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赤柱石(レッドベリル)


皇国歴1519年12月25日。


 それは踏みにじられていたものが、踏みにじり返すと宣言した日。



 その日は、白い雪が降っていた。レグラリアに降り積もる白い雪は、真っ赤に染め上げられた。

 地上300メートルから力任せに落とされた男は、空気に引き裂かれて、地面に降りた時には肉塊と呼ぶことすらためらわれる、わずかな粒の群れでしかなかった。

 ただ、しん……、とした凍て付いた空気にまとわりつく、鉄錆の匂いがむせ返るほどに、現実を突き付けてくる。

 悲鳴と大勢の人間が逃げ惑う声を聴きながら、全てに諦めた目をした人外の男が、その闇の翼を広げて、『人』を嘲笑った。



「君たちが喧嘩を売ったのは単一でこういうことができる種族だ。」


「さあ・・・、これからは一夜一夜を、震えて眠るがいい。」


 乾いた目からは、もう涙も出なかったけれど


「・・・・・。」

「とう、さま・・・。」


 馴染みのはずだった、長い黒髪の美しい娘が、白い雪の上で、赤い雨に降られて。


 がらんどうの黒い眼で、己を見上げてきた時・・・



 軋むほど痛む心だけは、まだ残っていた。


 









 皇国歴1520年1月、人外戦争ジンガイセンソウ勃発。


 人と、人以外との闘い。実質的には、人と魔族との闘い。人にとっての圧倒的な数的有利を、魔力行使による純粋な力で蹂躙していった魔族――魔族皇。知性を持たない魔物による襲撃。それらと直接相対する戦争および、ゲリラ戦を展開する戦い。

 6年と2ヵ月を経た、1526年3月。最終的には、魔族皇の原因不明の失踪、統治者不在による魔族の散開により、人側の勝利としてこの戦争は終結する。

 しかし・・・。


 皇国歴1526年7月、人間戦争ジンカンセンソウ勃発。

 人外族――魔族から知識や魔力を用いた、戦争勝利者同士の、戦利品を巡っての争い。

 この大陸の覇者であり、先の戦争の陣頭指揮を執っていた皇国グランセザリアを中心に、その他の国々の様々な思惑が混ざり合って行われた、世にも醜い戦争。

 魔族から奪った力は、遠く離れた場所から敵国の土地へ火の雨を降らす力を与えた。

 自らは守られた場所で、ただ、地図や情報だけを見て、殺す相手の顔も見ず。繰り広げられるのは権力者同士の一方的な虐殺。

 権力者以外の人々にとっては先の戦争よりも地獄の様な日々が続いた。いつ自らの頭上に降り注ぐかもわからない火の雨に、自暴自棄になった人々であふれ、治安も乱れた。世界の終わりは、すぐそこまできていた。


 そんな最中、突如起こったのは、グランセザリアの崩壊。


 クーデターは成り、瞬く間に皇族は処刑され、皇国は解体された。人間戦争勃発から2年4か月を経過した、1528年11月ころのことだった。

 そして新たに建国されたのが『ルミナスプェラ』。聖女の興した国。

 この国は、全ての国へと宣言する。


『近代戦争技術の永久封印』


 火の雨を降らせる力を、瞬く間に周辺諸国から奪い、それを永久封印した。無論、周辺諸国からは、その一方的な宣言に反発し、彼らを討ち果たそうと試みた。

 しかし、人間戦争により、人を人とも思わぬ所業を繰り返したその国の頂点たちに、人外戦争で前線を指揮し、人々を守り続けていた英雄たちが一概に背をむけ、ルミナスプェラへと付いた。

 これにより、ルミナスプェラ誇る大軍『六大隊』の基礎が結成され、遠隔から火の雨を降らせるような戦争から、再び戦線を張る旧式の戦争が主戦となった中では、ルミナスプェラに勝る国はなかった。自ら周辺諸国を滅亡させるような所業は行わずとも、周辺諸国をけん制し、ルミナスプェラは周囲の国を抑えて瞬く間に周辺国家から一つ抜きん出た権力を得たのだった。


 こうして、この国は産まれた。


 過去の二つの戦争。

 共通の敵に対しては人は協力しあえるのだと先の戦争は教え、人はこれほども醜く残酷になれるのかと突き付けたのが後者の戦争と言われている。クロウ=シキジマ第四大隊長も或る意味同意見だ。

 ただ、先の戦の結末が人の団結力の結果だとは欠片も思ってないし、後者の戦争がなかったとしても、人は欲求と権力があれば罪悪感の上塗りが容易にできる生き物だとも思っている。


