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コロッセウム参加

「外に出たらすぐ左の路地に来て。


 ルアナ♥」


「はぁ…」


思わず乾いた笑いが漏れる。

未来でも予知しているのだろうか。

どうして自分の部屋が分かったのか。部屋に入ると、ベッドの上にはルアナが送った紙が一枚置いてあった。


「何かあったのか?」


同じ部屋に割り当てられたニールが先に見なくて幸いだった。


「なんでもないよ。」


いったい誰がルアナにこんな情報を渡しているのだろう。

部屋の割り当てまで関わっていることを考えると、学生たちではないはずだ。

先生たちの中にいる可能性が高いが、これまで先生たちの中で怪しい行動を取る人は見つかっていない。


「ニール、ちょっとトイレに行ってくる。」

「もうすぐ点呼だから早く戻れよ。」

「わかってる。」


&&&


「やあ、エドワード~」

「親しげに呼ぶなよ。不愉快だから。」

「ひどい~!こんなに美しい私が親しみを込めて名前を呼んで、ラブレターまで渡したのに~!」


色気を含んだ声がこれ以上なく不愉快だ。


「くだらない話はやめて、早く頼み事を言え。」

「せっかちなんだから~」


自分が剣を抜くと、ルアナは大きなため息をついた。


「少し話しただけで剣を抜くなんて、そんな乱暴な人は女の子に嫌われるよ。」

「もう俺を好きな女なんて誰もいないから、本題を話せ。」


ルアナが舌打ちしながら首を振り、近づいてくる。


「知ってるでしょ?もうすぐコロッセオが開催されるって。」

「知ってる。だから学校は生徒たちをここまで送ったんだろ。」


ルアナがにっこりと笑う。


「君にコロッセオに出場してほしいの。」

「···」


無言でルアナを見つめた。

自分が何も言わないと、ルアナが首を傾げ、額を押さえながら再び尋ねた。


「今、俺に···コロッセオに出場しろって言ってるのか?」

「正確に言えば、君じゃなくて私たちを攻撃した黒いローブの男が出場するんだけど~」

「結局は俺に出場しろってことだろ。」

「君とその男が同一人物なんだから当然でしょ~」


本当に頭がくらくらする。

多くの頼み事の中で、よりによってこんな頼みをするなんて。


「理由を聞かせてもらおうか?なぜ俺が参加しなきゃいけないのか。」

「この国の王女の血が必要だから?」

「王女の血?」


ルアナがうなずく。


「その血を手に入れるのに一番適した場所がコロッセオなのよ~」

「俺に観戦している王女を襲撃して血を持ってこいってことか?」

「え?そこまでしてくれたら私としてはありがたいけど!」


自分が首を傾げると、ルアナも同じように首を傾げた。


「このコロッセオを開催したのが誰か知らないの?」

「コロッセオを開催したのが王女だっていうのは知ってるけど···王女がコロッセオに参加するのか?」

「そうよ。王女もコロッセオの参加者なの。」

「···」


開催したから観戦が好きな人だと思っていたのに、参加そのものが好きな人だとは。

本当に想像もしていなかった。


「つまり、俺が王女と戦って···王女を傷つけてその血をもらってくればいいってことだな?」

「そう。」

「でも、一つ気になることがある。」

「何?」

「俺が王女に会えなかったら?」


コロッセオはトーナメント形式で進行される。

参加者64名が対人戦でスタートし、半分ずつ減らしていき、決勝で1対1の戦いを繰り広げるのがトーナメントだろう。

もし王女とコロッセオで会えなければ、ルアナの頼みを叶えることはできなくなる。


「あ~それは心配しなくてもいいわ。君が優勝まで行けば、最終的に王女と戦うことになるから。だから絶対に負けちゃダメよ。わかった?」

「俺に優勝まで行けって言ってるのか?」

「もちろん!君が優勝できるって信じてるからこんな頼みをしてるんだもん!」


いくら自分がカオスウェーブを何度も妨害したからといって、今のルアナは自分を過大評価しすぎている。


「コロッセオには各国から腕に覚えのある人たちが参加するんじゃないのか?」

「そうよ~」

「なのに学生の俺に、その腕自慢たちの中で優勝まで突き進めというのは···常識的に考えてあり得ると思うか?」

「アヴァンチェを倒した君なら十分優勝できるって私は信じてるよ!」


自分を見つめながらファイトポーズを取る相手。


「はぁ···」


正直なところ、この頼みは受けたくない。

自分は静かに生きたいのであって、人々の注目を浴びたいわけではない。

もちろん黒いローブに仮面までつけて身を隠しているとはいえ、その姿を外部に晒し続ければ、いつか必ずバレてしまうだろう。


あの組織に正体を知られたくないのでルアナの頼みを聞こうとしているが、コロッセオで正体がバレるような事態が起これば、カオスウェーブだけでなく貴族たちにも知られてしまい、元も子もなくなる。


