表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

赤柱石(レッドベリル)2



 






 『今』は


 グランセザリア神皇国が大陸の覇権を握る世界。





 唯一神アリシアンが『天を作り地を作り、そして人を作った』


 そしてその『人』中には『人外』は含まれておらず彼らは人に従属するものである。


 『旧アリシアン派』と呼ばれる考え方が神皇国の主教である中で、皇国歴1505年、人外と人との間で、ある一つの協定が結ばれた。

 協定宣言の場に立ったのは


 グランセザリア神皇国第二皇子『リヒャルト=フォン=アーディナル=グランセザリア』

 レグラリア国将軍家嫡男『セリアン=アストラリア=コウ=オブシディアン』

 そして、人外種魔族皇『ファウスト=ブラッドバーレン』


 たった三者のみではあるが、圧倒的な力と影響力を持つ三人の宣言は、世界を大きく変える様にも見えた。


 しかし・・・


 皇国歴1508年

 皇国グランセザリア内での魔族奴隷の一斉蜂起。


 いかにリヒャルト第二皇子が尽力し、条例を制定し罰則を強化しても、その裏では魔族奴隷への対応が変わらない。

 この国をとりまく対人外――とりわけ、魔族への嫌悪感や排魔的感情は人々の中に根強く残っている。

 それでもいつか変わると信じて、セリアンやファウストの協力を得ながら、リヒャルトは少しずつグランセザリアを変えようと努力を重ねた矢先への、一斉蜂起。


 本来、人単独では魔力を持つ魔族たちに勝てる要素はない。それでも圧倒的な数で勝る人間は一体多数で魔族を取り押さえる。

 魔族たちも、魔力行使ができるとはいえ、その力には限りがあり、また、その威力や能力も実は個々によってだいぶ変わる。概ね魔力の量によって変化する、とは言われているが、ファウストの様に明らかに天変地異にも近い力を誇るものから、姿を消すもの、動物の声が聞こえるもの、ただ少量の水を出すものなどさまざまであった。

 ゆえに、こそ。

 弱い魔族であれば、それは容易に確保に至れる。

 捕らえられた彼らは、その場でまず魔力を封じる首環を装着される。そうしてしまえば、魔力行使は以降できなくなる。そうして捕まえた彼らを、牛馬同様奴隷という身分に堕としてしまう。

 

 そうして集まったグランセザリアで酷使されていた魔族奴隷三千人。彼らは秘密裏に連絡を取り合いながら少しずつ少しずつ準備をしていた。リヒャルトやファウストの宣言は、彼等を飼育する者達によって、情報が意図的に伏せられ、彼らの権利を主張する者は誰もいなかった。


 そうして、起こった一斉蜂起に、グランセザリアは容赦なく軍隊を送った。

 武器とは言え、精々農具と、少しばかりの剣や銃で応戦した程度では、徴兵制とはいえ、軍隊とは圧倒的な武力差がある。加えて、徴兵制の兵士では、軍の規律は全く十分ではなかった。


