表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鶴ヶ島崇神譚 ―祓い士 夕凪の覚醒―  作者: のら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/46

第11話 本家への挨拶回り……のはずが、いきなり「龍道」サバイバル?


「んじゃ行くか。ご本家ご挨拶回り&装備受け取りツアー」


 オロチがちゃぶ台に手をついて立ち上がる。

「よっこらせ」の掛け声時点で、オロチが一番やる気出てなさそうだった。


「そのツアー名のセンスどうにかならないの?」

 時々、本当にコイツ、神様なのかと疑う時がある。


「ツアー名に文句言う前に、まず準備しろ。……ほら、あれ」

 オロチがあごで指した先には、神事で使われる修祓、祓い清めるための神具があった。


「JK巫女、お前はあれ持ってけ」


「大幣?」


「そう。後で必要になる。あと、あのメガネっ娘には――」


「おお!私にも!!」

 千景がキラキラの目で、オロチを見上げる


「新しい神楽鈴があったろ、社務所の引き出しの、奥のほうな」


「神楽鈴って、あの、舞のときに使うやつ?」

 私もオロチを見上げた。


「他に何があるんだよ。あれは本来、邪気を払う為の道具だが、祓い士的にはまた違う使い方ができる。鳴らし方さえ分かってれば、まあ、多少は役に立つ」


「多少って言った、わたしは『多少武器』持ちかよ」


 千景はジト目でオロチをみる。


「でも、大して使えねぇと思ったヤツが、後々、凄ぇと分かるパターンは、あるあるだろ?」


 オロチがニヤッと笑う。


「おおお、それは確かにそう! 神楽鈴、最高かよ」


 千景の目が輝いていた

 私は小さく息を吐いて、社務所の棚を漁った。

 

「で、これが私の武器?……っていうか、一メートル近いし、重たいし」


 鳥居の下。石段の前で、私は大幣を肩に担ぎながら千景に見せた。


「いやいや、その『重いの棒』が後で尊いことになるフラグでしょ絶対。分かる」


 千景はそう言いながらも、両手で神楽鈴を確かめながら目を輝かせている。

 三段の輪にたくさんの金色の丸い鈴、柄の先に五色の緒がついた、ごく普通の神楽鈴だ。

 

 ……普通のはず、なんだけど、千景の手の中だと、なにかヤバいものにしか見えない。


「それ、落とさないでよ。キズつけたらお父さんに怒られる」


「分かってるって。ちゃんとケースに入れて持ち歩く系のオタクだよ、私は」


「それは自慢なの?」


 二人でワチャワチャやっていると、オロチが私たちの間から、ひょいっと顔を出した。


「んじゃ、行くか。雷電池」


「よっしゃ来た、オカ研遠足!」


「遠足じゃないって、何回言わせる気?」


 私が呆れていると、千景が自転車置き場のほうを指さした。


「てかさ、雷電池って、わりと距離あるよね?自転車で行っちゃえば早くない?」


「たしかに……。チャリなら10分くらいで着きそう」

 

 その提案に、オロチが即座に「却下」と言った。


「チャリ禁止」


「なんで」


「光徳から雷電池までの間には、“龍道”が通ってる。

そこをちゃんと辿らねえと、本家のところには着かねえんだよ」


「龍道……」


 聞いたことのない単語だったけれど、字面だけでなんとなく察する。


「龍へと続く道ってこと?」


「そう。地下水の流れとか、地脈とか、人の祈りとかが重なって出来た筋だ。

 本家とここを繋ぐ道とか、そういうのが雷電池を中心に鶴ヶ島じゅうに無数の線がある」


 オロチは両手を広げてみせた。


「チャリで県道ビューンって行ったら、ただの『ウキウキ遠足コース』だ。

龍道を踏まずに行ったら、本家的には『来てない』ことになる」


「え、物理的には池の前に着いてるのに?」


「神様サイドの住所に届いてねえの。――だから歩き。

光徳から雷電池をつなぐ龍道のチェックポイントをちゃんと踏んでいくぞ」


「チェックポイント?」


「行きゃ分かる。ほら、出発」


 有無を言わせない口調に押されて、私は大幣を持ち直した。


「……歩きで脚折までって、けっこうな距離だよね?」


 インドア女子、千景の顔から笑顔が消える。


「オカ研HPがゼロになる前には到着出来ると思うぜ。

 ヤバくなったらコンビニで甘いもんでも食って、ボス戦に備えておけ」


「コンビニが最後のセーブポイントみたいな言い方すんな」


 そんな調子で、私たちは鳥居をくぐり、坂道を下りはじめた。

 