(そうじゃなけりゃ、こんな作戦なんか考えねぇし・・・。)

 

 わずか数年の間にできた新興国家。

 そのルミナスプェラの北側の国境の端で、クロウは、双眼鏡片手に隣国の出方を見据える。

 国境付近の小競り合い。自分のところの陣地が1センチでも他人に取られるのが嫌な人同士がにらみを利かせてる。

 正直なところは、そんなものに駆り出されるなんざ、面倒くさいも甚だしいが、これも仕事のうちと割り切って、指示通りに、国境ギリギリでの軍事訓練の実施。


 1533年9月。国境を接する三国間の宗教教義協定を基本とした、協力体制の締結。


 北の『オルガンジェラ』北東には『イ・ラウ』、そして北西から西に長く接する『プリメライラ』。ルミナスプェラに接する三国が締結した対宗教的な約定が『アリシアン信仰における教義協定』とそれに付帯した『軍事同盟』だ。

 

 この世界は唯一神『アリシアン』が『天を作り地を作り、そして人を作った』という、創世神話がある。ゆえに、この世界の神は『アリシアン』以外はなく、宗教と呼べるものも、この『アリシアン教』以外、人が進行するものは、ない。

 しかし、『天を作り地を作り、そして人を作った』という教えの解釈が様々であり、それにより『旧アリシアン派』と『新アリシアン派』に分かれ、それが魔族との関係性を大きく変化させていたのだ。

 旧アリシアン派は『人はアリシアンに作られた。しかし魔族は神に作られたものではない。ゆえに魔族はマガイモノであり、人に従属するものである』という解釈を基本としている。

 対して、新アリシアン派は『人はアリシアンに作られた。』までを認めているだけど、魔族の存在をどうとは見ていない。その解釈は個人によって委ねられているところはあるが、ではなぜ魔族がいるのか、という中では進化の過程において人から魔族が派生したとも考えられ、そうすると結局は魔族を作ったのもアリシアンではないか、という様に、魔族の存在を後天的に進化した存在としてとらえているのが主流だ。

 概ね人はこの2つの考え方に付随するか、もしくは、無神教的な考え方をするか、だ。

 無論、魔族は違う。

 魔族は彼ら自身の事を記録されていないアリシアンの存在自体を認めてはいない。ほとんどが己の信じるもののみを信じている。ただし、上記に対抗するように『魔族主義』という考え方がある。『魔族皇として絶対的な力の持ち主である、ファウストこそ神であり、人も含めてすべての支配者であるべき』という考え方だ。この考え方の持ち主は、得てして一部の魔人に広がっており、それが人外戦争を泥沼化させた原因の一つにもなっている。最も、ファウスト自身にその気はなく、まったくもって当人の預かり知らぬ所で、広まった考え方であるらしいが。

 

 旧アリシアン派が大多数を占める三国で、その考えを国教として認め、それ以外は認めないとする考えを公表する。それによって国が或る意味で国教を定めた事になり、違う宗教、すなわち『新アリシアン派』とは徹底的に対立姿勢を示すことになる。

 一国では軍事力に差がある。それはもう周知の事実だ。だからこそ、軍事協力を加えることで、ルミナスプェラよりも有利に立とうとする考え方だろう。


 だが、そんなことで揺さぶられるほどルミナスプェラの国家元首は、胆力の小さい少女ではなかった。


 見かけによらず肝っ玉の小さい男に眼をつけて、三国協力で攻めてくるのならやってみろとばかりに、その国境付近で軍事訓練を行う。しかも、ルミナスプェラ誇る名将が率いる第一大隊、個人戦力ならば最強の第四大隊を。

 彼らの強さを眼前に突き付けられて、きっとあの男はさぞかし肝を冷やすだろう。すぐさま協定国に助けを求めるだろうが、果たしてお仲間はすぐにも動いてくれるだろうか。

 人間戦争時の争いの遺恨は未だ根深く残っている。宗教のみ、足並みをそろえたところで、どこまで意味があるのかと、リィンは見据えて嘲笑う。


 何よりルミナスプェラが誇る六大隊。

 六人の大隊長達は、元々先の戦争で何かしら名を馳せた者達が多い。

 一個大隊が約千人ほど。彼等は完全な職業軍人として働いている。ただし、第四大隊のみ特殊任務、及び少数精鋭となるため人数も約半分ほどとなっていた。第六大隊は更に特殊となり、ファウスト翁とその副隊長のエルカ=レジー、及び田貫と班田のみが在籍しているのみだ。他の部隊と一線を画すのは、その存在、だろう。