『だからといって断れば···』


カオスウェーブが自分の家門まで狙うのは火を見るより明らかだ。

結局、できるだけバレないようにするしか方法はない。


「わかったよ。」

「受けてくれると思ってた!やっぱりエドワードね~」


頬にキスまでしようとするルアナを自然に押しのけ、自分は彼女に尋ねた。


「でもさ、今申し込んでも遅いんじゃないか?」

「もう私が登録まで済ませておいたわ。」

「どういうことだ?登録まで済ませておいたって?」


ルアナが袋を一つ渡してくる。


「二日後のコロッセオで、君の名前はマーヴィン・クロフになるのよ。」

「マーヴィン···クロフ?」


ルアナは頷きながら笑顔で手を振る。


「それじゃ、私はこれで失礼するね~。長く話してると情が移っちゃうから!よろしくね!」


そのまま高く跳び上がり、建物の屋根を踏みながら逃げるように去っていく彼女。

私は手渡された包みをじっと見つめ、慎重に開けた。

中には、以前自分が使っていたものとは少し異なる黒いローブと、猫の形をした仮面が入っていた。


「コロシアムか……」


参加しても大丈夫だろうか。

もし自分がいなくなったことがばれたら、アレイラ先生に耳にタコができるほど説教されるに違いない。


「耳栓でも用意しておくか。」


*


夜空に高く花火が打ち上げられる。

巨大な円形闘技場。

その観客席にはバートレイブン市民だけでなく、多くの冒険者たちも座り、歓声を上げていた。


「う~ん、緊張する!」


観客席に座っている生徒たち。

ニールとアリアは椅子に腰掛け、円形闘技場をじっと見つめ、開始の瞬間を待っていた。


「本当にすごい……!」

「だよね。」


初めて目にする闘技場の壮大な景色に、二人は心を奪われていた。

闘技場内にそびえる四本の柱と、試合のために設けられた長方形の空間。

その場所でどのような戦いが繰り広げられるのか、アリアの胸はすでに高鳴っていた。


「伯爵家のお嬢様のくせに、こんな小さなコロシアム一つで子供みたいに浮かれるなんて。」


背後から不愉快な声が聞こえると、アリアは目を吊り上げて振り返った。


「何よ、ゴミクズ?」

「ゴ、ゴミクズだなんて!俺はトレイドだ!名前をちゃんと呼べよ!」

「ゴミクズ。」

「ぐぬぬ……」


トレイドは悔しそうに歯を食いしばって睨みつけたが、やがて不敵な笑みを浮かべて肩をすくめた。


「伯爵家のくせに、男爵や子爵なんかと付き合っているから、言葉遣いまで下品になったんだな。」

「それで、うちの家柄より弱いお前が、何を信じてそんな口をきくの?」


アリアの問いかけに、トレイドは冷や汗をかきながら視線を逸らした。


「はぁ、くだらない。お前みたいなやつと話してると無駄に疲れるだけ。」


楽しい日に口論などしたくないアリアは舌打ちをし、再び視線を前に戻した。

誰もいなかった闘技場の中央に、一人の男性がゆっくりと歩み出てくる。


「皆さん、こんにちは!」


耳をつんざくほどの大歓声が響き渡る。

アリアとニールは耳を塞ぎ、後ろにいた生徒たちも顔をしかめながら周囲を見回した。


「本日から1週間にわたって開催されるコロシアム大会の司会を務めさせていただきます!バートレイブン冒険者ギルド支部長、イアン・プラウドです!」


短い茶髪にいたずらっぽい目つき。

白いタンクトップの上に、腕の半ばまで覆う青い革のベストを着た男が、観客を見渡しながら丁寧にお辞儀をした。


「今年もこんなにたくさんの方々にお越しいただきました!ここに集まったすべての観客の皆さんを楽しませるため、世界各地から強者たちが集結しました!」


再び観衆の歓声が闘技場を埋め尽くした。


「強者たちの紹介は、試合が始まってからご案内します!それでは、初めて来られた方、あるいは1年間の待ち遠しさの末に結局ルールを忘れてしまった方のために、これからコロシアムのルールについてお話しします!」


