛同している。私が悪だと誰もが感じている。
だから叩く、だから否定する、だから中傷する、だから傷つける。可視化された数字に感化され、事実も虚実も何もなく、今目の前にある切り抜かれた情報だけを頼りに私を悪と定義し、正義の集団が私をリンチする。
何だか、そんな意見ばかり見ていると私自身、私は最低な人間なんじゃないかと思えてきた。この人たちの意見が正しいんじゃないかと思えてきた。
ほら見てよこのリプ欄。みんながみんな、私を消すために活動している。
私の名前の付いた呟きのほとんどが私を攻撃する呟き。それに賛同する人々、ごく一部の否定意見を出す人々。みんながみんな、過激な言葉を使って争っている。
なんて言うか、なんていうか、なんだろうな。もういいよ、私、そう言う人間でいいよ。
「……消えたいな」
私はポツリと一言、嘘を呟いてからゆっくりとパソコンを閉じ、ゆっくりと顔を上げ天井を見つめる。
暗い部屋だから真っ暗な天井。何も見えない。真っ暗だ。本当は微かに照明器具が見えるけど、それでも真っ暗。
真っ暗な部屋、真っ暗な気持ち、真っ暗な心。
私ってこれからどうするべきなのかな。どう生きていけばいいのかな。そう悩んで、悩んで、悩み続け──
「……とりあえず寝よう」
そう呟いて。私は勢いよく椅子から倒れ落ち、下に敷かれた布団へポフっと倒れた。
そばに置かれた抱き枕を手探りでこちらに引き寄せ、それに抱きつきながら私は──
「……もうちょっと、まともにちゃんと、生きたいな」
そう呟き、ゆっくりと目を閉じた。