 男達は容赦なく殺され、女子供は嬲られるようにして晒されていく。


 そんな世界を突きつけられて、リヒャルトは崩れ落ち、泣いた。

 眼前で繰り広げられる地獄絵図に、心が折れてしまった。

 やつれ、身を細くしていく友人を傍で慰め、励ましながら


 セリアン=アストラリア=コウ=オブシディアン──セレンの、その眼だけは、輝きを失ってはいなかった。













兄様にいさま・・・ッ!」 


 庭の奥から、こちらを見つけるや否や、駆けてくる小さな体を、セレンは両手を広げて抱き締めた。

「お帰りなさい、兄様!」

「セティア、ただいま」  

 愛称を呼んで、その髪を無でれば、愛らしいの笑みを浮かべて頬を擦り寄せる。

 今年7つになる、末の妹セレスティ二ア。 

 刀に生きる一族とも言われた『黒曜石』(オブシディアン)は主に男系の一族だ。

 その中で久し振りに産まれた女児。

 『東方種』の純血である黒髪黒目に白い透けるような肌。文字通り『黒曜石』の様に輝く可愛らしい妹を、セレンは何よりも大切にしていた。

「今日は何をして遊んだんだ?」

「午前中は、父様に刀の基礎を!」

「そうか。」

「さっきまでは、魔人の子達と鬼ごっこ!凄いのよ!風の魔力行使ができる子がいて、全然追いつけなかったの!」

「・・・そう、か」

「素晴らしい力よ!とても、素敵!あの子達ともっと遊びたかった!」

 少し興奮気味に、異種族の、魔人の子供の力を賞賛する。周囲の大人が誰もできないことを、この妹はにべもなく笑顔でやってみせる。

 それを酷く誇らしいと思うと共に、この世界の凄惨さを実感してしまう。

 世界は差別と偏見に満ちている。素直で真っ直ぐな心を持つものから、悲しみと絶望に堕ちる様に出来ている。

 故に、セレンは急いでいた。

 この素直で真っ直ぐなままに成長していく妹が、そのままに生き、そのままに生活する為に。

 

世界の方を、整えなければならないと。


「セレン様。」

「アルベルトか。」

 背後から従者のアルベルトが声をかけた。別室に、待たせている相手からの呼び出しなのだろう。正直会いたくはない、が、仕方がない。

 すぐ行く旨を伝えれば、こちらの親中を察してか、アルベルトが

「私が二十分程お相手を致しますゆえ。」

「すまない。」

「いえ。」

 短く感謝を告げれば、アルベルトが、スッと背筋を伸ばす。有能な彼の事だ、期待には応えてくれるだろう、と。セレンはセレスティニアを抱き、噴水の側に腰掛けた。

 妹と語らう時間は、日に日に減少している。

 この時間とて、根を詰めて働き、ようやく得た時間だ。だからこそ、アルベルトもこちらの意を組んでくれたのだろう。

 膝に座らせた妹は、目が合うと、再び輝くばかりの笑顔を向けてくれる。その髪を無でれば、甘えるように、この胸へ頭を寄せてくれる。

 あと数年もすれば、周囲を魅了する程美しく育つのだろう。

 元々オブシディアンの家系は、その東洋種の血筋と相俟って、恵まれた容姿に育つ事が多い。

 その一族の中でも、この妹は、群を抜いている。はじめは、ただ、兄としての欲目だと思ってはいたが、あながちそれが間違っていないと、最近はそれが悪い方向へと気付き始めた。

 力尽くに、権力尽くに、彼女を求める者が増えた。

 元々『オブシディアン』を娶りたいと、妹への縁談話は後を絶たない。父母もその度にまだ早いと突っ撥ねてはいるが、貴族の娘である以上、幼い頃から家同士の縁談が組まれるのは当たり前の事だ。


 だから、こそ。


 父が、母が、頭を悩ませている。

 愛しい娘の幸せは、どこにあるのか、と。


(どこに、じゃない・・・。)


(それは、作るしかないのだから・・・。)



 初めてこの手を握ってから、己の人生は、この妹と、もう一人の弟の為に、と。

 四ツ名の誓いに捧げる程に。


「セティア」

「はい、兄様。」

「セティア・・・。」

「どうしたの?兄様。」


 強く、抱き締めた。


「お前は・・・」

「ん?」

「誰と結ばれるんだろうな・・・。」


 ぽつりと、セレンがその頬を撫でながら呟けば、


「私、決めてるの。」

「ん?」

「父様や兄様よりも強い人と、結婚するって!」

「・・・・・。」


 セレスティニアが、当然とばかりに宣言した内容に、一瞬セレンが目を瞬かせる。


 刀技の一族当主と、その後継者。

 それよりも、強い、相手。


「それ、は・・・」

「そう!それは、絶対!だって、そうじゃなければ、私もきっと、好きになれないもの!」

「・・・・・。」


「く・・・ッ、はは!」

「あら?兄様?」

「あはははは・・・ッ!」

「やだ、兄様、私本気よ!?」

「そうか、そうだな!はは、そうだ!」





 