 第六大隊所属するのは、人ではない、『魔族』だ。とりわけ、魔人と分類される、ほぼ人に近い形をもつ者達。人とは違う、『魔力』をもち、人には決して起こし得ない技を振るう者達。数は少なくとも、一騎当千の働きをする。

 最も、第六大隊のメンツは公にはされてはいない。悪魔皇ファウストの存在など、特秘中の特秘である。

 ただし、ルミナスプェラが、原則、魔族の居住を認めているのは公にされている。それはすなわち魔力行使できる者が軍に所属できるということだ。それが何を意味するのかは、他国にとってどういう影響を与えるのかは、言うまでもない。


 総数約4500余名。完全なる職業軍人、魔人達の存在。それが他の国とは決定的に違っていた。

 ルミナスプェラに職業はあれど、貴族などの特権階級は原則存在しない。それが軍人にせよ、聖女にせよ、職業としての扱いとなる。

 人口比率でいうなら、軍人の比率は約2.25%ほど。ルミナスプェラの現人口が約20万。

 他の国よりも兵隊の比率は圧倒的に少ないと言えるが、一人辺りへの装備の配給等ははるかに良い。

 周囲の国は、未だ貴族制、有事の際の徴兵制等が主であり、軍のあり方が根本的に違う。ルミナスプェラの軍が最強と言われる所以でもあるだろう。


「ま、そうなるよねぇ・・・。」


 相手先の警備兵の混乱ぶりは遠くからでも見て取れる。クロウは双眼鏡の先の景色に、ほくそ笑んで、一つ唇をなめた。

 あと20分もすれば外交、もしくは直通ホットラインで、ひげ面が自慢の厳つい男が抗議の電話を寄越すだろう。もっとも・・・

( あのお姫さんは、それを、牙を研いで待っているのだろうけど・・・ )

 なんて、クロウが、あの愉しげに嘲笑う幼子の皮を被った悪魔を思い出していれば、

「小僧。」

 かけられた声に、振り返れば獅子のような厳つい顔と大柄な体を持つ男が大剣クレイモアを背負い立っていた。

 軍の統轄者である、第一主席大隊長、ビクトル=エインレスト=ロウ=バルザドール。

 潰えた国の元王族である男は、今はこの『ルミナスプェラ』にて根を下ろしている。190センチ近い身長の、名前の通り、獅子のような男は、小高い丘の上から国境線を見据えながら目を細めた。

「どんな感じだ?」

「ピーピー喚いてんのが、ココからでもよく見えるね。」

「だろうな。公ではないとはいえ、自国より力がある連中が、国境付近で軍事演習ともなればそうなる。」

「その圧かけが仕事でしょ?」

「まぁ、そうだな。こちらはあくまで軍事訓練をするだけだ。それで相手の上がどう動くか、なんだが・・・。」

「・・・・・。」

「まぁ、頭が馬鹿な国ほど、下の者は難儀するな。」


 そう言って、ビクトルが隣国の王の顔を思い浮かべる。言うなれば、それほど頭の良くないタイプではあったな、と。ただ、故に側近が粒揃いだったと。


「・・・・・。」

(なるほど、それで直通ホットライン、か。)


 短気で短絡的な王の焦燥感を煽り、直接対話の場を繋げ、意のままに・・・。

 彼女の思考と話術を中心とした内政・外政、そして、それを守る大陸最強と名高い軍部の存在が、新興国家といえど周囲の国を容易に牽制し、あわよくば優位に立てる土台を作り出している。

 

 そんな中・・・。

 

 クロウはふと、下から見上げるようにしてビクトルを見た。視線に気付いたビクトルが、そちらに眼を向けると、


「いいよなぁ、オレもビクトルさんみたいな綺麗な嫁さん欲しい。」

「なんだ、急に・・・。」

 唐突に呟かれた台詞に、ビクトルは訝しげに眉根を寄せてクロウを見る。再び双眼鏡で眼前の様子を確認しながら、クロウは、先週たまたま出会ったビクトルの五つ下の東方種混血の奥方の優しい笑みを思い出して、ため息を吐く。

