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鶴ヶ島崇神譚 ―祓い士 夕凪の覚醒―  作者: のら


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第10話 最強フラグ!? 『邪鎮の禊槍』


 もう既に命を落としかけた。

 でも、祓い士になれば、命を掛けることになる。

 この非現実な現実にめまいがしそうだった。


「じゃあ、私は――」

「光徳神社の窓口候補、祓い士見習いJK巫女ってとこだな」

 オロチが、当然のように言った。


「この森の奥にも、この街の地下にも、見えない線がうじゃうじゃ走ってる。

 水の道とか、昔の祈りの跡とか、全部な。

 普通の人間には見えないし、感じない。だが、お前には感じられる。

――昨日の夢が、その証拠だ」


「……勝手に証拠にしないでよ」


「嫌ならロックでも聞きながら寝てろ。

――でも、誰かがその線を見つけて、引き直さなきゃ、サヤみたいなのが増える一方だ」


サヤ。


 昨日、窪地で聞こえた声。

 夢の中で出会った、“私によく似た誰か”。

 胸の奥がぎゅっとなった。


「え……? じゃあ、サヤちゃんは、もう祟り神なの?」


 千景が問いかけると、オロチは少しだけ考えるような顔をした。


「まだ祟りかけだ。完全には傾ききってねえ。

つまり『思い出してくれて、ありがとう』と『でも、許せん』の間で揺れてる。

『ここにいるよ、忘れないで』って主張と、JK巫女を底に引きずり込みたい気持ちがな」


 言葉が何も出てこなかった。

 というより、出かかって、消えてを繰り返していた。


「このまま放っておくと、その揺れが一気に洪水になる。

 おそらく、今度は干ばつじゃなくて、大雨って形でな」


 気象予報の線状降水帯という言葉が、頭のどこかをかすめた。

 空気の底のほうで、湿気だけがじわじわ溜まっていく気がする。


「だからこそ、そうなる前に、窓口が要る」


 オロチは、ちゃぶ台に肘をついてこちらを見た。


「光徳神社はでかい。

 合祀で神様ぎゅうぎゅう詰め。雨乞い龍蛇の本家筋とも縁がある。

 その真ん中で線引きできる人間が必要だ。」


「やっぱり、そういう方向に話が行くんだ……」


 予想はしていたけれど、改めて言われると、胃がキュッとなる。


「――てかさ」

 横から千景が、遠慮なく口を挟んできた。


「祓い士って、“線を引き直す”役目なんでしょ?

 線引くには、さすがに武器とか欲しくない?」


「いきなり物理的な話に行ったね、千景」

「だが、勘はいいな、メガネっ娘」


「いやいや、照れますな。」

 そういうと、千景は続けた。


「だってさ、夕凪、今のところ鈴鳴らすか、口で言うしか戦法ないじゃん。

昨日みたいに足掴まれたら、毎回『ノリ de 祝詞』ってわけにもいかないでしょ」


 それは、ものすごく正論だった。


「なんか『代々受け継いできた秘伝の御神具』とか、ないの?」

 

 千景の目がちょっとキラついてる。


「……知らない。少なくとも、お父さんからは聞いたことない」


「だろうな」

 

 オロチが肩をすくめた。


「光徳の家系は、昔から『座持ち』は得意だが、『武器持ち』じゃねえ。

だから、こっちで用意するしかない」


「用意?」


「本家のとこから、かっぱらって――、いや、借りてくる」

オロチは、いたずらっぽく口元を吊り上げた。


「雷電池。あそこに眠ってる神具がひとつある」


「神具……?」


「邪を鎮める『禊槍(みそぎやり)』。『邪鎮の禊槍(やしずのけいそう)』ってやつだ。

線を示して、『ここから向こうはお前の領分、こっちには出てくるな』って教えてやるための槍」


 オロチはちゃぶ台に指で線を引いた。


「レベル1のJK巫女にはそこまで。

ただ本来の禊槍の武具としての力は祟り神を殺すことだって出来るほど強力だけどな。

――ま、それはおいおいだ」


 千景の目が、星でも入ったみたいに輝いた。

「ちょ、なにそれ最高じゃん。物理武器+オカルト設定、おいしいとこ取りじゃない?」


「設定いうな」

 私は頭を抱えた。


 でも、正直なところ、心のどこかでちょっとだけ安堵していた。

 言葉だけじゃない、『具体的に掴めるもの』があるほうが、まだ怖さがマシになる。


「で、その槍を借りるには?」


「そこの龍に会って、貸してって言ってみる。で、十中八九、実技試験受けさせられるだろうけどな」


 オロチはあくびをしながら、湯飲みの中身を一気にあおった。


「まあ、いわゆるテスト兼ねた武器使用のチュートリアルだな」


「軽く言わないで」


「チュートリアルだから軽いんだよ。本番はそのあとだ」


 そのあと、という言葉の先に、あの光景が思い浮かぶ。


 底になった少女。

 名前は……たぶん、「サヤ」

 考えるだけで喉が渇くような感覚に陥る。


「……雷電池って、脚折の?」


 千景が、地図アプリを開きながら言った。


「そう、俺んとこの本家様だよ。」


「脚折雨乞いの雷電池……」


 江戸時代からの雨乞いで有名な池。

 今は『四年に一度のお祭り』で有名な池くらいにしか知られていないけど、鶴ヶ島に住んでれば、必ず耳にする場所だ。



「今日か明日、行くぞ」


 オロチが、当然のように言った。


「JK巫女。メガネっ娘。大幣一本持って、雷電池まで遠足だ。

 バナナがオヤツかどうかは自分で決めろ」


「遠足って言い方! それとバナナはオヤツとは別枠!」


「いやぁ、現場研修付きオカ研公式行事って感じで胸熱ですなぁ」


「だから!勝手に部活動にしないで」


 父が置いていった新聞が風でめくれた。

 週刊天気予報の欄には、まだ「曇り一時雨」くらいの文字しか並んでいない。

 でも、予報にはまだ出ないだけで、きっともう、雲と水と雷がゆっくり集まり始めているに違いない。


 私は、自分の手のひらを見つめた。

 この手で槍を持って、線を引く。


 底になった子と、『崇められる神』と『祟る神』の線をちゃんと示せるだろうか。


「お?……考えとく、ってのは、今回はナシか?」


 オロチが、からかうように言った。

 私は、深く息を吸ってから、首を横に振った。


「うん、考えとくはナシ!今日このあと行こう。気持ちが揺らぐ前に」


 千景が、ふふん、と偉そうに笑う。

「JK巫女は、やれば出来る子なんですよ」


「うるさいな、もう」


 そう言いながらも、胸のざわざわは、さっきより少しだけ形を持ち始めていた。


 怖さと、不安と、ほんの少しの――期待。


 雷電池の水面に、どんな龍が待っているのか。


 そして、『邪鎮の禊槍』が手に収まったとき、自分がどんなふうに変わるのか。


 まだ全部は分からないけれど、とりあえず、次やるべき事は決まった。


 光徳神社の娘として。

 祓い士見習いとして。

 鶴ヶ島の「崇神」と「祟神」の間に立つ、窓口見習いとして。



このお話が面白い、続きが気になると思ってもらえましたら、☆やブクマを頂けますと、作者の創作の励みとなります。


ぜひよろしくお願い致します。

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