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第41話 ギプソフィラと王

 豪華なシャンデリアが宙に浮いている。何本あるかわからない蝋燭が辺りを煌々と照らし、シャンデリアをキラキラと輝かせていた。

 私は大きな机の一角に座り、上を向いてそれを眺める。テオが珍しく落ち着かない様子で、私の隣の席に座っては立ち上がり、机の周りを歩いてはまた座るを繰り返していた。

「テオ、珍しいね。緊張してる」

 テオがこちらを向いてため息を吐く。

「フィラは落ち着きすぎだよ。まぁ、フィラにとっても身内だもんね。僕だけが他人だし……」

 私の隣の席に腰を落としながら、ブツブツと呟く。

 ここは妃の塔の一室。隣の部屋では今、リックとリックの母親の第五王妃と王が会食をするために集まっているはずだ。この席を譲ってくれた第五王妃には感謝しかない。月に一度の家族団欒に割って入るのだから。

 コンコン。

 ドアがノックされる。

 私とテオは席を立ち、ドアを開けた。

 そこに立っていたのはキラキラと輝く金髪を綺麗に結い上げた栗色の瞳が美しい第五王妃だった。王妃の後ろに少し申し訳なさそうなハロルドが立っている。

 私もテオも膝を折って挨拶をする。

「ルーシー妃殿下、この度はありがとう存じます」

 私が言葉を述べる間、テオは頭を垂れ、同意の意を示す。

 私の挨拶にニコリともせず、王妃殿下は頷いた。

(整った人の真顔は怖いな)

 王妃殿下が動かないので、私たちも動けない。王はもう隣にいるのだろう。リックと王二人で、リックは大丈夫だろうか?心がそわそわとしてくる。

「お前たち、何か重大なことがあったのだろう。しかし、王を困らせぬよう、王のお手を煩わせぬよう、気を引き締めよ。セドリックがどうしてもというゆえ、仕方なく今回は王との時間を譲るが、次はない」

 王妃殿下がそれだけ口早に告げ、踵を返した。自室へと下がられる妃殿下に、王妃殿下付きのメイドが一人付いて歩いているのが見える。

 ハロルドが申し訳なさそうな顔をしたままで「妃殿下は今日を楽しみにしておられたようです」とだけ告げた。私とテオは顔を見合わせた。実は彼女とは一度もこんなに近くで話したことはない。ただ、王族というものは感情をうまく隠すように教育されると聞いていたけれど、彼女はとても素直でストレートな人だった。

 私たちは気を取り直して、隣に待つリックのところに急いだ。


 扉を開けると静かな空間が広がった。リックと王がいるはずの部屋なのに、人の気配さえない。もう結界が貼られている状態だった。

 テオが気づいて、結界内部の人間に知らせを送る。私には出来ない繊細な魔法。私だと結界を壊してしまう。

 静かな空間に音と人の気配が突然に広がった。その部屋には王と王の侍従、騎士団数名とリックがいた。リックがリラックスした顔をしている。

 リックが私たちに気づいて手をあげる。

「あ、テオとフィラが来ました、父上」

 王がこちらを振り返った。リックがなぜあんなにリラックスしてるのか分からないほど、王の顔から殺気にも似たオーラを感じる。いや、確かによく見れば、王の顔は目尻を下げ、口角をあげ、一見笑顔だけど……。

 私が目を見張る中、テオも何も気づかないようで、私の背中を押す。私の重い体をテオの手が部屋の中へと誘導した。

 私とテオは王の前で膝を折る。王と私はよく似た顔立ちをしている。髪の色が同じで目も鼻も口も形がよく似ていた。違いといえば、若いか歳をとっているか、女か男か、王か勇者か。一番の違いは目の色で、私はピンクで王は黒だ。

 でも、多分違いはそれくらい。こんなに近くで接することはないし、こんなに近くで私たちが並ぶことはなかったから皆気づかなかったようだ。

 この部屋に私が入ると部屋が水を打ったように静かになった。皆が目を見張っている。

 王が先に声を発する。

「挨拶は良い。食事を先にとろう。腹が減ったからな」

 私たちは頷くことしか出来ない。

 王の後ろに控えていた侍従が動き出す。侍従と言えど公爵位をもつ貴族だ。

「陛下、軽くつまめるサンドウィッチにしてお話をされた方がよろしいかと存じ上げます」

 彼の言葉に王が頷く。

「勇者様方もお座りになって下さい」

 彼のその声で騎士が動く。王の座る左隣と王の前の席の椅子が引かれる。私が王の左にテオが王の目の前に座る。王の右隣にはすでにリックが座っている。

 私は王の隣に座り落ち着かない。

 リックもテオもマジマジと私と王を見る。

 騎士たちの視線さえ固定されている。

「しょうがなかろう。ギプソフィラに流れる血の半分は私なのだから」

 王があっけらかんとしてそう声に出した。

 誰も何も言えずただ不躾な視線を送ってきていたけれど、その一言で、視線が一気に王にのみ注がれる。

 私の母が王の第二王女であったことは皆は知らない。「その血の半分」なんていうと誤解されるのではないかとちょっと心配になる。

「陛下、おやめ下さい。皆が驚いています」

 先ほどから王の周囲を取り仕切っているのはアドラム公爵。彼は王の忠実な僕だ。王のためにならないことは諌め、王のためならば人道に反することもするであろう人物。

(この人が実行部隊を率いているのかも)

 漠然と頭に浮かんだ考えを追い出すように頭を振る。

 あまり先入観なく話をしなければならない時に色々考えるのは危険な行為だ。自分の考えに引っ張られてしまう。

 隣をチラリと見る。テオの顔が怖い。視線の先はアドラム公爵。

(テオが思考の罠にハマってる)

 私は頭を抱えたくなった。

 リックを見る。私たちがいない間にどんな話をしてたのか分からないけれど、リラックスし過ぎている。これから話す内容を覚えているのだろうか。

 隣に座る王をチラリと見る。

 視線が合う。

 私は慌てて視線を外した。

(この王は今日何を話したいのかもうわかっているのかもしれない。はぐらかされず、ちゃんと話ができるだろうか?)

 もう一度チラッと王の方に視線を向ける。

 また目があった。最初に感じた殺気にも似たオーラをその目に感じる。私は慌てて目を逸らす。

 そのまま、窓の外に目をやると細い細い月が見えた。今日で欠ける月は終わる。明日からは満ち始めるだろう。

 今日が転換点だ。

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