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プロローグ:異世界に行ってもモブはモブのまま


 僕の名前は立川友也たちかわゆうや

 どこにでもいる平凡な高校三年生である。

 テストもほとんど平均点でたまに良い点が取れる感じ、スポーツも可もなく不可もなくだ。

 ザ・普通の高校生。

 少しは変わりたいと思い、努力をしてみるが僕は平凡モブから抜け出すことは出来なかった。

 これが自分の運命なのかと落胆した日が昨日のように思い出されるが、最近は受験もあいまって細かいことを気にしている余裕はない。



「学校とか受験なんてない異世界に行きたい……」


 僕はポツリと愚痴をもらした。

 しかし、何度想像したことか……剣と魔法のファンタジーの世界に行ってのんびりとしたスローライフを送りたいと。

 綺麗な自然と美しい星々、多種多様な文化と種族が入り混じり、魔物を倒して同じ冒険者パーティの女の子と恋仲に……

 これが理想ってやつか。

 僕は長いため息をつくと雨雲が近寄ってくる空を見上げながら、早く家に帰ろうと前を見て現実を見ようとした。

 

 だが、そんな僕の前に「あれ」は現れた。


 ーー魔剣だ。


 なぜ、この世界に魔剣が?

 僕だって怪しむようにそう思った。

 でも、あれはイタヅラとかテレビのドッキリなんかではなく本物だった。

 なにせ、刀身の全てが漆黒に染まった魔剣に触れた瞬間、僕は転生して異世界にいたのだから、、、




◇ ◇ ◇



 

「いないない、ばぁー!」


 これの何が面白いのだろうか?

 僕は隣で笑っている赤ちゃんを見て理解できないという表情をする。

 そんな僕も今では立派な赤ちゃんなのだが……

 それも双子の赤ちゃんだ。

 隣にいるのは双子の姉のラナーで僕の一度も使ったことのないヨダレかけをいつもべちゃべちゃにしてくる。

 いつか仕返しを……と、思うが、、、


 僕は母親に首を支えられながら体を抱き上げられる。

 自分の頭の倍以上に大きい胸が僕を迎えるがすぐに父親に引き渡されご褒美?のようなものは即刻終了した。

 ちょっとがっかりしている僕を受け取った父親は僕にいないないばあ(・・・・・・・)のおかわりをしてくるが僕はまったく笑えずあくびをした。

 すると、母親は眠いのかしら?と言って僕をベットに戻してくれる。

 両親は意外に優しくて人良さそうでなによりだが、前世の記憶があるため親と言う認識にはなれなかった。


 ちなみに、父親の名前はライト。

 母親はラミエラと言う。

 父親は銀髪、母親は金髪で二人ともまだ若い。

 年齢はギリ10代なのではないだろうか?

 僕が二人の年齢について考えながら寝たふりをしていると両親は先ほどまでの穏やかな表情を崩して深刻な顔をした。

 実は、転生した僕にはある問題があったのだ。



「お医者様は見つからないの?」


「すまない……。今、探している所なんだが……」


 母親の慌てるような質問に父親は申し訳なさそうに頭を下げた。

 それを聞いた母親は悲しそうな表情をして両手で顔を覆った。

 そんな母親を慰める父親だがこのまま隠し続けることはできないと思ったのか正直に言った。



「ラミエラ、スキルというのは後天的には身に付かないんだ……だから、その……ルークは一生無スキルということになってしまう」


「そ、そんな……」


 それを聞いた瞬間母親は泣き出してしまった。

 母親が泣きだすのも無理はない。

 この世界では魔法や魔力なんてものはとうの昔に失われてしまいスキルという力によって学校の成績がつき、仕事を見つけ、魔物と戦ったりする。

 このようにスキルとはこの世界を生き抜くのになくてはならない力なのだ。


 しかし、僕は転生したせいなのか生まれながらにスキルがない無スキルだった。

 スキルは父親が言った通り生まれながらに神様に与えられるものなので努力とかでは身に付かない。

 だから、僕は生涯一度もスキルを使えないのである。


 正直この事実に気づいた時は大変落胆した。

 せっかく異世界に来たのに無能力でおまけに将来が不安になるほど生きづらいとは。

 この状態では僕の理想とするスローライフなど絶対に不可能である。

 それどころか魔物に襲われて即刻あの世行きかもしれない。

 やはり、現実はどこまで行ってもモブに厳しいのだ。

 異世界に行ったら何かが変わる、変えられる……そう期待していただけに僕の心はお先真っ暗である。


 僕が落ち込んでいると両親は仕事の時間のためか二人とも身支度をして家を出て行った。

 父親は山にしばかりに……ではなく王国の役所に勤め、母親は川に洗濯ではなく……学園の新米教師をやっているというのを両親同士の会話で聞いたことがある。

 そのためか僕の家は割とお金持ちの部類だ。

 