 そうして、ひとしきり笑った後、愛しい妹を部屋まで送り届け、侍女に引き継いだ後。

 セレンは応接室まで向かう。

 さっきまでの憂鬱な気持ちは一変していた。

 自分達よりも、権力のある相手からの要望への、回答。


 会談の内容は、案の定、セレスティニアへの縁談の話だった。近日中にでも、早期に引き渡せと、あまりに無茶な要望。

 ただ、その手に持つ権力故に、その、無茶も通ると思っている相手。

 それに対して、セレンは真っ向から対峙した。


「条件があります。」

「なんだ?」

「妹自身からの、提示です。」

「ほう、聞こうではないか。」

 すれば、相手は勿論、父母も目を見開いてセレンを見つめる。

 きっと、この話をしたのは自分が初めてだったのだろう。そう思うと、より、誇らしくなる。


「セレスティニアは、嫁ぐ先の条件に、我が『オブシディアン』の当主、および後継者たる私よりも強い相手を望んでおります。」

「な・・・ッ!?」

「しいては、それを彼女の前で証明して頂きたく!」

「なんだと・・・ッ!!?」

「これが、セレスティニアを我が家から出す、絶対条件です。」

「ふざけるな!!!」

 男は激怒した。その様を一瞥して、セレンがゆっくりと、刀を抜く。


「ふざけてなどおりません。」

「子供の言うことを真に受けるのか!?」

「子供ではありません、当事者からの条件です。」

「・・・戯言を!」

「それを戯言と一蹴しては、刀の一族としての誇りに傷が付きましょう。」

「・・・ぐ。」

 言えば、男は、言葉に詰まる。


「さぁ、いかがしましょう!?」

「・・・・・ッ!」

 男が当主であるセレンの父の方を向く。何とかしろ、と、暗に訴えるも。それを


「オブシディアン一族の当主として、その条件を正式に提示いたしましょう。」

「き、貴様!?」

 男が狼狽える。

「その条件さえ、満たせば、奴隷だろが市制の者だろうが、セレスティニアを物にできる、ということだぞ!?」

「我等が負けなければいいだけの話です。」

「そんな、バカな話が・・・!」

「バカな話で結構。」

 セレインの、セレスティニアの父親である、当主が堂々と胸を張る。

 腰に帯びた刀の柄を手にし

「我が娘ながら、その心意気や良し。」

「お、ま・・・」

「我等は刀に生き、刀に散る一族。ならば、それも齢七つとして、選んだ、彼女の生き方なのでしょう。ならば───」


 ─── 我等もそれに沿うのみ。


 抜き放つは『朝風』、沿うは『夕凪』。

 その銀の輝きと、当主の放つ威圧に、誰よりも何よりも権力を持つ男の腰が引ける。

 男は、男は・・・


「か、帰る!この話はなかったことに!」

 従者を連れて、逃げ帰る様に去った男に、セレンは精々見下した目を向ける。他者を貶め、自分以外を見下す様な権力者には、絶対に妹をやるつもりは、なかった。

 そう、どうせなら・・・


(奴隷だろうが、人外だろうが・・・)


(我等を打ち負かしてでも、彼女を幸せにしたいと、意気込む相手に、こそ・・・)



 ただ、この御時世に、人が天下のこの世界に、そんな相手が産まれるのかと、セレンは天を仰ぎ見る。


 その為にも、と。


 セレンは、意を固めた。

 




















── 閑話休題 ──


 

 自宅にて・・・


 程よく酔った先に、ふと、昔を思い出したシオンが、呟く。


「そういえば・・・昔、俺の婚約の、話とか、あったけど・・・」

「ぶほっ!けほっ、ちょ、ナニそれ!」 

 不意に向かいに座っていたクロウが思わずむせる。確かにシオンの元々の地位を考えると、そう言ったこともなきにしもあらずだろう。それでも、クロウとしては、ざわざわと心をざわつかせる。