イアンは大きな声でルールを読み上げ始めた。


ルールは簡単だった。

参加者は全部で64名。

コロシアム初日と2日目で32試合を行い、3日目と4日目で16試合、5日目の1日で8試合を実施。その後、6日目に決勝戦を行う。

そして最終日には、優勝者を交えた特別なシークレットイベントが行われる。


「シークレットイベント?シークレットイベントって何?」

「たぶん、ザルファラ姫と優勝者の決闘じゃないかな?」

「ザルファラ姫と……優勝者の決闘?」


アリアが聞き返すと、ニールは頷いた。


「本来なら姫様はこんなコロシアムに参加できないんだ。危険なのもあるけど、姫様が参加したら、参加者たちがまともに戦えずに姫様が優勝しちゃうから。」

「なんで?」

「いくら試合とはいえ、一国の姫を傷つけたらどんなことが起こるかわからないだろ?ザルファラ姫ならそんなことはないだろうけど……」


アリアは顔を反対側の観客席上部に向けた。


コロシアムの上部。

円形闘技場をしっかりと見渡せる突き出た場所には、多くの人々が座っている。

その場所には、コロシアムを観戦するために訪れた各国の王族や高位貴族たちが集まっていた。


「毎年、これほど大きなコロシアム大会を開催していただきありがとうございます、姫様。」


一人の男性がゆっくりと彼女のもとへ歩み寄る。

真っ白に近い象牙色の髪を後ろで束ね、フリルのついた襟元に、豪華な刺繍が施されたジャケットと白い綿の手袋を身につけた男性だった。


「ああ、クロート卿。今年もこの場にお越しいただいたのですね。」


姫は席から立ち上がり、フリルのついたピンクのドレスを軽く持ち上げて挨拶をする。


「姫様が開催されるこの壮大なコロシアムは、私の一年間で最大の楽しみの一つですから。」

「そうおっしゃっていただけて光栄です。」


姫は微笑んだ。


「お話は伺っております。婚約者様にコロシアムで優勝するようにとお伝えになったとか。」


王女は目の前に座る人物をじろりと睨んだ。

すると、目の前の人物がびくりと身体を震わせ、ゆっくりと振り返った。


金色の髪を高く整え、肩章のついた赤い礼服を身に纏い、口元に深い皺と尖った髭を携えた中年の男性。

彼はぎこちない笑みを浮かべながら冷や汗を流していた。


「すまない、エクセルシア。」


エクセルシアは大きくため息をつき、微笑んだ。


「ええ、そうですわ。私が婚約者様に、コロシアムに参加して優勝したら結婚すると父に申し上げましたの。」

「さすがザルファラ国王のご息女。その勢いは国王様にそっくりですね。」

「褒め言葉として受け取ってもよろしいかしら?」

「もちろんでございます。」


クロートは頭を下げ、ザルファラ国王に挨拶をした。

ザルファラ国王は手を振り、再び前方に目を向けた。


「その方は逃げ出さずに参加なさったのですか?」

「ええ。参加者名簿に載っておりました。」

「お名前を教えていただけますか?」

「うーん……正確には覚えていませんが……『ゼルムート・ヒュデル・フォン・プル・エスペルド』……だったと記憶しています。」

「ヒュデル殿とおっしゃるのなら……」


クロートは顎に手を当てて考え込む。


「ご存じの方ですか?」

「いえ、それはありませんが……噂では聞いたことがあります。生まれつき英雄の素質を持って生まれた方だとか……ただ、今エスペルド王国は戦争中のはずですが、どうして参加されたのか……」


エクセルシアは細めた目でコロシアムを見つめる。

人間の中には、生まれながらに英雄の素質を持つ者が数人存在すると言われている。

その中の一人が、かつてヘカトスという黒竜を討伐したドラゴンスレイヤー、ベテクルトだった。

彼は幼い頃から他の人々よりも力が強く、魔法の適性にも優れ、魔剣士として非常に高い名声を誇った人物だ。

それだけではなく、彼女が知る限り、もう一人英雄の素質を持って生まれた人物がいる。


キーッ。


背後の扉が開き、一人の女性が中へ入ってきた。

ドレスではなく学園の制服を着た、柔らかな青い髪と少し下がり気味の目尻、動作の一つ一つに気品が漂う女性だ。


「あの生徒は……」

「私の客人が到着しましたね。クロート卿、申し訳ありませんが、お引き取りいただけますか?」

「あ、はい……」


クロート卿が踵を返し席へ戻る中、女性はゆっくりとエクセルシアの前へ歩み寄り、片膝をついて頭を下げた。


「アルメラ・シャルロット・デ・ヴァイントゥス・アフロニア、ザルファラ王国第一王女、ミケラ・エクセルシア・フォン・ドラヴァルラウ・ザルファラ王女様にご挨拶申し上げます。」

「お会いできて嬉しいですわ、シャルロット。こちらに来てお座りなさい。」

「ありがとうございます。」

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