「いや、純粋に羨ましい。」

「アレはオレの宝よ。」

「そうね、ビクトルさんのそういうとこ、カッコいいとは思うし。」

 心底認めて、クロウは頬杖をついた。ただの戯言にしては少々音色が違う様子がして、ビクトルは少し突っつく。

「おらんのか?小僧には。」

「探してはいるんだけどねー」

   ─── ま、こんな『毛色』なんで。


「・・・・・。」

 クロウの場合、その生い立ちから、そもそもマトモに付き合う人間すらが乏しい。それを知っているビクトルは、なんとも言えない表情を浮かべた。

「卑屈になるな、いい男だぞ、お前は。」

「でしょ?ちゃんと大事にするんだけどなぁ。」

 ため息交じりに空を見上げ、クロウを肩を落とす。

「まぁ・・・。オレ、理想も高いから。黒髪の美人さんがいいなぁ。」

「東方種は、なかなか貴重だな。」

「あと、少しでも戦える強い人の方がいいよ。」

「・・・それを女人に求めるか?」

 予想外な理想に、ビクトルは少し苦笑する。

「いや、こんな仕事してるし。オレ目立つし。火の粉飛んでも、自分で払いのけられるくらいだとありがたくない?」

「そこは、自分が守る、くらい、言っておけ。その方がモテるらしいぞ?」

「・・・別に、モテたいわけじゃないし。」

 ポツリと、遠くを見つめる。

「ただ、一人でいいんだよねぇ。この人ってのが、欲しい。」

「・・・一番難しいヤツだな。お前だけじゃなくて皆探しておるわ。」

「だよねぇ・・・。」

 伏し目がちの眼が小さく笑う。そして、いたずらめいた顔で

「でも、ま、強いってことは、体力在るってことでしょ?」

「ん?」

「その方が、一晩中ベッドに縛り付けても大丈夫ってことじゃん。」

「お前・・・。」

 呆れた表情でため息を吐けば、いやいや、大事なことだから、と今度は至極真面目な顔をしながら語る。

「血の問題もあるのかな?オレ、普段の性欲は全然強くないって感じだけど?」

 

「惚れた相手を孕ませたいって欲求、凄い強いんだよね。」

「・・・なんだそれは。」

 余りに露骨な表現に、ビクトルが一瞬言葉を失い、しばらく言葉を選ぶ。が、クロウとしても別段自身の欲求だけではなく、中々無視できない理屈があるらしい。

「魔人って種族は、それこそ長命種じゃない?だからそんなに子供作る必要ないからか性欲って凄く少ないんだって。」

「ほう。」

「その代わり、決めた相手ができると、しばらくはずーっとまぐわってるみたいよ?本気で相手を孕ませる為に。そうやってなんとか血を繋いできた種族なんだって。魔人って。」

「・・・・・そういう事か。」

「クソジジイが言ってたから間違いないんじゃない?だから、オレにもそういう傾向が多少なりともあるんじゃないかってさ。」

 言う通り、クロウは人と魔人との混血児だ。厳密には魔人の血を1/4だけ継いでいる。とは言え、その効果故か、一目で人とは違うと分かる『毛色』だ。


 本来、この大陸に住む人間は


『中央種』茶髪、赤眼。

『西方種』金髪、碧眼

『東方種』黒髪、黒眼


 の、三種に、分かれる。ただし、『中央種』の赤眼はどちらかというと茶や橙に近い。この三種族が交わり茶髪の青眼等の混血や、平和ゆえの技術の発展に伴うお洒落の進化から紫の髪色や青い髪、などが現れている。

 その中でも貴重なのが、純血だ。

 昔の貴族はその血を重んじ、他種が混じるのを禁じたり嫌がったりする風習がある。

 元々王族であったビクトルは、『中央種』の純血だ。最も、最愛の嫁は東方種の混血であり、産まれたと子ども達三人共それぞれ混血の色を呈しているのだが。


 その中で、クロウだけは、元にない色合いをしていた。

 銀髪、緋眼。

 『中央種』の色合いとは明らかに違う。真っ赤な緋色の眼は、特に魔人が持つ本来の眼の色、とされている。普段は魔力でもって全く別の色の瞳をしていた魔人が激昂するなど、感情の高ぶりと共にその緋眼が現れるとも、言われてた。

 そして、白銀の髪。これに関しては、正直ファウスト翁でもわからないらしい。全ての色が抜け落ちたような白。そんな、明らかに人とは違う『毛色』を持って生まれてきたクロウだが、正直彼以外の混血は、未だに公にはされていない。故にか、自分のこととしても、まだまだ未知数の事も多い。


「そ、れはそれで、あまりに生活へと支障が出るように見えるが。」

 ビクトルとしては、そんな事を言われてもなんと答えるべくか。しばらく思案した後に、何気なくたどり着いた答えを、まるで予期していたようにクロウは彼を見あげながらニンマリと笑う。

