第3話 十七度目の真実──神の意図と加護なき騎士
冷たい朝霧が館の中庭を覆い尽くすなか、リュミエールは目を閉じた。彼女の内側で、ずっと答えを求めていた問いが紡がれる。
「十七回目の転生で、なぜ彼が――アルヴィンだけが、加護を持たないのだろう?」
誰にも明かされなかった“神の秘策”の断片が、今まさに揺らぎはじめていた。
「お嬢様、朝の稽古の時間です」
アルヴィンの冷静な声が廊下の向こうから優しく響く。リュミエールは瞳を開け、微かな笑みを浮かべて立ち上がった。
彼が加護を持たぬ理由、その真実に触れる日は近い。
剣術稽古場。朝陽が柔らかな光を差し込む中、アルヴィンは静かに構え、リュミエールを見つめていた。
「お嬢様、私はあなたの力を制御する役目も担っているのです。暴走すれば、世界の均衡が崩れかねません」
リュミエールは小さくうなずいた。
「監視役としてだけでなく…」
「はい、お嬢様の加護を持たぬことは、神の…世界の最終的な調整でもあります。」
アルヴィンの言葉は重い。
「十六回の転生、その度に世界はあなたの力に翻弄されてきました」
彼は剣をゆっくりと振るいながら語る。
「しかし、あなたは単なる“バグ”ではなく“神の挑戦”そのもの。神はあなたの存在をもって、この世界を“試験”しているのです」
リュミエールの心に押し寄せる波紋。
「試験…私が“普通”に生きるための試練…?」
「違います。これは世界の“進化”への一歩。あなたの力が暴走すれば世界が壊れ、制御すれば新たな秩序が芽生える」
「だから、私は――」
「世界の均衡を保つために加護を持たず、あなたの揺れ動く力と向き合い続ける。それが私の役目です」
リュミエールは剣を下し、静かに息をつく。
「…怖い。でも、あなたのおかげで初めて、怖さが希望に変わった」
アルヴィンの澄んだ瞳が彼女を見つめ返す。
「私も、お嬢様と共に進化の道を歩みたい」
彼の言葉は、氷を溶かす陽だまりのように温かかった。
稽古後、広間でふたりは静かに語り合った。
リュミエールはぽつりと言った。
「十七回目の転生は、“普通”に近づくための最後の機会かもしれない。でももし、神の“試練”に負けたら…」
「その時は、私があなたを守ります。お嬢様だけは、誰よりも自由でいてほしい」
アルヴィンの言葉は彼女の心に深く刻まれ、新たな決意を燃え立たせた。