 珍しく落ち着かないクロウを眺めながら、シオンは小さく笑う。

「セレスティニアだった時の話だよ」

「・・・わ、かって、る、けど。」

「俺が子供の頃に出した条件を真に受けて、兄様も父様も、それが絶対条件って相手に譲らなかったんだって・・・。」

「え?ナニ?その条件って・・・。」

「父様と兄様よりも、強い相手。」

「・・・・・。」 

 不意に、クロウが目をパチパチとさせ、止まる。


「ん?」

「なんだ、よかった。」

 予想とは反して、クロウが安堵するように、一息を吐く。

 今度は、シオンが驚く方だった。

「え?」

「じゃあ、今でも昔でも、オレに嫁ぐ事、変わってないじゃん。」

 ニンマリと笑みを浮かべるクロウに、シオンが少し目尻を染めて、視線を反らす。

「・・・なんだ、その自信。」

「いや、絶対勝つから。勝てるから。」

 意図も簡単に、そうクロウに、シオンが少しムキになる。

「おま・・・!父様は当時人の中で最強だったんだぞ?兄様だって!その、父様から、十本やれば三本は取れるくらいだったし!」

 ぐっと。身を乗り出すようにして顔を突き出す様は、まだ、幼いシオンの強がりだろう。それでも、引けるところと引けないところがある。

 どれだけ相手が強いのだと、シオンが主張しても、今現在、彼女に最も近きものとして


「でも、オレの方が強いから。絶対。」

「・・・その自信はどっからくるんだか。」

「お前からだよ。」

「・・・・・。」


 譲れないものがあるのだ、と。

 クロウが真摯に、告げる。 


「お前絡みだもん。勝ったらくれるって?そりゃ、絶対勝つわ。」

「・・・・・。」

 ぺろりと、唇を舐める。可能なら、そう、可能だったら・・・。


「いいなぁ、お前の前で容赦無くぶっ倒して、攫ってみたかったわー・・・。」

 いっその事、全力で叩きのめして、アンタ等の最愛が選んだ男は、まさしくアンタ等よりも強くて、アンタ等よりも、あの子を愛してやまないのだと示してやりたい。

 できる事なら・・・


「散々叩きのめした目の前で、めっちゃヤバいちゅーかましたい・・・。」

「・・・最、低だな。」

「なんなら、ツッコんでも・・・。」

「死ね!」

「なんでよ!ちゃんと条件満たしてるでしょ?」

「じゃあ、馬鹿野郎だわ!」 

 目くじらを立てながらも、その目尻がやっぱり赤く染め上がるのを見て、クロウは、たまらなくときめく。

 その体を、ぐいっと抱き寄せた。

「本気だよ?」

「・・・・・っ!」

「至極、本気。」

「・・・・・。」

「お前を、愛していることを、示せるなら、なんだって、してやりたい。」

「・・・・・。」

「だって、そういうこと、でしょ?」

「え?」

 一度、その顎を掴む。僅かに上に引き寄せれば、唇に、軽く口付けをする。

「自分達が、絶対に、守り切るってことでしょ?その宣言は。だったら、それを正面から叩き潰すのが、彼等への手向けだよ。」

「・・・・・。」

「オレがやるのは、それだけ。」

「・・・・・。」

 ぺろり、と。

 その唇を、舐める。

「お前等の役目は終わりだと。これから、オレがそれを引き継ぐ、と。」

「引き継ぐって───」

「お前を守り、で、愛し尽くすコト?」

「なんでそんなコト簡単に───!」

「簡単じゃないよ?」

 その目が真摯に煌めく。

 正面から射抜く。

 誰にも否定できないほどに。 

 有無を言わさない答えを示す様に。

「簡単なことじゃない。だから、守るし、だから彼らから奪うんでしょ?誓うんでしょ?」 

「・・・・・っ。」

「もはや相対することは叶わないけど、今オレがお前の最も近い場所にいるなら。それは、オレが彼等からお前を奪ったってことだから。」

 だから

「引き継ぐよ?お前を守り、愛で、愛し尽くすと。」

「───・・・っ。」

「生きている限り離してなんかやらない。むしろ、死ぬくらいじゃ離さない。それくらい、重くて煩わしい愛かもしれない、けど、イイ?」

「・・・・・っ!」

 息を飲む。

 溺れるほどの愛は、幼い頃にもう貰った。きっとソレ以上を望んだらバチが当たる。その、貰った分の愛を誰かに返すために生きるのだ、と。

 シオンはそう思っていた。

 だけど、その愛を引き継ぐのだ、と。ソレ以上を注ぐのだと、こんな酒の席で、相対する彼から、容易に宣言されて。


「まぁ、ダメって言っても、離さないけど。」

「・・・ホント、馬鹿。」

 

 いっそ、この溺れるほどの愛に埋もれて。

 いつか死ねた先に、愛してくれた家族には。一人残されても、故に幸せだったと、告げられる、この親不孝な幸福。



 シオンは、抱かれたその胸で、小さく、笑った。






一人残されて、なお、その人を見つけられる幸せ。


今のこの世界でも、数ある幸せの中に、そうあることが、一つの幸せだとも。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