「なので、今からしっかり、働いておきますわ。将来オレが嫁さん貰ったらムラムラしてしょっちゅう有休とっても文句言われないようにね。その時は弁護よろしく。」

「・・・小僧、それが目的で今からこの話か?」

「あ、バレた?」

「そんなしょうもない計画に加担させるな。」

「いやいやいや!大事でしょ?それ。ビクトルさんならわかってくれるって思ったから話したんだけど!」

「嫁を愛したいという気持ちは分かるが・・・。なら、そこは、ほどほどにしろ。」

「えー?そういうもんなの?」

「・・・・・。」

「ずーっと奥さんのな――」

「昼間っから素面で猥談できるほどの根性はオレにはないぞ。やりたいならフェルナンドにでも言え。」

「絶対ェやだ。あの人の女性観念、オレキライだもん。」

「・・・まあ、アイツは、良くも悪くも『広く浅く』だからな。」

「その考え方が同調できねぇ。酒が入ってるならまだしも、あの人と真面目にはこういう話したくない。ちょっかい出されたらマジで叩っ斬るよ、多分。」

「真面目だったのか。」

「大真面目。まあ、でも、こんな毛色ですから・・・。」



「そもそも、見つかるかどうかもだけど・・・受け入れてくれるかどうか、だよね。」

「・・・・・。」


 何処か諦めたような、笑顔で、クロウが一度目を閉じる。ふざけた様に話すのは、諦念感とそれを否定したい気持ちの混在ゆえに、か、と。ビクトルは労るような眼でクロウを見た。

「さて・・・」 

 クロウがゆっくり目を開ける。今までの感情など、一気に消して。

 ただ、酷く冷めた軍人の眼をして、嗤う。


「我らが女王様には、そろそろ本命からのラブコールが届いてるころかな?」

「そうだろうな。」

 二人の大隊長が各隊への合図の為にゆっくりと、自らの隊の前へと歩き出した。





 無駄に豪奢な一室の中で・・・。

 絢爛な椅子に腰をかけたまま、ルミナスプェラと国境を接した国、『オルガンジェラ』国、国王アレクシス=マレクア=オルガンジェルスは酷く焦っていた。落ち着かないように膝を上下に動かしながら、呼び出し音の向こうの、電話の相手を待つ。

 機械音がして、相手と繋がったと悟るや否や、アレクシスは、その容貌とは程遠い、酷く切羽詰まった声を上げた。

「おい、小娘。貴様どういうつもりだ……!」

『ああ、よかった。アレクシスのおじさま。やっとお電話に出てくださいましたのね。』

 電話の相手は、散々待たせた挙句に、真逆の言葉を彼に聞かせた。思い当たる節に、一瞬息を飲みつつも、アレクシスその言葉を無視して叫ぶ。

「どういうつもりだと聞いている!」

『おじさまがいけないのよ?私からの電話を無視するから。』

「貴様――― 」

『ねえ?わたくしが子供だから見縊っていらっしゃるの?ふふ、お生憎様。わたくしには頼もしいお友達がたぁーくさんいるの、知ってるでしょう?ねえ?おじさま?』


   ――― 舐めるなよ?小僧

 

『だから、わたくしとちゃあんとお話してくださいね?』

「その、ため、だけに……貴様、まさか……。」

『だって、おじさまとお話ができないと、わたくしは寂しいですもの。』

「あの───・・・」

『たとえ、おじさまの『後ろ』でシカとハイエナが手をつないでいたとしても。シカだって、おいしい草が食べたいものね!ハイエナは、他人の横取りが大好きなの!』

「―――っ!」

『ああ、でもね?わたくし、おじさまが一番好きよ?』

  

 あの、幼くも狡猾な国家元首の顔が浮かぶ。ニッコリ笑みを浮かべつつも、きっとその目は微塵も笑ってないだろう。

 新興国家を落す為に秘密裏に色々と手を回していたことが筒抜けだったと知った時、あの豪胆と有名な男はどのように動くだろうか。

 それでも知らぬ存ぜぬを押し通せるほどの肝が据わっているかまでは、わからないが、どちらにせよ、幼女の皮をかぶった覇王は、容易にその肝を食らいつくすだろう。それもさぞかし美味そうに。周囲に見せびらかしながら。

 がっくりと、肩を落としたアレクシスが、既に切れた受話器を戻す気力もないまま、椅子に座って項垂れる。そして、早々にまた別の直通ホットラインを繋ぐ。

 しばらく金切り声と罵声が飛び交い、アレクシス国王の側近がその事態を把握した時は、既に手遅れなほどに

 


 ルミナスプェラ包囲網ともされた、三国の協定は、こうして容易に瓦解した。

 



 

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