表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鶴ヶ島崇神譚 ―祓い士 夕凪の覚醒―  作者: のら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/46

第14話 三本の猛威「龍尾」襲来! 夕凪と千景、二人の絆が光を呼ぶ

 私は大幣を両手で構え直し、龍神に向いた。


「龍神様!! 三ツ木夕凪、祓い士として、受けて立ちます!」

 こんな言葉が自然と出てきたのには、自分でも驚いた。


『いい覚悟だ、光徳の娘』


 龍神がそう告げた直後、雷電池の水面、龍神の周囲が激しく揺れ始める。

 次第に空気の温度が下がり始めているのが分かる。

 今まで体験したことのない冷たさが背筋をつたう。

 

『ならば見せよう。我が試し、最後の一手を』

 

 龍神の長い胴がゆるりと持ち上がる。

 動きは静かなのに、池全体が呼応して震えている。

 波紋が渦を巻き、中心へ吸い寄せられて、まるで湖底へと落ちているみたいだった。

 

 次の瞬間、音が消え、ひどい耳鳴りがした。


「くる……!!」


 大幣を握り直した途端、池の中央から三本の水柱が立ち上がった。

 最初はただの噴き上げかと思った。

 けれど、次の瞬間には、それが龍神の息と交じり、水柱の内部で水が絡み合い、ねじれ、螺旋になり


――水が、無数の棘を持ったようだった。


『水禍・龍尾りゅうび


 龍神が名を告げた。

 水柱は生き物のように蠢いていた。


 一目見ただけで分かる。あれは触れたらヤバいやつだ。


「夕凪、うちらも本気でやってやろうじゃん、つるゴンになんか負けない!」


 後ろにいた千景が私の横に並んだ。

 横目で見た彼女の両手にはなぜか神楽鈴がふたつ。


「……こんな時ですが、ちょっと聞いていい?」


「こんな時に何っ!? 緊張感持って!夕凪!!」


「あ、ごめん。その……なんで鈴、二つ持ってんの?」


「念のため、もう一個、こっそり夕凪んちから失敬してきた!」


「……あ。うん、分かった。準備いいね」


「でしょ!!やれば出来る千景、YDCですからっ!!」



「おしゃべりはそこまでだ――来るぞ!」

 オロチの言葉聞こえた瞬間、空気が震えたのが分かった。


 龍尾の一つが打ち下ろされ、地を薙ぎ、地面を吹き飛ばしながら向かってきた。


「位置そのまま、引きつけて上へ薙げ!」


 オロチの声の通りに、ギリギリまで寄せて大幣を下から上へと払い上げる。

 頬に冷たさが走る。タイミングがすこし遅れ、制服を掠った。

 その部分がまるでナイフで斬られた様に裂けた。


 大技のくせに、めちゃくちゃ速い。てか、本気で殺しに来てない!?

 チュートリアルどこ行った。

 

そんな声すら出せないほど、緊張感に包まれていた。


『ここから本気でいく』


 龍神の声が響くと同時に、三本の龍尾がまたゆらゆらと揺れ始める。

 

 避けるだけでは、いずれやられる。

 しかも、広範囲攻撃を宣言されてる。

 対象は…私、千景、オロチ。どこにでも対応できる俯瞰視点を持て、私!


 そう考えた瞬間、二本の龍尾が動いた。


 来た!二本の龍尾の同時攻撃!オロチは無い。対象は私と千景だ。


 そう思ってた矢先に千景が声を発した。


「夕凪、行くよ!」

 千景が三度、鈴を振った。


カラン、カラン、カラン――ッ。


 その瞬間、水尾の動きが一瞬だけ鈍った。


 三度!さっき見た遅延効果。


 夕凪のために作られた、一拍の猶予。


「左に半身ずらして、しゃがめ! 右の龍尾の胴体に大幣ぶち込んでから、柄を左の胴体にぶち込め! その間、メガネっ娘はその場にしゃがんでステイだ、絶対動くな!」

オロチの言葉に背を押されるように、私は身体を滑り込ませる。


水尾がかすめて通り過ぎた瞬間、背筋に強烈な寒気を感じる。


「今だ!やれ!」


「千景!!さっき頼んだ、鈴フルパワーお願い!!」


「よし、きたーーっ!!」


チリリリリリリリリリリリリーーーーッ!!!


