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鶴ヶ島崇神譚 ―祓い士 夕凪の覚醒―  作者: のら


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第15話 【覚醒】邪鎮の禊槍! 龍神に名前を呼ばれた「光徳の娘」


『――認めよう』

 龍神が、長い首を少し下げる。


『光徳の娘。三ツ木 夕凪』


「……あ」


 思わず顔を上げた。


「今、名前呼んだ」


 横でオロチがニヤッと笑う。


「お、よかったな、JK巫女。御本家様の「名指し」いただいたじゃねえか」


「はぁ、はぁ……へへっ」

 嬉しさと同時に胸の奥が少しだけ熱くなる。

 

 はじめて会ったとき、オロチは「神様は認めるまでは名前を呼ばない」と言っていた。

 そういうものらしい。

 龍神に名前を呼ばれたということは――。


『禊槍を預けるに足ると判断した』


 龍神の金色の瞳が、まっすぐ私を見つめる。


『その身、その魂。その線引きの覚悟。

 未熟ではあるが、伸びしろはある』


「みじゅく」

 そこだけちょっと刺さる。


 オロチが、肩をすくめた。

「御本家様、また俺に貸しひとつ増えましたな」


『たまには返せ、オロチ』


――お前が言われるほうだろ、それ普通。

 そう思ったのは、たぶん私だけじゃない。

 でも、そのやり取りが妙に心地よくて、私は息をつきながら笑ってしまった。


「――で、」


 ふと、素朴な疑問が頭をもたげる。


「……あの、禊槍って、どこにあるんですか?」


 池の中を見回しても、それらしいものは見当たらない。

 龍神は笑わず、ただこちらを見下ろしていた。


 代わりに答えたのはオロチだった。


「お前、手に持ってんだろ」


「え?」

 オロチが、私の持っている大幣を指さす。


「そいつ。さっきから大事そうに握ってる、ただの棒」


「ただのって言った」


「まあ見てな」


 オロチは、水面から、ひょいっとこちら側に戻ってきた。

 そして、私の前に立つと、大幣にそっと手をかざす。


 さっき龍神を呼び出したときとは違う、短い祝詞を、小さく呟いた。


 空気が、一瞬だけきゅっと縮む。


 大幣の白い紙垂が、ふわりと浮かび上がった。


「っ……!」


 棒そのものが、光を帯びる。

 柄が、すこしずつ伸びていく。

 握っている部分の感触が変わる。

 木の表面に、細かい鱗の彫り込みが浮かび上がっていく。

 棒の先端には、龍の頭の彫刻が現れた。

 口を大きく開けた龍の、その喉の奥から――。


 鈍く光る槍先が、すっと突き出てきた。


 銀でも鉄でもない、見たことのない光。

 でも、確かに“刃”だと分かる鋭さ。


「……なにこれ」

 自分の手の中から生えてきたそれを、私は呆然と見つめた。


「いわゆる禊槍モードだ」

 オロチがあっさり言う。


「――邪鎮の禊槍。

 本来は、祟り神どころか、神様相手でもやり合える代物だ」


「ちょ、ちょっと待って。そんな物騒なもの、私に持たせて大丈夫なの」


「大丈夫じゃねえから、制限付きだ」

 オロチは、龍の彫刻の額あたりを軽く叩いた。


「今のお前に扱えるのは、“線引き”の力だけ。

 斬ったり刺したりのほうは、まだ封じてある」


「封じてある……」


「そ、お前がそれで刺そうとしても、刃がひっこむ。

 そーゆーナイフのオモチャあったろ?あれと同じだ」

 オロチがケタケタ笑っている。


「マジ、言い方ぁ」


「さっきやったみたいに、ここからこっちは人の領分って決めてやるときに使え。

 境目を示す槍だ。今のところはな」


「今のところは、って付け足したよね?」

 将来的に解放フラグが立つことを、さらっと匂わせてくるのやめてほしい。


 隣で千景が、テンションを爆発させていた。


「っや、やば……! 龍頭槍とか尊すぎない!?ビジュアルが完全にメインビジュアル武器なんだけど!」


「オカ研落ち着いて」


「これ、イラスト映えやばいよ、夕凪! カバーいけるよカバー!」


「何のカバーだよ」


 でも、正直、気持ちは分かった。


 禊槍――邪鎮の禊槍。


 その柄の重みは、さっきまで握っていた御幣棒とはまるで違う。

