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出会い

とある喫茶店で。

「チューイングガムって、紅茶と合うもんなの?」

 先輩は、正面にいる僕を、ゲテモノを見るような目つきで見てきた。

「わかんないです。でもこうすると落ち着くから。」


 都心部ということもあってか、オフィスの周辺の存在する飲食店の‘ランチ競争’は甚だしく、大通りにたいていの店が集結し、お昼時になれば歩道の半分がその客で埋まっているのが日常だ。

 そんな‘’昼食難民”の僕たちにとって、この「喫茶店Ruby」は‘画期的な発見’だった。(先輩がここを見つけた時そう表現していたのだ。)

 先輩が周辺の情報をsnsで収集していた際、ここを見つけたのだ。そして僕は先輩に言われるがままにその喫茶店に連れて行かれた。

 大通りから外れ、ちょっとした裏路地を行った後、どんつきを左に曲がる。すると大通りの清潔感とは離れた、換気扇の群れと店毎に設置されているゴミ箱が並ぶ通路に入る。

 その薄暗く狭い通路を2分ほど歩いた先に、西洋風のランプに照らされた緑色の洋扉が現れる。ぼわあとでも言うような古来式のランプの中で揺れる小さな灯火が、迷宮とでも言える経路を突破してきた僕たちに小さな安らぎを与えてくれるような気がした。

 そしてチリリンという音と共にドアを開けると、アンティークでセピアな世界が展開された。

 コツコツと木張りの床板が揺れる音と共に席に着く。すると間もないうちに白シャツに蝶ネクタイをつけた老紳士がストレートティーを注いで僕たちをもてなしてくれる。

 そして名物である「カップオムライス」を注文した。

すると老紳士は「かしこまりました」と落ち着きのあるしゃがれたよく響く声でそう言った。

 四角いカップにオムライスの卵が見える状態でそれは運ばれて来た。

 正方形の形をした陶器の容器の中に、滑らかな焼き加減で閉じられた卵が美しく映えている。

 銀白な光沢を発する豪華な彫刻が施されたスプーンでそれを掬うと、中にあったケチャップライスと共にあったチーズが伸びた。

 味はご想像にお任せする。

 そしてデザートのバニラアイスのラム酒掛けを頂き、今日のランチは終わったかのように思えた。

「お会計お願いします」と僕が店員の老紳士に声を掛けた。

 すると老紳士はこう訊いてきた。

「浅井野航平様でございますね」

 なぜ僕の名前を知っているんだ、と驚きつつも僕は

「はい」

 と答えた。

「お会計はもう済んでおります。」

「えっ」

思わず声を上げてしまった。見渡す限り、それらしき人物はいない。なぜなら先輩と僕以外に客はいなかったからだ。

キョロキョロと見回す僕の様子を見て老紳士は言った。

「亡くなったあなたの祖父、浅井野権四郎様より『もし孫がこの店に来たらよくしてくれ』とのご命令がございましたので。さぁ、これを受け取ってください。」

 ギョッとしつつ老紳士、いや、御前崎さんは僕の右手を取って何かを渡してきた。

「私の電話番号でございます。もし何か‘助け’が必要になりましたら、お声がけくださいませ。」

 御前崎さんはまるで昔を懐かしむような目をしていた。きっとこの人は僕の祖父と何か関係があるのだろう。おそらく、だいぶ若い頃からの関係がある人だ。

「わ、わかりました。えっと、その時は、お世話になります…」

 僕は若干タジついた口調になってしまったのを恥じた。

その場を離れようとした時、先輩がその様子を遠巻きに眺めていたのが見えた。僕は仕事の存在を思い出したため、そそくさと準備をして店を出る準備をした。

 扉に手をかけた時、御前崎さんは丁寧なお辞儀で

「またのお越しをお待ちしております」

 と言ってくれた。妙に深みがあったように思えた。


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