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×月16日

そういえばこの物語もう半分が過ぎましたね。30日で終わるとしたらですが。

【ベラ】


 記憶喪失になってしまったベルルの記憶を取り戻すため、全員で思い出の品を寄せ集めた。


「これはどうですか?」

「これは……ベルルの父親、私の夫「バス」の写真ね。物心着いた後に亡くなったし、記憶に強く残ってるかもしれないわ。」

「じゃあこれはどうだ?」

「これは昔買って全く使わなかったおもちゃよ。直ぐ壊したし、記憶にはないかも。」


 と、そのペースでどんどん品を捌いていった。自分でも驚く程に、ほとんどの品の思い出を覚えていた。

 全ての品を捌き終わった後に、自分が持ってきた品の中にある絵本があることに気がついた。


(そういえばこの絵本は捌いてなかった……)


 その絵本の題名は『あわてんぼう王子』。あわてんぼうで、どんな事でも焦って行ってしまう王子が、最後には焦りが裏目に出てしまい、王女との結婚式に間に合わなくなってしまうのだ。遅れて王子はやってくるが、最後は王女にフラれて終わってしまう。


 ベルルはこの作品が大好きで、よく小さい頃に膝の上に乗せて読み聞かせしてあげていた。何度も読ませてあげていたのに、ベルルは読む度に「遅いよ!」と王子に怒りを顕にしていた。そんな思い出に浸ってる内に、みんな解散してしまい、もう各々部屋に戻っていた。


「あ……私も寝ないと。」


 今から家に帰るのも間に合わないのでこの家で寝ることにした。



 朝起きてから、支度をしてベルルの元へ向かった。もう治療は終わっているので、一応ピルクレアの事もあって入院していた。ベルルの場所に行く前に医師に引き止められた。

 今日はどうやら身体を動かすべきだそうで、身体が訛ってしまっていることもあり、『思い出の場所』に向かった方がいいらしい。


「思い出の場所か……となると……」


 サムさんとライタ、そしてエイカが来るのを待ち、合流してから、全員でアサルク山に向かうことにした。


「登山は出来ないから、アサルク山が綺麗に見える場所まで行こうか。」


 ライタの提案で、景色が綺麗に見える、『アサルク山展望台』に向かうことになった。展望台は近場なので大丈夫だろう。

 ピルクレアの事もあって、激しい運動も控えなければいけないそうで、車椅子での移動になったが、サムさんが楽々運んでくれたので助かった。


「ほら、もうちょっとで着くわよ。ベルル。」

「空気が美味しいですね。」


 ベルルは常によそよそしい敬語だ。そんなことを考えていると、展望台のてっぺんが見えた。


「ここよ。」

「はぁっ……!」


 思わずベルルは息を飲んで言葉を失っていた。生い茂る緑。アサルク山を囲う湖の水面に揺れている夕日。今まで感じ事が無いような絶景。

 そんな時、ベルルは突然倒れそうになって、頭を押さえ始めた。すると、こちらを向いて突然一言言った。


「お母さん?」


 記憶が戻ってきたのか?驚いた表情で、「ええ、そうよ。」と言った。私がお母さんだとは言い忘れていたし、今は言うべきでは無いと思い、言っていなかった。

 そう、確実に記憶は戻ってきているのだ。


第十六話 終

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