 でも、不思議と、手のひらには馴染んでいた。


『……窓よ』


 龍神の声が、少しだけ遠くから聞こえた。


『それは貸し与えるもの。

 お前が線引きを誤れば、その刃は、お前自身にも返る』


「……はい」

 思わず姿勢を正す。


『忘れるな。

 祓い士の槍は、“敵を倒すため”ではない』


 龍神の金色の瞳が、静かに瞬いた。


『“崇神”と“祟神”のあいだに、もう一度座を作るためのものだ』


「……はい」

 同じ言葉を、もう一度繰り返した。


『それとメガネの娘』


「は、はいぃ……」

 千景は呼ばれるとは思っておらず、変な声が出た。


『咄嗟の判断、見事だった。お主にもまた期待が持てる』


「あ、ああ、あ、ありがたき幸せにございますー!」


 武士かよ。そう思った。


『ただし、我を“つるゴン”と呼んだことは忘れぬからな』


「ひぃっ」

 おいしいところでしっかり刺してくるあたり、やっぱオロチの親戚なんだなと妙に納得した。


 禊槍の柄に、自然と力がこもる。

 池の上の巨大な龍神は、ゆっくりと首を引いた。

 その身体が、水となって崩れていく。

 黒い鱗が、波とともに池の底へと沈んでいく。

 最後に見えた金色の瞳は、さっきより少しだけ柔らかかった気がする。

 やがて、雷電池は、最初と同じ静けさを取り戻した。

 ただの、静かな水面。

 でも、もう“ただの”とは思えない。

 

 

「……ふう」

 膝から力が抜けそうになるのをこらえて、私は禊槍――元・大幣を肩に担いだ。


「やるじゃねえか、JK巫女」

 オロチが、いつもの調子で笑う。


「でも、さっきのはまだ完全な戦闘じゃねえ。御本家様の相性チェックみたいなもんだ」


「あれで??相性チェックにしては御本家様、本気で殺しにきてたとしか思えないんだけど」


「龍神の本気はあんなもんじゃねえよ。今の俺らじゃ、瞬殺されるわ」

 そういうと、オロチは肩をすくめた。


「さて、次はこれ持って『サヤ』のところに行く」


 サヤ。


 あの、底にいた子。

 どこかの忘れられた溜池の底で、ひとりでいる水神。


 その名前を思い浮かべただけで、喉がきゅっと渇いた。


「……ここまできたら、探し出して、行くしかないね」


「行かない選択肢はないだろ」

 オロチは、少しだけ真面目な声で言った。


「線を引き直すって決めたのは、お前だ。

 あいつの『ありがとう』と『恨み』のあいだに、どんな座を作るか――それは窓次第だ」


「うわ、急に重いこと言った」


「重くねえと困るんだよ、これは」


 風が、雷電池の上を渡っていく。

 さっきまで聞こえなかったセミの声が、いつの間にか戻っていた。


「……でも」

 私は、禊槍の柄を握り直した。

 さっき引いた線の感触が、まだ手のひらに残っている。


「さっきみたいに、ここまでって決められるなら。

 サヤにだって、なにか、別の選択肢を――」


 自分でも、何を言いたいのかうまく言葉にならない。

 でも、オロチはそれ以上ツッコまなかった。


「その辺は、向こう行ってから詰めりゃいい。まずは足元固めろ、JK巫女。

 邪鎮を常に手足のように振り回せるように鍛えとけよ」


「……そうだね」

 

 千景が、スマホを取り出して画面を見ていた。

「ねえ、夕凪」


「なに?」


「天気予報、更新されてる」

 千景が、眉をひそめながら画面を見せてくる。


≪関東一帯、明後日から明々後日にかけて、大雨の可能性≫


「線状降水帯の発生に注意、だってさ」


「……タイミング良すぎ」

 苦笑いしながらも、背筋がぞわっとする。


「急がないとね」

 禊槍の柄を、もう一度ぎゅっと握った。


 光徳神社までの帰り道。

 

 底になった、私に似ている少女。


 ここからが、「わたし物語・サヤ編」の後半戦だ。

 物語の主人公なら、絶対に負けないはず。

 

 そう思いながら私達は雷電池を後にした。



このお話が面白い、続きが気になると思ってもらえましたら、☆やブクマを頂けますと、作者の創作の励みとなります。


ぜひよろしくお願い致します。

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