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「試練と絆」

夕陽が庭を茜色に染める中、公美の肩の上から見下ろす陽の小さな笑顔に、二人は「これがずっと続けばいいのに」と心から願っていた。しかし、この世界では平穏な日常にも、時折小さな波が立つことがある。


翌日、学校での出来事が三人の関係にさざ波を立てた。


中学三年生のクラスでは、そろそろ進路を決める時期が近づいていた。この世界では、女子が社会の中心を担うため、多くの女子生徒が進学や就職を視野に入れて忙しく動き回る。一方、男子生徒は家庭を守る役割が主とされ、進学よりも「誰と結ばれるか」が重要な話題だった。陽も例外ではなく、彼が公美と千枝の許嫁であることはクラス中で知れ渡っていた。


その日の昼休み、陽が教室で一人で本を読んでいると、数人の女子生徒が近づいてきた。彼女たちは堂々とした体格で、陽の周りを囲むように立った。


「ねえ、陽くん。ほんと、公美ちゃんと千枝ちゃんに可愛がられてるよね。羨ましいなあ」


リーダー格の女子が少し意地悪な口調で言うと、他の子たちがクスクス笑った。


「う、うん…二人にはいつもお世話になってるから…」


陽は少し緊張しながら答えたが、彼女たちの目は好奇心とからかいに満ちていた。


「でもさあ、陽くんって二人に守られてるだけじゃなくて、自分で何かしたいことないの? このまま二人のお人形さんでいいの?」


その言葉に、陽は一瞬言葉を詰まらせた。彼にとって、公美と千枝に守られる生活は当たり前だったが、


心の奥底で「自分で何かをしてみたい」という小さな芽が芽生えていたのも事実だった。


その会話を遠くから見ていた公美と千枝は、すぐに陽のもとに駆け寄った。


「ちょっと、何! ようちゃんに変なこと言わないでよ!」


公美が大きな体で陽を背に庇うように立つと、千枝も負けじと前に出て睨みつけた。


「あたしたちのようくんに何か用? 用がないならあっち行って!」


二人の迫力に圧倒された女子たちは、慌てて「冗談だよ、ごめんね」と退散していった。


「ようちゃん、大丈夫? 何か嫌なこと言われた?」


公美が陽を膝に抱き上げて心配そうに尋ねると、千枝も隣で彼の頭を撫でた。


「うん、大丈夫だよ、くみちゃん、ちえたん。でも…ちょっとだけ考えちゃったことがあってさ…」


陽が珍しく真剣な顔で言うと、二人は目を合わせて少し驚いた。


「何? ようくん、言ってみてよ。あたしたちに何でも話してよ」


千枝が優しく促すと、陽は少し躊躇いながら口を開いた。


「僕、二人に守られてるのは嬉しいんだけど…自分で何かできること、見つけたいなって。将来、二人と一緒に暮らすなら、僕も何か役に立ちたいよ」


その言葉に、公美と千枝は一瞬黙り込んだ。陽がそんなことを考えているとは思ってもみなかったからだ。この世界では、男が「守られる存在」であることが当たり前で、特に陽のような小さな体格の少年には、自立を求める選択肢がほとんど与えられていなかった。


「ようちゃん…そんな風に思ってたんだね」


公美が少ししんみりした声で言うと、千枝が慌ててフォローした。


「でもさ、ようくんが何かしたいなら応援するよ! あたしたち、ようくんのこと大好きだから、何だって一緒に考えるからさ!」


「うん、そうだよ、ようちゃん。私たち三人でなら、どんなことだってできるよね?」


公美も笑顔を取り戻して頷いた。


その日の放課後、三人はいつものように公美の家に集まり、陽の「何かしたいこと」を考えることにした。リビングの大きなソファに座り、陽は再び二人に挟まれながら、アイデアを出し始めた。


「僕、料理が好きだからさ…将来、二人に美味しいご飯作ってあげたいなって思うんだ。学校の家庭科でも褒められたことあるし」


「えーっ、ようちゃんが料理!? それ、めっちゃいいじゃん!」


公美が目を輝かせると、千枝も興奮気味に言った。


「うんうん、ようくんの作ったご飯、絶対美味しいよ! あたし、お菓子作り得意だから、一緒にキッチン立つのも楽しそう!」


「私もお手伝いするよ! ようちゃんが料理してる姿、想像しただけで可愛すぎてヤバい…!」


公美が陽をぎゅっと抱きしめると、彼は照れ笑いを浮かべながら「ありがとう」と呟いた。


その日から、三人の日常に小さな変化が訪れた。週末になると、公美の家のキッチンで陽が料理を練習し、公美と千枝が助手として手伝うようになった。陽の小さな手では大きな包丁を持つのは大変だったが、


公美が後ろから支え、千枝が材料を切って準備してくれた。


初めて作ったオムライスは形がいびつだったが、二人は「美味しい!」と大絶賛し、陽の頬にケチャップをつけて笑い合った。


ある日、陽が作ったクッキーを学校に持って行くと、昼休みにクラスメイトたちに振る舞う機会ができた。先日彼をからかった女子たちも一口食べて、


「陽くん、これめっちゃ美味しいじゃん! やっぱり公美ちゃんと千枝ちゃんの旦那様だね!」と褒めてくれた。陽は少し誇らしげに笑い、公美と千枝も隣で「でしょ?」と得意げに胸を張った。


夕暮れ時、公美が陽を肩車しながら


「うん、ようくんが料理上手になったら、あたしたちもっと幸せになるよ!」


陽は二人の大きな笑顔を見下ろしながら、


「うん、くみちゃん、ちえたん。僕、二人と一緒なら何だって頑張れるよ」と答えた。


試練を乗り越え、三人の絆はさらに深まった。陽が自分だけの「何か」を見つけたことで、公美と千枝も彼をただ守るだけでなく、一緒に成長するパートナーとして見るようになった。




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