「はぁ……」


 僕は両親が玄関の扉の鍵を閉めたことで安心したのか大きなため息を付いた。

 別に僕が前世の記憶を持つ赤ちゃんとバレなかったので安堵したのではない。

 この世界では無スキルは忌子いみごなどと言われ親が路肩に捨ててしまうことも珍しくないのだ。

 そのため、今朝も無事に朝を乗り切れたので一安心したのである。


 だが、こんな生活がいつまでも続くかは微妙な所である。

 両親の気がある日を境にコロッと変わる可能性だってないことはない。

 だからこそ、早めに自立する必要がある。

 そのためにはまず知識と力を手に入れなくては……


 僕は隣でスヤスヤと眠っている姉のラナーを確認するといつものようにベビーベッドについている落下防止の柵をよじ登る。

 赤ん坊の体力と筋力では結構キツイがコツを掴むと割とすんなりと脱出できるのだ。


 さてさて、今日はどうするべきか……?

 僕は迷いながらもとりあえず部屋から脱出すると父親の書斎に侵入する。

 ここは本が沢山あり僕はここでこの世界の言語や常識などをある程度学習しているのだ。

 とはいっても生まれてからまだ3ヶ月しか経っていないので成果はあまり期待しないでくれ。

 だが、すでに読み書きは習得したので本は読める。

 前世では英語とかさっぱりだったが、赤ん坊だっからか言語習得はかなりスムーズだったのである。

 

 僕は「イム語」と書かれた言語の本を戸棚に戻すと本棚の上から三段目に魔法と書かれた古い本を見つけた。

 魔法と言えばファンタジーの定番。

 しかし……この世界に魔法や魔力なんて存在しないと『スキル』について書かれた本に書かれていたのだが……これはどういうことだろうか?

 僕は気になったので本棚によじ登って古い本を床に落とすと、本の表紙に『国家機密』と書かれていることに気づいた。

 もしかしたら、役所で働く父が保管しているものなのだろうか?

 僕は父親が役人だったことに感謝しながら本のページをめくった。


 

(魔法陣に詠唱……)


 僕はページをパラパラとめくりながらふと手を止めた。

 何かしら試してみたい。

 そんな気持ちで眺めていたのだが空が飛べるほどの風を起こせる魔法なんて書かれていたら誰だって使ってみたくなる。

 僕は右も左も分からないが詠唱を口に出して読むことにした。

 しかし、発音の勉強などしたこともなく、まだ赤子のせいで滑舌が上手く回らない。



(やっぱり、モブは何をしても上手くいかないのかな……)


 僕はがっくりとうなだれて本を枕に大の字になって寝転がる。

 上手くいかないとすぐに投げ出す。

 僕の悪い癖だ。

 僕は改めて自分がいつまでも成長しない理由に気づいて痛感する。

 だが、ここで魔法が使えなかったら僕は果たして異世界で生き残れるのだろうか?

 ただでさえ無スキルというハンデを背負っているのだ。



(本気出して頑張ってみるか……)


 まだ赤ん坊。

 時間は沢山あるのだ。

 だが、時間を無駄にしないためにも今できることをやろう。

 僕は詠唱を暗記したら魔法の仕組みについて頭に叩き入れることにした。



(風魔法……)


 僕は詠唱を心の中で何度も読み上げながら空を自分を想像した。

 すると、本のページがどこからか入ってきた風によってパラパラと音を立ててめくれあがる。

 一体どこから入ってきた風だ?

 僕は施錠された窓を見上げると慌てて重厚感のある机の足にしがみついた。

 なにせ、床からまるで僕を飛び立たせようとする突風が吹き上げていたからだ。

 

 まさか魔法?

 僕はこれ以上風が強くなると家の屋根が吹き飛んでしまうので弱回るように必死に念のようなものを送る。

 しかし、風は僕の意思に反してさらに強く吹き上げると、書斎の本を全てバラバラにし竜巻のように回転すると窓ガラスを割りカーテンを呑み込んで屋根を破壊した。



(嘘……!?)


 全てが終わった時、僕は何かも消え去った二階にただ一人立っていた。

 まだ立てない年頃のはずなのに体が無性に軽いのだ。

 そう、これこそが魔力。

 そして、この魔力に属性と形を与えたものこそが……


 この世界で失われた魔法なのだ。


 この日、僕は魔力に目覚め魔法を使えるようになったのだった。


――次回に続く。


 

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