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第5話 重大な秘密

 私達三人は魔王に視線を向ける。

 魔王は私達の真剣な眼差しに頷いた。魔王が一歩前に出る。魔王の動きに伴いガラスのような壁も一緒に動いた。

 美しい顔が近くに迫る。迫力がある美人だけど、今は少し親しみやすくなったように思う。多分表情のせい。人間くささがとても親しみ易く感じさせる。

「わたしは事実しか話さないよ。君達にとっては信じ難い内容がいくつかあるが、覚悟はいいかい?」

 私は目を見開き魔王の言葉を待った。テオはゆっくりと大きく頷き、リックは小さく頷いた。

「まず魔物災害についてだけど、あれは各国の王がコントロールしてるんだ」

「は?何を言ってるんだ?バカなことを言うな!」

 リックが大きな声で反論する。私は思わず口元を押さえた。こちらの世界の父母が亡くなったのは魔物災害のせいだ。父母が戦い、あの時の魔物災害は死者が村の半分だった。それは奇跡に近いこと。普通は魔物の集団に襲われた村や街はほぼ壊滅する。それが、各国の王の仕業だと言う。

 私は自分の髪と同じ色の髪を短く整えた現国王の顔を思い浮かべた。私にとっては祖父に当たる人。リックにとっては父親だ。

(王は自分の娘を魔物災害に襲わせて殺したと言うこと?)

 一瞬息の仕方を忘れてしまう。息苦しさを感じて自分が息をしていないことに気づく。私はとにかく意識をして大きく息を吐く。身体の中の空気がなくなると勝手に肺が空気で満たされた。私の体は生きているのだと実感する。

 顔を上げる。目の前にリックの背中が震えている。テオの意外に大きな手がリックの背に置かれたままだ。私はもう一度リックの左手を取り、力強く握りしめた。リックは、一度大声を出したものの、震えながらもその事実を受け止めようと必死で耐えているようだった。

 テオは、魔王から視線を動かさない。

 私は鞘に収まっている愛剣の握りに左手の第二指と第三指を滑らせる。指先で握りを撫でる。少し落ち着いてきた。

 私は愛剣を指先で撫でながら魔王を見る。これ以上の衝撃なんてないはずだ。目線を魔王に移すと魔王と目があった。優しくこちらを見ている。

「ギプソフィラ、落ち着いたかい?」

 その視線に覚えがあった。どこかで感じた視線。

(魔王と私は初見ではない?)

「私とあなたは過去に出会っているの?あなたの視線、覚えがあるわ」

 テオもリックもこちらを振り返る。私の手もテオの手もリックから離れた。

 リックからは「意味がわからない」という視線が送られる。まぁ、それは普通のこと。一方でテオが「やっぱりフィラも僕と同じ転生者だったんだな。そして、魔王も?」とでも言いたげな視線を送ってくる。

 いや、私は確かに転生者ではあるけれど、それは言うつもりはない。

(私が言っている過去は今世の過去のことなんだけどな)

 私は二人に物言いたげに見られても反応を返さなかった。ひたすらに魔王を見続ける。

 魔王が、フフフと嬉しそうに笑う。

「嬉しいな。やっぱりギプソフィラ、君は素晴らしいよ」

 そう言いながら、姿を変える。目の前で魔王の姿がキトになる。それと同時にガラスの壁は消えた。真っ白な毛並みの猫。こちらでは「キト」と呼ばれている。サザエさんのタマと言えば分かりやすいだろう。

「あ、王城にいた白いキト」

「どこにでも現れる白猫」

 二人は同時に呟いた。テオはもうキトを「キト」と呼ぶことを諦めていた。六年前からずっと「猫」という。テオに慣らされて、私たちの周りでも「キト=猫」というのは常識になりつつある。それが日本語ということを知っているのはテオと私だけなんだろうと密かに思う。

 ただ、二人いるってことはもしかしたら他にも転生者はいるかもしれない。

 

 真っ黒だった魔王が真っ白なキトに変身したのが不思議だった。

(黒猫じゃなくて白猫なんだ)

 のんびりそんなことを考えているとキトの姿の魔王は一蹴り高い跳躍をして私の足元までやってきた。ゆっくりと体を私の足に押し付けてくる。

「これで君の疑問は解けたかい?」

 魔王の声に幼さが混じる。キトの口から人語が発せられることに少しだけ違和感を持ったものの、それはすぐに霧散した。

(なんでもいいけど、これは反則よ。可愛すぎる!!)

 私の顔が可愛いキトを目の前にして崩れ落ちる。そう、私は猫が好きだったし、こちらの世界のキトも好き。正確には猫とキトは同じではない。キトには魔力があるから。それでも姿形、鳴き声が同じなら、ほぼ同じで間違いないはずだ。そんな細かいことを言えば、こちらの人間と転生前の人間は別の生物ということになる。だってこちらの人間には魔力があるし、魔石が生まれた時から体の中にある。だから、転生前の人間とこの世界の人間が同じ人間なら猫とキトも同じで間違いない!

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