 大幣が光を放った。

 さっきまでの重たさが消えた。これなら手足の様に動かせる。


「弾け飛べぇーーー!!!」


 オロチの指示通りに右の龍尾の胴体に大幣を刺す。

 内部が爆発したように膨れ上がり、水しぶきが弾け飛んだ。


「次はこっちーー!!」

 身を捩じって、大幣の柄を左の龍尾に突き刺す。


「メガネっ娘、一回鳴らせ!!」

 オロチの叫び声と共に、千景が一度だけ強く振った。


チリンッ――


 一瞬の間の後、龍尾の中で無数の爆発が起きたように、あちこちが膨れ上がる。


その刹那、すさまじい爆発音と共に二本目の龍尾も爆散し、七色の光を辺りに舞い散らせた。


『ならば、最後の一波だ』


 龍神の声が落ちた途端、最後の一本の龍尾が池の水面深くに沈んだ。

 水が吸い込まれ、厚い圧力となって一点に集まっていく。


「夕凪、次は広範囲で来るでしょ! こっちの流れ、先につくるよ!」


 千景が神楽鈴を胸の前で二本交差するように握り、静かに息を整える。

 二つの神楽鈴を同時にそっと鳴らした一音。


チリ――ン。


 ふたつの鈴の音が、共鳴し、夕凪の体の震えをすっと取り除いた。

 足元が安定し、視界がまっすぐになる。

 まるで線が一本、身体の中心に引かれたみたいだった。


──やれる。


 確信はないけど、自信があった。


 池の中心で、圧縮された水がまた立ち登ったと思ったら開かれた分厚いカーテンの様に横に拡がる。

 そして動きこそ、遅いものの、勢いそのまま、壁のように押し寄せてくる。


『水禍・龍尾変化。――さざ波』


――どこが、さざ波だよ。

 正直、そう思った。


 私は深く息を吸い、大幣を構える。

「千景……後ろ、お願い!」


「もちろん!」

 千景がすぐ背後に立ち、鈴を握る音がした。


チリ――ン。


 その響きが、まるで背中を支える支柱になった。


 私は足元を見つめ――意識を広げた。

 自分の足。

 そのすぐ後ろにいる千景の足。

 雷電社。

 そして、この雷電池公園全体。

 全部まとめて、一つの流れにする。

 水の壁が迫る。

 息が詰まりそうな重さ。

 でも、怖くない。背中に確かな気配がある。


「ここから――!」

 大幣を握る手に力を込め、地を薙ぐように振る。


「向こう側まで――!!!!」

 

 見えない線が、今度ははっきりと光を帯びた。

 ぐるりと雷電池を囲むように一つの輪を描いている。


 池から押し寄せてきた水の壁が私の描いた線を押し込んでくる。


――圧が凄い!押し込まれる!!


 そう思った時、千景が私の腰に神楽鈴を握ったまま、両手で抱きついてきた。


「夕凪ぁ!!夕凪は一人じゃないよ!!わ、わ、私もいるっ!!」

 抱きついたからか、地を揺るがす振動のせいか、両方の鈴が小刻みに音を放ち、共鳴した。


リリリリリリリリリリリリリリーン――。


――あれ?ちょっと圧が軽くなった?

 何が起きたか分からないまま、胸の前で両手で構え、圧に耐えている大幣にもう一度、力を込めた。


「これで、終わりにしますっ――!!!!」


 もう一度、大幣を思いっきり振るい、頭の中で雷電池全体を囲むように線を引いた。


 引かれた線に光が強く灯る。

 そして、それが光の壁となり、龍神が放った、さざ波と交じり合って――


 大轟音と共に弾け飛んだ。


 しぶきになって空に舞い上がり、雨が降り、やがて静かな霧に変わる。


 雷電池の水面が、元の静けさを取り戻していく。


 肩で息をしながら、私は大幣に体重を預けた。


「は……はぁ……」


「夕凪!」


 背中の千景がぎゅっと抱きしめてきた。


「だ、大丈夫?」


「……なんとか。さっきはありがと、千景」


 膝は笑っているし、腕もパンパンだ。

 でも、不思議と怖くはなかった。

 足元には、ちゃんと自分の引いた線がある。

 その向こう側に、静かな水面。

 頭上から、低い声が降ってきた。


『――認めよう』

 龍神が、長い首を少し下げる。


『光徳の娘。三ツ木 夕凪』


「……あ」


 思わず顔を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