5 強面騎士様のお礼
「大丈夫、です。よく効く……薬があります」
私はクラウン様に静かに言った。
私が作れます、と付け足した。
大人しく座っていてもらい、薬を作った。
薬草と球根と、私の魔力を注げば出来上がる。
「はい。でき、ました……」
シャツをめくってもらって、爛れていた場所に直接塗っていく。
触れないように、ガーゼで覆って包帯を巻いた。
「これも……飲んで、ください。苦い、ですけれど」
念のために薬用茶。これを飲めば大丈夫だ。
「ありがとう」
「あ……」
クラウン様はグイッと、一気に飲んだ。飲み終えた後、凄い顔をした。
「あの花は。この森でしか……、咲かない花なのです……。花は、毒ですけれど、他は。薬になります」
クラウン様は話を聞いて「なるほど。他で見たことが無いはずだ」と頷いた。
指輪も見つかり、報酬を頂いた。
思ったより多かったので、その分返した。
「毒を手当してくれた、お礼だ。返さないでくれ」
クラウン様はそう言って渡そうとしたが、首を左右に振って私は断った。
豪華な家が買えそうなくらいのお金だったので、受け取らなかった。
目の前に毒を受けた人がいた。しかも直ぐに手当てしないと危ない状態だった。
だから手当したと伝えた。それだけだったのに。
その後――。
時々、【占いの館 ネムノキ】にクラウン様は顔を出すようになった。
特に何か依頼するわけでもなく……。
美味しそうなお肉を食べろと言って持ってきてくれたり、異国のお菓子をお土産に持ってくれたりした。
行商人のノラおばさんが、クラウン様と初めてこの屋敷で顔を合わせたとき。
「この不審者! 出てお行き!」と言って、追い出されそうになっていた。
騎士様を力ずくで追い出そうとしたノラおばさんは、強い。
慌てて私は事情を話したけれど、強面の騎士様を疑って信じてくれなかった。
クラウン様は、騎士団の証明書を見せて信じてもらったようだ。
でもたとえ強盗が入ってきても、私は魔法が使える。
普段使わないけれど、強力な魔法を使えるので大丈夫だ。
一般人は生活魔法ぐらいしか使えないけれど、魔女は使える。
恐れられて、魔女はさらに忌み嫌われる。
ほぼ引きこもりの魔女の私。
祖母が生きている頃から、『怖がらずに、人と交流しなさい』と言われていた。
だけど……。
「リサちゃん! 今日はトマトとキュウリなど、もってきたわよ! たくさん買っておくれ!」
ノラおばさんが野菜を持ってきてくれた。今日は、サラダを作ろうかと思った。
子供の頃から来てくれる、行商人の人達は優しい。
こうやって食料を|ここ《【占いの館 ネムノキ】》で買うことが出来る。
「邪魔する」
ちょうど行商人さん達がきたときに、クラウン様が屋敷を訪ねて来た。
「あら! クラウン様。見廻りの途中かい?」
ノラおばさんは、強面の騎士クラウン様を怖がらず、普通に話しかける。
クラウン様は、お城の騎士団の騎士。しかも副団長だ。
黒い騎士服が似合っていて、カッコイイ。
街の子供には、怖がられているそうだけど……。
「そうだ。見廻りの途中だ。何か困りごとはないか?」
クラウン様は、私と行商人さん達に尋ねた。
「私達は特に……。あっ! そう言えば……。隣の国で、子供がさらわれそうになった事件があったと聞いたよ」
ノラおばさんは、隣の国の宿屋で泊まった時に聞いたと言った。
「ああ! そう、そう! 最近、人さらいがいるらしいから気をつけている、と他の国でも聞いた」
他の行商人さん達も次々に、他の国で聞いたことをクラウン様へ伝えた。
エントランスには、五人の行商人さん達が品物を持ってきて、簡易テーブルの上へ広げている。
「そうか……。気をつけなければならないな。情報をありがとう」
クラウン様は行商人さん達にお礼を言って、握手を交わした。
気さくな所があるからクラウン様は、用心深い行商人さん達に好かれている。
「俺も時々顔を見せるけれど、リサさんも気をつけるように」
そう言ってクラウン様は、私の頭をローブの上からポンポンと撫でた。
「えっ……! 私、子供じゃ……ない、です」
ローブのフードを深く被って、前髪で顔を半分隠しているから見えないと思うけれど。
私の顔は、真っ赤になっていると思う。
「子供を狙って、次は若い女性がターゲットになることがある。気をつけた方が良いに決まっている」
まだ私の頭に、クラウン様の大きな手のひらが乗っている。
顔を上げられない。
「クラウン様。リサさんの頭から手を離しなさい。困っているよ」
行商人さんのおじさんがクラウン様に言った。
「あっ! すまない! つい……」
つい……って、どういう意味なのだろうと思った。
クラウン様の手が離れて、少し寂しかった。
「あ、そうだ! 今度、ローゼリアの街でお祭りがあるわね!」
ノラおばさんは思い出したように言った。
「そう、そう! 俺達もお祭りで、出店するから来てくれたら嬉しい!」
行商人のジョンおじさんが、出店するからと言った。初耳だった。
「えっ……? 出店するの……ですか? ……いいなあ」
賑やかなお祭りで出店。私は憧れていた。
お祭りに参加するのは、人ごみに紛れるからコッソリと一人で行ったことがある。
遠くで眺めていただけだった。
「あ、そうだ。忘れていた。リサさんも、お祭りで出店しませんか?」
クラウン様の言葉が信じられなかった。