 ◇

 

 最初は、いつもの道だった。

 県道。信号。高速道路の脇。

 土曜の午後で、車の数は多い。

 

 オロチはときどき立ち止まっては、別の細い路地へと私たちを誘導した。


「え、そっち行くの? そっち、遠回りじゃない?」


「問題ない、俺のあとについてこい」

 

 言われるままについていく。住宅地の隙間をぬって出た裏には畑があった。

 

「ここをちょっと通らせてもらう。」


 オロチはこちらを振り返る。


「ちょっと、人様の家の裏通るとか、不審者すぎない!?」


 その瞬間、風の音が少しだけ変わった気がした。

 耳の奥で、水が流れるような、かすかな音。

 千景もそれを感じたのか、神楽鈴をぎゅっと握り直した。


「……なんか、空気変わった?」


「気のせいじゃねえよ。龍道のチェックポイント通過だ」


 そこから先、オロチの指示はさらに細かくなった。

 大きな通りを一本避けて、一本裏の路地へ。

 畑と倉庫の間を抜けて、小さな祠の前を通る。

 そして、三つ目の角を曲がったあたりで――。


「……あれ?」


 ふいに、耳が静かになった。

 さっきまであったはずの車の音が、遠くにぼやける。

 夏のセミの声も、いっせいにフェードアウトした。

 代わりに聞こえるのは、風鈴みたいな高い音。

 目を凝らすと、民家の軒先に吊るされた風鈴が、風もないのにちりん、と揺れた。


「ねえ、オロチ。これ――」


「龍道ゾーン・ファイナル突入だ。ここから先は、人間の時間とちょっとズレる。

 迷子になりたくなきゃ、ちゃんとついて来いよ。迷子になったら二度と戻れねぇぞ」


「こえーこと、さらっと言うな」


 私は大幣を握り直した。

 千景も、半分怖がりながら、半分テンション上がっている顔をしている。


「やっぱさ、こういうの現実にあるんだね……。

 オカ研的には満点なんだけど、命はちゃんと持って帰りたい」


「大丈夫だ。今日はまだチュートリアルだからな」


 オロチは軽い口調でそう言って、先を歩いていく。

 その背中を追いながら、千景がぽつりと言った。


「ねえ、夕凪。一個だけ、どうしても気になってることがあるんだけど」


「なに」


「本家の龍神様がさあ……」


 千景は、真剣な顔で私を見る。


「『つるゴン』そっくりだったら、笑いをこらえる自信がない」


「そこかよ」

 思わず吹き出しそうになった。


――つるゴン

 鶴ヶ島市のマスコットキャラクターで、鶴と雨乞いの龍をかけ合わせた、ほぼドラゴン。

 鶴要素はほぼ無い。

 ゆるキャラによくある3頭身くらいのボテッとした体形の愛嬌のあるキャラだ。


「いやだってさ、要するに、リアルつるゴン様でしょ?」


「本家様に失礼なこと言わないで……」


「どうする? つるごん体型の龍神に『よう来たな、光徳の娘よ』とか言われたら」


「吹くに決まってるでしょ、そんなの」


 くだらない会話をしているうちに、胸の中の緊張が少しだけほぐれた。

 けれど、足元の感覚だけはどんどん変わっていく。

 

 アスファルトの硬さの下に、もっと古いなにかがある。


 田んぼの畦道だったころの柔らかさ。


 人が列を作って歩いていた、細い土の道。


 そういうものが、薄い皮膚一枚越しに伝わってくる。

 やがて、視界の先に、木々の切れ目が見えた。


「あ……」


 千景が小さく息を呑む。


 脚折雨乞で有名な雷電池が目の前に現れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